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BOEは利上げ幅を再拡大

~50bp利上げは1回限りか、8月も継続か?~

田中 理

要旨
  • 物価や賃金の上振れが続く英国では、BOEが6月のMPCで利上げ幅を過去2回の25bpから50bpに再加速した。先行きの利上げ継続を示唆したものの、次の利上げ幅が50bpとなるかは明言せず、今後のデータに基づいて判断することになる。筆者は8月、9月、11月のMPCで各25bpの追加利上げを決定し、政策金利のターミナルレートが5.75%になると予想する。だが、物価や賃金の高止まりが続き、8月の50bp利上げや、12月以降も利上げが継続される可能性もあり、6.0%のターミナルレートも射程圏にある。

英イングランド銀行(BOE)は22日に6月の金融政策委員会(MPC)の結果を公表し、ベース金利(政策金利)を2008年秋以来となる5.0%に引き上げた。足許の景気、物価、労働関連指標の上振れを受け、今回のMPCでの追加利上げは事前に広く予想されていたが、利上げ幅を25bpから50bpに再加速した点がサプライズと受け止められた。BOEは昨年8月以降、50~75bp刻みの利上げを続けてきたが、過去2回は利上げ幅を25bpに縮小していた。利上げは2021年12月以来、13会合連続で、通算で490bpに上る。ベイリー総裁を含む7名の政策委員が50bpの利上げを主張し、過去数会合と同様にディングラ委員とテンレイヨ委員の2名が金利の据え置きを主張した。再ハト派のテンレイヨ委員は今回のMPCを最後に退任し、次回8月のMPCでは民間企業のエコノミストを務めているグリーン氏が新たに政策委員に就任する。グリーン氏は政策委員就任に先立って行われた議会の公聴会で、「金融政策の休止と再開を繰り返せば、結果的により多くの引き締めが必要となり、さらに深刻な景気後退を招く恐れがある」と指摘するなど、退任するテンレイヨ委員と比べてタカ派に位置する。8月のMPCでは利上げ支持派が1名増えることが予想される。

BOEは利上げ再加速が必要になった背景を、外生的なショックによる物価や賃金の二次的効果(波及)の剥落に時間が掛かっていること、労働需給の逼迫や底堅い需要に伴うインフレ圧力の高まり、先行きの賃金や物価の上昇率鈍化を示唆する経済指標の先行性が現在の高インフレ期にも当てはまるかが不透明であると指摘し、今回の会合では50bpの利上げが必要になったと説明している。13日に発表された労働統計では、4月から遡って3ヶ月の民間企業の週当たり平均賃金が前年比+7.6%と、前月の同+7.1%から再加速し、5月時点のBOEの想定(金融政策レポート)を上回った。21日に発表された5月の消費者物価は前年比+8.7%と前月から不変ながら、上昇率鈍化を見込んでいたコンセンサス予想やBOEの想定を上振れた。最近まで続いた半導体不足が尾を引いている中古車価格の高止まり、例年と比べてイースター休暇の時期がずれたことに伴う航空運賃やパッケージ旅行価格の上昇が物価の上振れをもたらした。先行きについては、賃金やサービス物価の動向など、持続的なインフレ圧力の兆しを引き続き注意深く観察し、より持続的な圧力を示す証拠があれば、更なる金融引き締めが必要になるとの従来の政策指針(フォワード・ガイダンス)を維持した。MPCはその責務に沿って、中期的なインフレ率が持続的に2%の物価目標に復帰するうえで必要な限り、政策金利を調整するとしており、今後も利上げを継続する公算が大きい。据え置きを主張した2名を除く7名の政策委員が揃って50bpの利上げに賛成したことからは、MPCメンバー内でインフレ圧力の継続に対する警戒が高まっていることが示唆される。ただ、先行きも50bpの利上げが必要になるかどうかについての踏み込んだ発言はなく、今回の利上げ幅再加速は、足許の物価や賃金の上振れを反映したものであったと考えられる。8月の利上げ幅が再び50bpになるかどうかは、それまでに発表される経済・物価関連指標がBOEの想定をさらに上回るかどうかに依存する。筆者は8月、9月、11月に各25bpの追加利上げを決定し、政策金利の最終到達点(ターミナルレート)を5.75%と予測するが、物価や賃金の高止まりを考えれば、8月の50bp利上げや12月以降の利上げ継続も視野に入り、6.0%のターミナルレートも射程圏にある。

物価の高止まりと利上げ継続は、早期の減税を否定するスナク首相やハント財務相にとっても痛手となる。英国民の間では生活費の高騰や住宅ローン金利の上昇による家計生活への打撃に不満が広がっている。スナク首相はBOEの利上げ決定を擁護するとともに、自らの政治公約の1つでもあるインフレ封じ込めに自信を覗かせた。だが、来年にも総選挙を控え、劣勢が続く与党・保守党の内部からも、BOEがインフレを抑制できていないことや、住宅ローン金利の上昇による家計への打撃などに不満の声が上がっており、早期減税を求める意見も根強い。政権奪取が濃厚な野党・労働党は、家計支援の強化に意欲をみせるが、具体的な政策は明かしていない。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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