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2022.08.30
日本経済
新型コロナ(経済)
経済効果
岸田政権
ウクライナ問題
可能性を秘める日本の林業
~人材・インフラへの投資で自給率向上と輸出拡大へ国策加速を~
永濱 利廣
- 要旨
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- 日本の産業として特に大きな可能性を秘めているのが林業を含む第一次産業。2013年まで50億円程度だった木材輸出額は2021年度にはその6倍以上の330億円に達した。
- コロナ以前の2019年には日本のインバウンド消費額(GDPではサービスの輸出に計上)は年間4.8兆円だった。これはかなり大きな額であり、実際に疲弊した地方都市や廃線寸前の沿線が再生して地価が上昇に転じるほどであった。となれば、農林水産物も政府目標の年間5兆円規模で輸出できるようになれば、日本の経済は地方を中心にかなり底上げされることが期待できる。
- 日本より森林面積が少ないドイツは、年間木材生産量が日本の2倍以上。林業が盛んなドイツでは製材品の木材自給率が100%となっているのに対して日本は半分以上を輸入材に頼っている。
- コロナショックを契機としたウッドショックがロシアのウクライナ侵攻でさらに深刻化し、日本の林業にチャンスが到来しているが、作業システムや供給に大きな課題がある。 ドイツは路網が整備されており搬出コストも抑制できるが、日本は一から作業道を造設する必要があり、日本はまだ適した作業システムが確立していない。
- ただ、逆説的に考えれば、低炭素社会で新たな役割も期待される林業は、戦後植林された樹木が成長しており、路網整備などの支援により林業の成長が期待できる好機にあるといえよう。特にこれからは、低炭素社会への移行によってプラスチックや金属を利用した製品から木材への需要シフトが期待される。そして、林業のみならず木材産業全体を勘案すれば、経済波及効果も期待でき、林業が中山間地域の持続可能な産業の起点として発展する可能性も秘めている。
- ドイツでは森林官という職業が医者と同程度の人気を子供から得ている。そのため、ドイツでは120万人以上と自動車産業従事者よりも多く、日本の20倍以上の人々が林業関係に勤める。
- 日本は先進国中第二位の森林率を誇る世界有数の森林大国でもあり、やり方次第で林業でもグローバルにもっと市場規模を拡大できるのではないか。漁業や農業も含めて我が国の農林水産業を新しい視点で見直し、国が積極的に人材やインフラに投資をしていけば、日本でもグローバルに稼げる産業がもっと育ち増えていくはず。
筆者が日本の産業として特に大きな可能性を感じているのが林業を含む第一次産業である。非常に品質が良いのにもかかわらず、輸出が少なすぎるということで、国策としてもグローバル展開が推し進められてきた。
近年、その成果が出始め、2013年まで50億円程度だった木材輸出額は2021年度にはその6倍以上の330億円に達した。それだけ実力がともなってきたということの証左だろう。
日本政府は、2021年に1.2兆円まで到達した農林水産物輸出額を2025年に2.5兆円、2030年に5兆円まで増やす目標を掲げているが、コロナ以前の2019年には日本のインバウンド消費額(GDPではサービスの輸出に計上)は年間4.8兆円だった。これはかなり大きな額であり、実際に疲弊した地方都市や廃線寸前の沿線が再生して地価が上昇に転じるほどであった。となれば、農林水産物も年間5兆円規模で輸出できるようになれば、日本の経済は地方を中心にかなり底上げされることが期待できる。
ただ、特に林業については国土も狭く、日本では無理と思われるかもしれない。しかし、その常識を覆す根拠がある。それがドイツである。国土面積のうち森林面積の割合を示す森林率を見ると、先進国の中で一位がフィンランドの73.1%だが、二位が何と日本の68.5%である。対して、ドイツは32.7%であり、日本に比べて森林が豊富というわけではない。また、実際の森林面積で比べても、日本が2,500万haであるのに対して、ドイツは1,141万haと日本の半分以下であり、日本の人工林の面積1,020万haとそこまで差がない。
このように、日本より森林面積が少ないドイツだが、2018年の年間木材生産量は日本が3,114万㎥に対してドイツは6,400万㎥と日本の2倍以上となっている。時系列で見ても、2010年代以降の木材生産量が横ばいの日本に対して、ドイツは1993年以降木材生産量を増やしており、いかにドイツの林業が活発かをよく示している。
そして、このように林業が盛んなドイツでは製材品の木材自給率が100%となっている。対して日本の木材自給率は年々回復傾向を示しているようだが、未だに木材自給率は4割強と半分以上を輸入材に頼っている。
こうしたドイツ林業の特徴は、国の方針により天然更新(人が手を掛けなくて済む自然の力によって成立する森)を基本とし、自然に近い形での林業が行われていることである。このため、木を植えるときにも、気候に合った育ちの良い広葉樹が多く植えられている。
対して日本の木材生産は、伐採して植えるといった循環的な林業を行ってきたが、木材価格の低下などからこの循環がうまくいかない時期が続いてきた。しかし、コロナショックを契機としたウッドショックがロシアのウクライナ侵攻でさらに深刻化し、日本の林業にチャンスが到来しているが、作業システムや供給に大きな課題があるとされている。
というのも、ドイツは路網が整備されており搬出コストも抑制できるが、日本は一から作業道を造設する必要があり、降水・台風や土壌によっては造設した作業道が崩れてしまうこともよくあるようだ。ドイツはなだらかな森林が多い地形に適した森林委託がされているが、日本はまだ適した作業システムが確立していないとのことである。
ただ、逆説的に考えれば、低炭素社会で新たな役割も期待される林業は、戦後植林された樹木が成長しており、路網整備などの支援により林業の成長が期待できる好機にあるといえよう。特にこれからは、低炭素社会への移行によってプラスチックや金属を利用した製品から木材への需要シフトが期待される。そして、林業のみならず木材産業全体を勘案すれば、経済波及効果も期待でき、林業が中山間地域の持続可能な産業の起点として発展する可能性も秘めている。
日本では一流大学卒の優秀な学生は、外資系のコンサルや投資銀行などに行きたいと思う人が多いようだ。しかし、ドイツでは森林官という職業が医者と同程度の人気を子供から得ているようである。そのため、日本の林業従事者が6万人強なのに対し、ドイツでは120万人以上と自動車産業従事者よりも多く、日本の20倍以上の人々が林業関係に勤めていることになる。
こうしたことからすれば、日本は先進国中第二位の森林率を誇る世界有数の森林大国でもあり、やり方次第で林業でもグローバルにもっと市場規模を拡大できるのではないかと思われる。漁業や農業も含めて我が国の農林水産業を新しい視点で見直し、国が積極的に人材やインフラに投資をしていけば、日本でもグローバルに稼げる産業がもっと育ち、増えていくはずだ。
<参考文献>
三井物産㈱「森のきょうしつ」
㈱アーボプラス(2022)「世界の林業国の一つ、ドイツと日本の林業を比較!?日本よりも少ない森林で日本より多い木材産出量」
永濱利廣(2022)「日本病 なぜ物価と賃金は安いままなのか」(講談社新書)
永濱 利廣
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 永濱 利廣
ながはま としひろ
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経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
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永濱 利廣