グローバル(日米欧亜)経済見通し(2023年2月)

新家 義貴 、 桂畑 誠治 、 田中 理 、 西濵 徹

1.日本経済

景気の現状 ~プラス成長だが、前期の落ち込みを取り戻せず~

2月14日に公表された2022年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.6%となった。プラスとはいえ年率+1%を割り込む低成長で、7-9月期のマイナス成長(前期比年率▲1.0%)分を取り戻せていない。つい1ヶ月前には、インバウンド需要の急回復や全国旅行支援開始、輸入の反動減といった追い風を背景に前期比年率+3%台の高成長との見方がコンセンサスだったことを考えると、期待外れと言わざるを得ない。コロナ禍からの経済活動正常化の流れは変わっていないが、景気持ち直しのペースは鈍いままだ。なお、22年10-12月期の実質GDPの水準は、コロナ前である19年平均と比較して▲0.9%Pt低く、まだ経済活動正常化が実現していないことも確認できる。

内訳では、内需寄与度が前期比▲0.2%Ptとマイナスに転じたことが目に付く。個人消費はコロナ禍からの正常化への動きが継続していることに加え、全国旅行支援開始による旅行需要の持ち直しといった後押しもあり、サービスを中心に底堅く推移した。一方、設備投資がこれまでの増加の反動もあって減少に転じたほか、公共投資や住宅投資も減少、民間在庫変動もマイナス寄与となるなど、消費以外の内需は冴えない。一方、外需寄与度は前期比+0.3%Ptと成長率を押し上げたが、これは海外需要の好調さからもたらされたわけではなく、インバウンド需要の急増と輸入の減少を反映したものである。水際対策の緩和を受けてインバウンド需要(サービス輸出に含まれる)が急回復したことに加え、サービス輸入が前期比▲6.7%と、7-9月期の一時的な急増(同+19.9%)の反動により落ち込んだことが外需寄与度のプラスに寄与した形である。なお、インバウンド需要は10-12月期の実質GDP成長率を+0.7%Pt押し上げており、これがなければマイナス成長だったことになる。

図表1
図表1

景気の先行き ~海外景気の減速が23年の景気を下押し~

先行きについては、プラス材料とマイナス材料が入り混じるなか、全体としては停滞感が強い状態が続くと予想している。

プラス材料として挙げられるのがインバウンド需要の持ち直しだ。昨年10月に行われた水際対策の大幅緩和により訪日外客数は急速に持ち直している。元々、日本観光への潜在的な需要は大きいことに加え、為替レートも依然円安水準にあることから、先行きもインバウンド需要は持ち直しが期待できる。中国人観光客については足元では極めて低水準での推移が続いているが、感染抑制が明確になれば水際対策も緩和されるとみられ、今年春には中国人観光客も持ち直すだろう。

もう一つの押し上げ要因は、サービス消費の回復である。政府はマスクの着用に関して、原則として個人の判断に委ねる方向で調整を行っていることに加え、5月8日より新型コロナウイルスの感染法上の分類を、これまでの2類相当から、季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げる方針を発表している。政府がある種のお墨付きを与えることで、消費者の慎重姿勢を和らげ、ウィズコロナを一層進展させることに繋がる可能性があるだろう。日本は諸外国に比べてコロナ禍からの回復が遅れていた分、回復余地が残されていると見ることも可能である。

一方、懸念されるのが輸出の悪化である。日本からの輸出は、世界の製造業部門の動向に大きく左右される。経済に占める割合でみればサービス等の非製造業の方が大きいが、日本からの輸出は財が大半を占めるため、サービスよりも財の動き、つまり製造業部門の動向に影響を受けやすい。その点、足元、世界的に製造業部門が悪化に転じていることは大いに懸念される。先行性のある新規受注も大幅に悪化しており、当面世界的な製造業部門の調整は続くだろう。加えて、これまで急ピッチで行われた金融引き締めの悪影響が本格化することもあり、世界経済への下押し圧力も今後強まることが予想される。こうしたなか、日本への悪影響も避けられず、23年の財輸出は減少に転じると予想している。また、景気の牽引役として期待される設備投資についても、先行き不透明感が強まるなかで投資手控えが生じやすくなる。非製造業の設備投資は好調に推移する可能性が高い一方、製造業の設備投資が下押しとなることで、設備投資の増勢は鈍化する可能性が高い。

