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- 電気代・ガス代補助金の行方とCPI
- 要旨
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- 23年1月から実施されている電気代、都市ガス代の負担軽減策は、9月に補助金が半減、10月に終了する予定となっている。ただし、家計負担が懸念されるなか、延長される可能性は残る。
- 予定通り9月半減、10月終了の場合、補助金によるCPIの押し下げ寄与は現在の▲1.0%Ptから11月にはゼロに縮小、24年2月には+1.0%Ptの押し上げに転じる。9月に補助を半減したまま延長するケースでは、23年11月に▲0.5%Ptにマイナス寄与が縮小したまま24年1月まで推移、24年2月以降に+0.5%Ptの押し上げとなる。現状のまま延長される場合には▲1.0%Ptで24年1月まで推移、24年2月以降に寄与度はゼロとなる。
- 今後の補助金をどう想定するかによってCPIは非常に大きな影響を受けるため、今後の議論の行方について注視する必要がある。仮に電気代、ガス代補助金が予定通り9月に半減、10月に終了となれば、23年末段階でもCPIコアが+2%台後半で推移し、前年の裏が出る24年2月には再び瞬間的に+3%台乗せといった展開も十分想定できる状況。
電気代、ガス代補助金は本当に終了できるのか
政府による経済対策として、23年1月使用分(CPI反映は2月分)より電気代、都市ガス代の負担軽減策が実施されている。これにより2月以降の消費者物価指数は大きく押し下げられている(CPIへの寄与度は▲1.0%Pt)のだが、この措置は1月から9月までの期間限定であることに注意が必要だ。具体的には、1月から8月まで補助金が満額支給された後、9月使用分で補助金が半減、10月からは補助金が終了する予定となっている1。
もっとも、実際にこの予定通りに事が進むかどうかは分からない。政府からすると、期間限定で電気代、ガス代が特別に引き下げられていたものが元に戻るだけということなのだが、消費者には電気代の大幅値上げと受け止められる可能性は十分ある。6月に電気代規制料金の大幅値上げがあった後だけに、9月、10月と連続しての大幅価格上昇は家計にとって非常に痛い。「また上がるのか」と、政府への批判に繋がる可能性があるだろう。こうした状況が政治的に許容されるだろうか。
過去に多くの例があるとおり、いったん始めた支援策を取りやめることのハードルは高い。電気代、ガス代の負担軽減策についても予定通りに終了せず、延長される可能性は残る。
負担軽減策の今後については、①予定通り9月に補助金半減、10月に終了、②9月に補助金半減、10月以降も半減したまま制度延長、③9月の半減も行わず、現行制度のまま全額延長、④10月から別の支援策を実施、という4つのケースが考えられる。④については、家計にエネルギー負担軽減を名目とした直接給付を行う、割引率を縮小しつつ適用範囲を広げるなどが考えられるだろう。
ここでは、①~③について電気代、ガス代補助金の消費者物価指数への影響度合い(対前年比)を検討する(④についてはどういった支援策になるのか明確に想定できないため除外)。なお、消費者物価への反映は1カ月遅れになることに注意が必要である(たとえば、9月使用分の補助金半減のCPIへの反映は10月分からとなる)。
大きく異なるCPIへの影響
まず①の9月半減、10月終了ケースでは、23年度後半~24年度前半のCPIが大きく押し上げられる。具体的には、現在▲1.0%Ptである押し下げ寄与が10月に半減して▲0.5%Pt、11月にはゼロとなる。また、24年2月には前年(23年2月)の下落の裏が出ることから前年比では+1.0%Ptものプラス寄与となる。現状の▲1.0%Ptと来年2月以降の+1.0%Ptの寄与度差は2.0%Ptにも達する。 ②の9月半減、そのまま延長ケースでは、影響は多少マイルドになる。具体的には、押し下げ寄与が10月に半減して▲0.5%Ptになるまでは①と同じだが、10月以降も▲0.5%Ptのマイナスが続く点が異なる。その後、24年2月には前年の裏が出て+0.5%となる。
③の全額延長ケースは最も押し上げが小さくなる。24年1月まで現在と同じ▲1.0%Ptの押し下げが続き、24年2月以降は前年の裏によりゼロで推移することになる。③であっても、来年2月にはマイナス寄与分が剥落し、CPIの押し上げ要因になることに注意が必要だ。
このように、今後の補助金をどう想定するかによってCPIは非常に大きな影響を受ける。筆者は現状、②の「補助金を半減したまま延長」あたりが現実的と考えているが、今後の政治情勢次第で実際にどうなるかは分からない。ただ、いずれにしても、23年度後半から24年度前半にかけて、補助金半減・終了によるマイナス寄与の剥落や前年の裏による押し上げが発生することで、程度はともあれCPIは前年比で大きく押し上げられることになる。資源価格下落の影響により、原燃料費調整を通じて電気・ガス代が下落することである程度相殺されるとはいえ、今後のCPIが押し上げ圧力を受けやすいことは間違いないところだ。
消費者物価指数は23年後半にかけて前年比で鈍化していくことが予想されているが、企業の価格転嫁意欲は非常に強く、従来の想定以上に物価上昇圧力は大きい。仮に電気代、ガス代補助金が予定通り9月に半減、10月に終了となれば、23年末段階でもCPIコアが+2%台後半で推移し、前年の裏が出る24年2月には再び瞬間的に+3%台乗せといった展開も十分想定できるところだ。このように、今後のCPIを展望するにあたっては、政府による電気代、ガス代補助金の行方が大きく影響する。どういった着地になるか、今後の動向を注視したい。
1 厳密に言うと、補助金は1月から9月までとしかアナウンスされておらず、10月以降については言及されていない。延長に含みを持たせた表現とも言えるが、基本路線としては政府は9月までで補助金を終了することを想定しているとみられる。
新家 義貴
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 新家 義貴
しんけ よしき
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経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測
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