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6月ECB理事会レビュー

~利上げ休止はまだ先、9月も利上げ継続へ~

田中 理

要旨
  • ECBは広く予想された通り、6月の理事会で25bpの追加利上げを決定するとともに、今後の利上げ継続を示唆した。ラガルド総裁は7月の追加利上げを事実上明言。同時に発表されたスタッフ見通しでは、単位労働コストの上昇を受け、コア物価を大幅に上方修正した。総裁は2025年の物価見通しが高過ぎると指摘、このことは9月以降の利上げ継続の可能性を高める。筆者は9月も25bpの追加利上げを決定し、預金ファシリティ金利のターミナルレートを4.0%に引き上げる。

ECBは15日の理事会で25bpの追加利上げを決定。昨年7月の利上げ開始から8会合連続で累計400bpの利上げを実施し、利上げ開始時点で▲0.5%にあった下限の政策金利(預金ファシリティ金利)は3.5%に引き上げられた(図表1)。これは2008年の前回利上げ局面のピーク水準(3.25%)を上回り、あと25bpの利上げで2000年後半~2001年前半にかけての過去最高(3.75%)に達する。

図表1
図表1

声明文では、「物価上昇率は鈍化してきているが、高過ぎるインフレ率が長く続き過ぎている(too high for too long)」ため、追加利上げが必要になったと説明。先行きについても前回同様に、「インフレ率を遅滞なく2%の中期的な目標に戻すため、政策金利を十分に抑制的な水準に引き上げ、必要な限り、その水準を維持する」と述べ、利上げを継続する方針を示唆した。さらに、データに基づいて金融引き締めの適切な程度と期間を判断するとし、具体的には、今後新たに入手する経済・金融関連のデータ、基調的なインフレ率の推移、金融政策の伝達の強さに照らして、インフレ率の見通しを再評価すると説明した。ラガルド総裁は理事会後の記者会見で、「利上げの旅路はまだ終わっていない」、「ベースラインのシナリオに重大な変化がない限り、7月も引き続き政策金利を引き上げる可能性が極めて高い」と指摘し、7月の追加利上げを事実上明言した。

新たに公表したECBのスタッフ見通しでは、ユーロ圏の実質GDP成長率を3月の前回見通し対比で2023・24年を小幅下方修正し、2025年を据え置いた(図表2)。より注目されるのは、物価見通しの上方修正で、原油や天然ガス価格の前提を全般に下方修正したにもかかわらず、変動の大きいエネルギーと食料を除いた米国型コア消費者物価が2023・24年が各+0.5%ポイント、25年が+0.1%ポイント上方修正された。ラガルド総裁も最近の賃金上昇率の加速などを反映し、単位労働コストやサービス物価が上方修正されたと説明。過去数四半期の成長率が停滞した一方で、雇用の力強い拡大が続く「労働市場の謎(labour market enigma)」と言及した。ラガルド総裁はインフレがインフレを呼ぶ「二次的効果(secondary effect)」の兆しは確認されないとしたが、単位労働コストの上昇が続けば、企業が更なる価格転嫁を開始する恐れもある。

過去数年、消費者物価のスタッフ見通しは、実績値の上振れで上方修正を繰り返してきたが、前回3月の見通しでは両者の乖離が縮まり、逆に下方修正した(図表3)。今回は僅かながら再び上方修正を余儀なされ、沈静化に向かったと思われた物価がECBの想定対比で上振れしていることが示唆される。ラガルド総裁は、2025年に2.2%の物価見通しは、満足の行く水準(に抑制されている訳)でも、タイムリー(に2%の物価安定に復帰している訳)でもないと指摘。2025年の物価見通しを下方修正する材料は見当たらず、今後も追加利上げが必要となる可能性がある。筆者は従来想定していた7月の25bpに加えて、9月も25bpの追加利上げが行われると利上げ予想を変更する。これにより下限の政策金利でみた利上げの最終到達地点(ターミナルレート)は4.0%と予想する。

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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