大きな流れとしては、コロナ禍からの正常化に向けた回復の動きが続くことやインバウンド需要の回復という下支え要因もあることから、景気回復の動きが頓挫する可能性は低いとみているが、回復ペースは抑制されざるを得ない。景気は当面、輸出悪化を主因に停滞感の強い状態が続くだろう。

(シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴 TEL 050-5474-7490)

図表2
図表2

2.米国経済

景気の現状 ~FRBの大幅利上げ実施にもかかわらず労働市場の好調持続~

米国では、22年10-12月期の実質GDP成長率(1次推計)が前期比年率+2.9%(7-9月期同+3.2%)と2四半期連続で高い伸びとなった。ただし、在庫投資の押し上げの影響が大きく、国内最終需要は金利上昇によって減速傾向を辿っており、米国経済の拡大基調は大幅に鈍化している。

23年1月に入っても、企業の景況感を示すISM景気指数で製造業が47.4と調整を続けるなか、非製造業が55.2と12月に悪天候で50を下回ったが、直ぐに拡大を示す水準を回復した。このようなもと、非農業部門雇用者数(事業所調査)は、前月差+51.7万人(12月同+26.0万人)と急拡大した。民間部門が前月差+44.3万人(12月同+26.9万人)と加速した。民間では、新型コロナウイルスのワクチン接種進展、感染拡大の安定等による需要の強まり等で飲食店が最大の増加となったほか、人手不足の続く医療・社会援助が高い伸びを続けた。また、需要の拡大を背景に、専門・技術サービス、小売業、派遣業、教育サービス、建設業、輸送・倉庫、製造業、その他サービス、芸術・エンターテイメント・余暇、宿泊、卸売業が大幅に増加した。月次での変動を均して基調をみると、非農業部門雇用者数は1月の上振れの影響により3カ月移動平均で前月差+35.6万人(12月+29.1万人)と再加速したが、6ヵ月移動平均で同+34.9万人(12月+35.7万人)と減速傾向を辿っている。ただし、どちらの数値も雇用の堅調な増加の持続を示している。また、1月の失業率は、3.4%(前月3.5%)とさらに低下し、自然失業率と推測される4.0%を大幅に下回る低い水準で推移を続けている。雇用者数、失業率などは、労働市場の逼迫度合いが強まったことを示した一方、平均時給の伸びが鈍化を続けており、米経済のソフトランディング期待が高まった。

一方、インフレ率(前年同月比)では、CPI総合が1月に+6.4%(12月+6.5%)と小幅低下した。食品が+10.1%(前月+10.4%)と低下したものの、エネルギーが+8.7%(前月+7.3%)と上昇したうえ、CPIコアが+5.6%(前月+5.7%)と小幅の低下にとどまった。CPI総合は、22年6月の+9.1%をピークに低下傾向を辿っているものの、依然高い上昇率であり、世界的に需要抑制と供給拡大の必要な状況が継続している。1月は、世界的な景気悲観論の緩和などを受けエネルギー価格が再上昇したほか、コアインフレでは住宅の供給不足を背景とした賃貸料、帰属家賃などの押し上げによってサービス価格が上昇した。一方、一部の業種での半導体、部品、人材の不足継続、経済のデジタル化など需要構造の変化等の影響が残存する中、ドル高、供給制約緩和を背景に情報機器、中古車の下落が続いたうえ、テレビやゲームなど娯楽商品、家具などの財価格が低下した。

