円高に耐える日本株 ただし内需は不安材料

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月28,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月128程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを少なくとも2023年4月までは維持するだろう。
  • FEDは、2022年は毎FOMCで利上げを実施するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は小幅下落。NYダウは▲1.2%、S&P500は▲0.7%、NASDAQは▲0.2%で引け。VIXは23.9へと上昇。
  • 米金利はベア・フラット化。債券市場の予想インフレ率(10年BEI)は2.476%(▲2.6bp)へと低下。実質金利はゼロ近傍から0.268%(+20.0bp)へと急上昇。
  • 為替(G10)はUSDが最強。USD/JPYは133前半へと上昇。コモディティはWTI原油が94.4㌦(+0.5㌦)へと上昇。銅は7806.5㌦(▲13.0㌦)へと低下。金は1771.1㌦(+2.1㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 予想インフレ率(10年BEI)
米国 予想インフレ率(10年BEI)

米国 実質金利(10年)
米国 実質金利(10年)

経済指標

  • 6月JOLT求人件数は前月比▲5.4%、1069.8万件と3ヶ月連続で減少し、市場予想(1100万件)を下回った。人手不足感はなお強いものの、企業側の諦めもあって求人件数は減少基調にある。最近の求人件数減少は、ミスマッチ解消(復職進展)と採用意欲の衰えを同時に示唆しており評価が難しいが、新規失業保険申請件数の増加など労働市場の回復ペース鈍化を示す材料が増しつつあり、後者の比重がやや高まっている印象がある。平均時給の先行指標として有用な自発的離職率は2.7%とピークアウト感が認められた。この指標が12ヶ月程度の先行性を有することに鑑みれば、賃金インフレはより明確に鈍化すると考えられる。

JOLTS求人件数
JOLTS求人件数

JOLTS求人件数
JOLTS求人件数

米国 自発的離職率・平均時給
米国 自発的離職率・平均時給

注目点

  • 為替と日本株について状況を整理する。まず直近の円安反転の背景にあるのは米金利低下である。為替市場で材料視されている米5年金利は7月20日の直近ピーク値3.16%から8月1日の2.63%まで強烈に低下し、この間にUSD/JPYは138近傍から131近傍まで下落した。目下、為替市場参加者の視線は米金利に集中しており、USD/JPYと米金利の方向感は密接に連動している。

USD/JPY・米5年金利
USD/JPY・米5年金利

  • そうした下で日経平均は27000円台を維持している。無論、為替で株価を全て説明することはできないが、円安ボーナスの威力が減衰しているにもかかわらず、製造業を中心に株価は底堅い。その背景には米金利低下が米株高を促したことでグローバルな株価上昇に繋がり、日本株に資金流入があったという説明が可能だろう。円高と米株高の同時進行はネットでみれば日本株に対しての影響は限定的といったところか。

  • その点、米国株の先行きは心許ない。昨日付け当レポートで指摘したように最近の米国株は業績不安を軽視しているとの印象を禁じ得ず反落が懸念される状況にある。米国株が現在の水準を維持あるいは更なる上昇を遂げるには、米長期金利がFedの利下げを本格的に織り込み一段と低下傾向を強め、その間に業績不安が払拭される必要があると考えられるが、S&P500の予想EPSが下向き基調に転じた現状、それはいかにもナローパスであろう。現在発表中の米企業決算は8月2日時点で74%がアナリスト予想を上回るなどまずまずの着地であるが、ISM製造業など広範なマクロ指標の悪化に鑑みると、今後の米企業業績に多くは期待できない。

  • 仮に米株安となっても、米金利が反転上昇し再び円安基調となれば、日本株へのマイナス影響を緩和すると期待される。ただし、その際に日本企業の業績不安が生じていれば、日本株は持ち堪えられないだろう。その点、株式市場で相応の期待が織り込まれている①自動車の挽回生産、②内需回復について疑念が生じる可能性には注意が必要。①については6月の鉱工業生産で自動車工業が前月比+4.6%となり持ち直しが確認できたものの、水準そのものは低く回復は遅々としており、今後も中国における再ロックダウン不安もありダウンサイドリスクが残存する。②については、この期に及んで言及するまでもないがコロナに対する慎重姿勢が高齢者を中心に人々の消費活動を抑制しているほか、インバウンドの本格的再開も事実上は棚上げになっており、内需の回復期待が揺らぎつつある。

自動車工業
自動車工業

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

藤代 宏一

ふじしろ こういち

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 金融市場全般

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