骨太方針2023のポイント(総論編)

~最優先事項は「好循環実現の芽を潰さない」~

星野 卓也

要旨
  • 2023年の骨太方針の原案が公表。「新しい資本主義」:大きな政府・中長期計画投資重視の大枠は昨年骨太から不変だが、大きな論点として少子化対策と労働市場改革が追加された。財政再建計画は維持されたが、将来の新たな計画策定を示唆する文言が盛り込まれた点も重要。
  • 政府の計画投資において「多年度での財政中立」、つまり歳出拡大の先行を認める旨が明記。少子化対策も歳出先行を認める方向で議論されており、財源確保による財政政策の引き締めにより、足元の「経済好循環実現の芽を潰さない」ことが志向されている。
  • 原案では少子化対策や防衛に関する一部項目がブランクになっている。いずれも財源確保が議論されている項目だ。来週予定の閣議決定までには具体化されるとみられるが、思い出されるのは昨年の骨太で原案の文章をめぐって与党で議論が紛糾し、閣議決定で文言追加に至ったこと。今年も閣議決定に至るまで紆余曲折があるかもしれない
目次

少子化対策・労働市場改革・経済財政の枠組み検討が新論点

7日に経済財政諮問会議から骨太方針の原案が示された。毎年の政府の経済財政政策の大きな方向性を定める文書だ。政府は今回の原案をもとに議論を続け、16日の閣議決定を目指す方針である。

今回の骨太方針は昨年と同様の5章構成である(資料1)。岸田首相の経済政策である「新しい資本主義」の考え方や全体像について説明がなされている。主軸は、第2章に据えられている政府による長期・計画投資の強化とそれを呼び水とした民間投資の喚起である。世界潮流となっている大きな政府、産業投資の強化の重要性が説かれているほか、人、GX、DX、スタートアップ、科学技術・イノベーションは投資拡大の重点分野として昨年に引き続き取り上げられている。また、第3章では国際環境の変化に伴う外交・安全保障や経済安全保障等の推進が掲げられている点も昨年と同様だ。

今回の骨太方針は、官民投資の強化を掲げた昨年の骨太方針の考え方や方向性を踏襲しつつ、新たな重要論点として、①足元で加速している少子化対策・こども政策、②転職活発化などを企図した三位一体労働市場改革による構造的賃上げ、が加わった格好だ。また、財政再建計画は前年から踏襲されたものの、③「中期的な経済財政の枠組みの検討」など、将来における財政再建計画の見直しを示唆する記載が含まれている点も重要である(この3点については別稿にてまとめる予定)。

図表1
図表1
図表2
図表2

ワードクラウドで眺める骨太方針

資料2では今回と前回の骨太方針のワードクラウドを掲載した。新しい資本主義では官民一体投資の重視が掲げられており、昨年同様「投資」(22年骨太:104回→23年骨太原案:113回)の出現頻度が多い。また、今回骨太では少子化対策の強化を受けて「こども」(20回→54回)が増加しているほか、労働市場改革などの中で「賃金」(15回→31回)「賃上げ」(10回→25回)が数多く登場していることも昨年と比較した特徴である。コロナ(34回→14回)が減少していることも脱コロナ禍の進行による政策における重要度低下を象徴している。

加えて、「制度」(63回→118回)が目立っている点も特徴といえよう。労働市場改革などに関連する文章で度々登場しており、登場回数は「投資」よりも若干多かった。投資(予算措置)のみでなく、原案の文章にもあるように「予算・税制、規制・制度改革を総動員」する方針が示されている。

図表3
図表3

財源確保が「好循環実現の芽を潰さない」ことを重視

通底しているのは「好循環の芽を潰さない」ことが重視されている点だといえる。財政規律に配慮した点としては、膨張したコロナ関連の歳出を正常化させることが明記されたほか、来年度予算編成に関して「本方針、骨太方針2022及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」として、基礎的財政収支の25年度黒字化目標(骨太2021)を継続させた点である。一方で、昨年度骨太に続き「(財政再建計画が)重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」との文言も記載されており、基礎的財政収支の目標が重要分野の歳出拡大を妨げないことが明記されている。また、「多年度にわたる計画的な投資については財源も一体的に検討し歳出と歳入を多年度でバランスさせる」との文言によって、歳出先行型での政府投資拡大が行える枠組みとなっている。これはすでにグリーンイノベーション基金を用いた脱炭素投資などで用いられているスキームでもある。

また、少子化対策については政府から1日に示された「こども未来戦略方針案」において、“経済活性化、経済成長への取組を先行させる”とし、少子化対策の歳出拡大を先行させ、財源不足については必要に応じてつなぎの「こども特例公債」を発行する旨が明記された。つなぎでの国債発行を認めること自体が、2025年度のPB黒字化目標の優先度が高くないことを意味しているといえよう。今回の原案ではその具体的な記載が見送られている(後段参照)のだが、基本的には少子化対策においても、歳出の先行を認める形となっている。

原案では「30年ぶりとなる高い水準となる賃上げ、企業部門に醸成されてきた高い投資意欲など、これまでの悪循環を断ち切る挑戦が確実に動き始めている。今こそ、こうした前向きな動きを更に加速させるときである」とした。日本銀行は拙速な金融引き締めが好循環実現の芽を潰すリスクを警戒し金融緩和を継続している。政府の財政政策についても財源確保が経済の好循環実現を妨げないように、多年度財政の枠組みで当面の負担増を回避する意図があると考えられる。

2つの“【P】”の行方

なお、今回の原案における「加速化プラン」(こども未来戦略方針案で示されている少子化対策)の項目は【P】とだけ記載されており、ブランクになっている。同様に防衛関連のところにも【P】の記載がある。閣議決定までに文言の具体化がなされるとみられるが、いずれも財源の議論がなされている分野である。

こども未来戦略方針案では少子化対策の財源について、「少子化対策の財源を確保するために、経済成長を阻害し、若者・子育て世代の所得を減らすことがあってはならない」されている一方で、鈴木財務相からは所得・住民税の扶養控除の見直し(縮小・廃止なら子育て世帯の負担増に直結)が必要、との発言もあった。ちぐはぐ感がみられることからも、政府内のまだ調整が済んでいないのだと考えられる。思い出されるのは、昨年の骨太方針の議論で財政再建目標を巡る記載で与党の議論が紛糾し、閣議決定時に原案から記述が追加されたことである1。来週見込みとされる閣議決定までには、まだ紆余曲折があるかもしれない。

以上

1 2023年度予算編成において財政健全化計画が「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」との文言が追加された。

星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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