図表3
図表3

図表4
図表4

図表5
図表5

景気の先行き ~FRBの大幅利上げで低成長にとどまりインフレは緩やかに低下~

23年の米国経済は、22年のFRBの大幅利上げ、新型コロナウイルスのパンデミックの継続、高いインフレの上昇、世界経済の減速によって、低成長にとどまると予想される。ただし、雇用・所得の増加、供給制約の緩和、不動産や金融資産残高の増加、内外での人の移動の活発化等を背景に、個人消費が底堅く推移するほか、設備投資はエネルギー・環境関連、国防関連の強い需要によって堅調に推移するとみられる。また、家計、企業、金融機関のバランスシートは健全性を保っており、景気減速、金利上昇への耐性が強い。さらに、政策効果では、21年インフラ投資・雇用法、22年インフレ抑制法による関連需要の拡大が予想されるほか、これらの政策の優遇措置を企業が受けるためには、米国内での一定規模の生産、米国製品の調達比率規制などアメリカファーストの条件が入っているため、インフラ、環境、半導体関連の投資や生産の拡大が見込まれる。地政学的なリスクが世界的な軍拡に繋がっており、軍需関連製品の生産拡大が予想される。以上を勘案すると、深刻な景気後退は回避される可能性が高い。

同時期のインフレ環境について、サプライチェーンの混乱は、中国のゼロコロナ政策の終了、世界的なワクチン接種の進展による供給制約の緩和、新型コロナウイルスの感染拡大ペース鈍化や待遇改善等を受けた就業意欲の回復等によって、徐々に収束すると予想される。さらに、ドル高、需要の財からサービスへのシフトの継続を背景に、財価格は低下傾向を辿ると見込まれる。一方、需要の強まりや家賃・帰属家賃の上昇を背景にサービス価格は23年1-3月期にかけて上昇を続け、コアインフレ(前年比)は23年1-3月期まで高い上昇が続く可能性が高い。4-6月期以降、財の下落に加えて、住宅価格下落の影響が強まる帰属家賃を含むサービス価格も低下ペースを速め、コアインフレは低下傾向を辿ると予想される。

以上のような景気・インフレ情勢のもと、FRBは、23年前半利上げを継続、FFレート誘導目標(上限)をFOMC参加者の推計した中立金利(中央値)である2.5%を大幅に上回る5.00~5.5%まで引き上げると見込まれる。その後、金融環境の引き締まり、ねじれ議会による政策の停滞、世界経済の減速等による米経済成長の鈍化、コアインフレの低下等を背景に、FRBは様子見姿勢を継続すると予想される。他方、バランスシートの縮小策は、保有証券の圧縮額を月額上限950億ドル(米国債が600億ドル、エージェンシー債、政府支援機関保証付き住宅ローン担保証券が350億ドル)として23年末まで継続する公算が大きい。

(主任エコノミスト 桂畑 誠治 TEL 050-5474-7493)

図表6
図表6

3.欧州経済

景気の現状 ~予想以上の底堅さを保つ~

物価高騰による家計購買力の目減りや企業収益の圧迫、エネルギー危機回避に向けた節電の取り組みや生産抑制の動き、量的緩和の打ち切りや利上げ開始による金融環境の引き締まりが響き、昨年後半以降のユーロ圏景気にブレーキが掛かっている。欧州連合(EU)による対ロシア制裁の報復措置の一環で、ロシアが欧州向けのガス供給を絞っており、ロシアへの資源依存度が高いドイツなどで、当初、冬場の需要期に深刻なガス不足に陥るとの不安も広がっていた。だが、代替エネルギー源の確保、ガス貯蔵の積み増し、省エネの取り組みが奏功し、今冬のエネルギー危機は回避される公算が高まっている。コロナ後の経済復興に必要な財政資金を加盟国に提供する復興基金の稼働、生活費高騰に対する財政支援、堅調な雇用環境にも助けられ、ユーロ圏の景気後退入りは回避されそうだ。

実際、昨年10-12月期のユーロ圏の実質国内総生産(GDP)は前期比+0.1%、同年率+0.4%と辛うじてマイナス成長への転落を回避した。多国籍企業の動向に左右されやすいアイルランドの2桁成長に助けられた面もあるが、景気は予想以上に底堅さを保っている。物価のピークアウト、資源価格の高騰一服、中国の都市封鎖解除(リオープニング)などを受け、年明け以降も、家計や企業マインドの落ち込みに歯止めが掛かっている。ユーロ圏の消費者信頼感は、昨年9月をボトムに4ヶ月連続で改善している。代表的な企業景況感であるユーロ圏の購買担当者指数(PMI)は、製造業とサービス業の合成指数でみて、1月に7ヶ月振りに好不況の分岐点である50超を回復した。

