電気代値上げとCPI

~規制料金大幅値上げでCPIコアを+0.2~+0.3%Pt押し上げ~

新家 義貴

要旨
  • 6月1日より、電力大手7社において電気料金の大幅値上げが実施されている。規制料金には燃料費調整における上限の存在により上限が存在することから、昨年の燃料費高騰の価格転嫁ができておらず、電力会社の収益が大きく圧迫されていた。今回の値上げはこうした状況を受けてのもの。
  • 政府の指示により当初の申請対比で値上げ幅は圧縮されたが、それでも大幅な値上げとなる。この影響で、6月分のCPIコアは+0.2%~+0.3%Pt押し上げられる見込み。
  • 食品値上げの持続や企業の価格転嫁意欲の強まり、電気代の値上げ、ガソリン補助金の縮小など、値上げ要因は目白押し。CPIは23年後半に鈍化方向で推移するが、そのペースには不透明感が強い。CPIコアが前年比+2%を割り込むタイミングは24年に後ずれする可能性が高まっている。

6月から電気代が大幅値上げ

6月1日より、電力大手7社において電気料金の大幅値上げが実施されている。電気料金には、電力会社の裁量により自由に料金等を設定できる自由料金と、様々な規制が存在する規制料金が存在するが、今回値上げされたのは規制料金である。

電気料金の算定には、輸入燃料価格の変化を料金に反映させるための燃料費調整という仕組みが存在し、過去の燃料費をもとに自動的に電力料金が調整される。ただし、規制料金では、需要家保護の観点から燃料費調整における上限が存在する。具体的には、実際の平均燃料価格が、各社が設定する基準燃料価格から1.5倍に達した場合、それ以上の燃料費調整による料金引き上げは行われない。

もっとも、ウクライナ戦争等をきっかけとした昨年の資源価格の高騰や円安の急激な進展等を背景として燃料価格は急上昇し、大手10社すべてで燃料費調整の上限を大きく突破していた。その結果、電力会社は燃料コストの大幅上昇を転嫁しきれない状態が続き、収益を大きく圧迫する要因になっていた。こうした状況を受け、電力大手7社から、規制料金を改定(値上げ)するための認可申請が出された。当初の申請では約3割から5割の値上げ、値上げ時期も4~6月とされていたが、消費者負担の増加を懸念する政府が値上げ幅の見直しを指示したことで、最終的には値上げ幅は14%~42%に圧縮、値上げ時期も6月に後ずれすることで決着した。

CPIを+0.2~0.3%Pt押し上げか

当初の想定から圧縮されたとはいえ値上げ幅は大きい。家計負担もその分増え、CPIへの影響も生じることになる。なお、総務省に問い合わせたところ、今回の電気料金の値上げは6月分のCPIから反映されるとのことである。

CPIの電気代では、以前は規制料金のみが調査の対象となっており、自由料金の動向は反映されていなかった。しかし、前述の燃料費調整上限到達等により規制料金と自由料金の動きに大きな差が生じることになった点を踏まえ、22年4月分より作成方法が変更となり、現在では規制料金、自由料金ともCPIに反映されるようになっている。

今回の値上げは規制料金についてのものであり、自由料金は影響を受けない。とはいえ、規制料金の値上げ幅は非常に大きく、CPIも相応の影響を受けるだろう。CPIにおける規制料金、自由料金のシェアが非公表であるため正確な試算はできないが、今回の値上げにより6月のCPIコアは+0.2%~+0.3%Pt押し上げられると予想される。

5月のCPIコアは、再生可能エネルギー発電促進賦課金大幅に引き下げられたことにより電気代が下落することが影響し、前年比の伸びが鈍化する見込みである(再エネ賦課金引き下げの影響は▲0.2%Pt程度)。もっとも、6月には本稿で述べた規制料金の大幅値上げにより電気代は再び押し上げられることになる。電気料金値上げが再エネ賦課金引き下げの影響を打ち消す形で、6月のCPIは再び伸びを高める可能性が高いだろう。

食品値上げの持続や企業の価格転嫁意欲の強まりに加え、電気代の値上げ、ガソリン補助金の縮小など、値上げ要因は目白押しである。輸入物価の下落に象徴されるように、コスト上昇圧力が弱まりつつあることや、22年のCPIの上昇ペースが非常に速かった裏が出ることから、CPIは23年後半に鈍化方向で推移するとみられるが、そのペースには不透明感が強まっている。CPIコアが前年比+2%を割り込むタイミングは24年に後ずれする可能性が高まっていると言えるだろう。

新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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