追加の物価高対策のポイント

~余った予備費はどこへ行く?~

星野 卓也

要旨
  • 政府は2兆円超の追加の物価高対策を決定。LPガスや飼料価格の抑制や低所得者給付が行われる。家計や企業の負担軽減が中心で規模も大きくないことから、GDPへの影響は限定的だろう。
  • コロナ・ウクライナ予備費は計4兆円弱余る計算。余った予備費は決算剰余金となり、結果として防衛費財源となる可能性がある。23年度予算案で示された防衛費に決算剰余金を充てる、というスキームは、国債発行による補正予算増額を通じて、当初予算の増額を可能にしている面がある。当初予算での国債発行、という形を避けたい意図かもしれないが、財政資金の流れは複雑化している。
目次

予備費利用で2兆円超の物価高対策を実施

政府は22日に物価・賃金・生活総合対策本部において、「物価高克服に向けた追加策」を決定した。2022年度予算の予備費の2兆円超を財源に、エネルギー等の価格上昇の緩和や低所得者給付が実施される。

内容の大枠は資料1の通りである。①国が利用目的を定めて地方自治体に配分する地方創生臨時交付金を1.2兆円増額する。このうち0.7兆円は物価高騰対策に充てられる。政府は推奨事業メニューとして、エネルギー・食料品価格などの物価高騰の影響を受けた家計への支援や省エネ家電の買い替え促進のほか、医療・介護・保育施設の支援、農業者への飼料価格高騰支援、地域公共交通や観光業等への支援などを挙げている。残りの0.5兆円は低所得世帯支援枠として措置される。世帯当たりの給付額は3万円程度となるが、実際の支援の方法や具体的な世帯当たりの支給単価は地方自治体が定めることになる。加えて、②0.2兆円を措置して低所得の子育て世帯に対して子ども1人当たり5万円の支給を行う。また、③コロナ対応を実施した医療機関を自治体が支援する「緊急包括支援交付金」の拡充などを行う。

図表1
図表1

簡易的にGDPへの影響を試算する。①や②は家計や企業の負担軽減を通じて、消費や投資の押し上げにつながろう。限界消費/投資性向を0.3程度と想定すると概ね0.4兆円程度、GDP比では0.08%程度であり、マクロ的な影響はさほど大きくはないだろう(なお、③は医療機関支援であり消費や投資への影響が不透明なため計算から除いた)。

予備費残額の一部は剰余金として防衛費財源へ

今回、対策財源として充てられるのは予備費である。財務省によれば、コロナ対応予備費の2022年9月末時点残額は1.26兆円ある。その後、第2次補正予算で4.74兆円(コロナ対策&物価対策予備費+ウクライナ対応予備費)が積み増されている。今回使われるのは2兆円強程度とのことなので、ざっくり4兆円弱程度の予備費が決算時点で余る計算になる。コロナ予備費のほとんどが消化されていた20年度、21年度に比べると、予備費がセーブされた形になっている(資料2)。

これは23年度以降の防衛費増額との兼ね合いなのかもしれない。現在、国会審議中の2023年度予算案では、政府は今後の防衛費増額の財源として、①増税、②税外収入の基金化、③決算剰余金活用、④歳出改革の4点を充てることとしている。③は毎年決算時に一定額が生じる純剰余金を先々の防衛費財源に対応させるものだ。今回余った予備費は歳出不用額として決算時には2022年度の剰余金の一部として計上されることになるとみられ、結果的に防衛費財源の一部を成す可能性がある(対応して国債発行も一部減額されるケースが多いので、すべてが剰余金になるわけではない)。予備費は元を辿れば国債発行を通じて第2次補正予算で追加計上されたものである。

このように、③は補正予算における予備費などの増額を通じて、「補正予算での国債発行による当初予算増額」を一部可能にしている側面がある。財政当局としては「当初予算において国債発行で歳出を拡大した」体になることを避けたい意図かもしれないが、財政資金の流れをより複雑にしている面は否めない。

図表2
図表2

星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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