エネルギーと食料品価格の上昇を背景とする物価の高騰にも歯止めが掛かってきた。ユーロ圏の消費者物価は昨年10月に前年比+10.6%と統計開始以来で最も高い上昇率を記録した後、3ヶ月連続で上昇率が鈍化している。もっとも、1月の速報値も同+8.5%で高止まりし、変動が大きいエネルギー・食料・アルコール飲料・たばこを除いたコア物価は同+5.2%と歴史的な高水準にある。期待インフレ率が高止まりしているうえ、企業の価格転嫁や賃上げの動きも広がっており、欧州中央銀行(ECB)はインフレへの警戒姿勢を解いていない。昨年7月の利上げ開始時に▲0.5%とマイナス圏にあった預金ファシリティ金利(下限の政策金利)は、2月の理事会で2.5%に引き上げられた。ECBは次回3月の理事会でも50bpの追加利上げを示唆している。

図表7
図表7

図表8
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図表9
図表9

景気の先行き ~景気後退を回避へ~

当面は物価の高止まりが予想され、家計購買力の目減りや企業収益の圧迫が景気を下押ししよう。ECBによる追加利上げや量的引き締め(満期を迎えた保有資産の再投資停止)の開始もあり、金融環境の引き締まりが、住宅需要や耐久財消費の重石となる。年前半のユーロ圏景気は低空飛行が続く公算が大きい。だが、先行きの景気見通しは数ヶ月前と比べて大きく上向いている。年明け以降、ガス価格が大幅に調整しており、ロシアによるウクライナ侵攻以前の水準に低下している。エネルギー価格の押し上げ剥落から、先行きの物価上昇率は一段の鈍化が予想される。ユーロ圏の消費者物価は、年末に向けて、中期的な物価安定とされる2%に近づこう。良好な雇用環境やこのところの賃上げの動きも支えとなり、年後半に向けて、物価高騰による景気の下押し圧力は緩和に向かう展開が予想される。冬場のエネルギー危機が回避され、家計や企業の先行き不透明感が後退していることも、景気回復を後押ししよう。ユーロ圏はテクニカル・リセッション(2四半期連続マイナス成長)を回避し、2023年は小幅プラス成長を予想する。

コア物価の高止まりや賃上げの動きなど、インフレ圧力を警戒し、ECBは年前半にかけて利上げを継続する公算が大きい。現在2.5%の預金ファシリティ金利は、年央までに3.5%に達する見通し。物価上昇率の鈍化が明確になるなか、年後半に入ると様子見に転じる展開を予想する。

(主席エコノミスト 田中 理 TEL 03-5221-4527)

図表10
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図表11
図表11

図表12
図表12

図表13
図表13

4.中国、アジア新興国経済

景気の現状 ~突然の中国のゼロコロナ終了により景気の押し上げ期待が高まる状況~

中国経済を巡っては、長期に亘って当局が徹底した検査と隔離など行動制限を課す『ゼロコロナ戦略』に拘泥してきたことを受けて、コロナ禍の当初こそ早期の封じ込めによる景気回復が果たされる一方、感染拡大の度に行動制限が課されることで、その後は景気の足を引っ張る展開が続いてきた。しかし、ゼロコロナ戦略が長期化したことに伴う景気低迷に加え、若年層を中心とする雇用環境の悪化を受けて不満が蓄積したことを受けて、昨年11月に抗議運動が活発化して幅広く経済活動に悪影響が出る事態に発展した。こうしたことから、昨年末にかけて当局は一転してゼロコロナ戦略を終了させる一方、急激な戦略転換に伴い感染動向が大きく悪化する事態を招き、結果的に経済活動が萎縮するなど景気に下押し圧力が掛かった。こうした動きを反映して、昨年10-12月の実質GDP成長率は前年比+0.4%、前期比年率ベースではゼロ成長となるなど、景気は踊り場状態となった。しかし、年明け以降の感染動向は落ち着きを取り戻しており、経済活動の正常化が進んでいることを反映して企業マインドは底打ちするなど、コロナ禍による実体経済への悪影響は一巡していると捉えられる。

その他のアジア新興国においては、感染一服を受けた行動制限の解除により経済活動の正常化が進んだことでペントアップ・ディマンドが発現するとともに、欧米など主要国景気の堅調さを追い風に外需も押し上げられる一方、中国におけるゼロコロナ戦略への拘泥はサプライチェーンの混乱を通じて景気の足を引っ張る展開が続いてきた。他方、ウクライナ情勢の悪化をきっかけとする商品高は食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招くとともに、経済活動の正常化の動きもインフレ昂進に繋がってきた。さらに、国際金融市場における米ドル高を反映してアジア新興国では資金流出の動きが強まったことを受けて、こうした動きを反映した通貨安は輸入インフレを招くことが懸念されたことから、各国中銀は物価、及び為替の安定を目的に金融引き締めを迫られており、物価高と金利高の共存が内需に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。足下では米ドル高の動きに一服感が出ているほか、商品高によるインフレの上振れの動きも一巡しており、景気が頭打ちの様相を強めていることに対応して各国中銀はタカ派度合いを後退させる動きをみせている。中国によるゼロコロナ終了はサプライチェーンの回復に加え、中国人観光客への依存度が高いアジア新興国の追い風となることが期待される一方、足下においてはその効果は道半ばの状況にあるなど『期待先行感』が強まっていることに注意する必要がある。

図表14
図表14

図表15
図表15

図表16
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景気の先行き ~中国のゼロコロナ終了は追い風となるが、主要国の不透明感が足かせに~

中国においては、ゼロコロナの終了による行動制限の解除を受けて経済活動の正常化が進んでいるほか、移動が自由になっていることも追い風に企業マインドも底入れするなど、ゼロコロナに伴い頭打ちした景気の底打ちが進んでいると期待される。さらに、昨年末に開催された今年の経済政策の運営方針を討議する中央経済工作会議においても、積極的な財政政策と慎重な金融政策に加え、安全保障や科学技術を重視する形で国民生活の安定を図る方針が示されており、ゼロコロナにより実体経済が蔑ろにされてきた状況は大きく転換すると見込まれる。こうした動きは中国景気の押し上げに繋がることが期待される一方、中国景気の底入れは上振れの動きに一服感が出ている商品市況を再び押し上げることが懸念されるため、中国のインフレ動向は比較的落ち着いた推移が続いたものの、インフレ圧力が強まることが考えられる。また、企業マインドは底入れするも若年層を中心とする雇用環境は厳しい状況が続いているほか、不動産市場を巡る不透明感、米中摩擦など、国内外に不透明要因は山積しており、景気の底入れは進むも以前のような高成長を期待することは難しくなっている。

その他のアジア新興国については、中国経済への依存度が相対的に高いASEAN諸国を中心に中国景気の回復の動きは財、サービスの両面で景気の追い風となることが期待出来る。他方、欧米など主要国景気に対する不透明感が強まることが懸念されるほか、米中摩擦の動きは引き続きサプライチェーンの混乱を招く要因となる可能性もくすぶるなど、外需を取り巻く環境が一辺倒に改善する状況は見通しにくい。他方、中国の景気回復期待を追い風に商品市況が再び底入れの動きを強めることは、生活必需品を中心とするインフレの再燃に繋がることで頭打ちが期待されたインフレは高止まりすることが懸念される。さらに、国際金融市場においては米FRBによる金利の高止まりを見込んで米ドル高圧力がくすぶることも予想され、仮にそうした状況が続けば各国にとっては通貨安による輸入インフレ懸念も重なり、一段の金融引き締めを迫られることも考えられる。各国においてはコロナ禍が経済活動の足かせとなる懸念が大きく後退しているが、すでに多くの国でペントアップ・ディマンドが一巡していることを勘案すれば、物価高と金利高の共存が家計消費など内需の重石となる展開が続くなど、景気を取り巻く環境は最悪期を過ぎていると捉えられるものの、勢いに乏しい展開が続く可能性に注意する必要があろう。

(主席エコノミスト 西濵 徹 TEL 050-5474-7495)

図表17
図表17

新家 義貴 、 桂畑 誠治 、 田中 理 、 西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘等を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針等と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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