米国 大幅利上げとBS縮小決定(22年5月3、4日FOMC)

~6、7月の50bpの連続利上げを示唆も75bpは積極的に検討せず~

桂畑 誠治

22年5月のFOMCで、FRBは22年ぶりの50bpの大幅利上げとバランスシート縮小の6月開始を決定した。また、パウエルFRB議長は今後2回(6、7月)のFOMC会合で50bpの利上げを検討するが、75bpの利上げは積極的に検討していないとして、金融市場が警戒していた一段の利上げ加速を否定した。

今回の50bpの利上げ決定は、市場コンセンサス通りだった。また、パウエル議長が75bpの利上げを検討していないと発言したほか、タカ派スタンスを強めていたブラード・セントルイス連銀総裁が75bpではなく50bpの利上げに賛成したことも、6月の75bpの利上げ観測を弱めた。さらに、バランスシート縮小開始時期は、5月を予想する向きもいたが、6月1日となった。このように、市場が警戒していたほどFRBがタカ派的でなかったことから、FF先物市場は利上げの織り込み度合いを弱め、主要株価指数は大幅に上昇した。長期金利は一旦低下幅を拡大したものの直ぐに下げ幅を縮小、結局小幅低下にとどまった。ドルは限定的な下落となった。

5月3、4日に開催されたFOMCで、FRBは、政策金利であるFFレート誘導目標レンジを0.75~1.00%に引き上げることを全会一致で決定した。今回、22年ぶりに50bpの利上げが決定されたほか、継続的な利上げが適切になるとの見方が声明文で示された。

FRBは、最大雇用と長期的に2%のインフレ率を目指しており、金融政策のスタンスを適切に引き締めることでインフレ率が目標の2%に戻り、労働市場が力強さを維持すると予想している。堅調な経済成長、インフレの高進、労働市場の過熱が続くなかで、FRBは今回FF金利誘導目標レンジの0.75~1.00%への引き上げを決定したうえ、目標レンジの引き上げの継続が適切になるとの見方を示した。さらに、6月1日に国債、政府機関債、政府機関発行の住宅ローン担保証券の保有高の縮小を開始することを決定した。

FOMC声明文の景気判断は、今回「第1四半期に経済活動が全体で若干落ち込んだものの、家計支出と企業の設備投資は力強さを維持した」と1-3月期の実質GDP成長率が7四半期ぶりにマイナスとなったものの、家計支出と設備投資が加速したことを受け、前回「経済活動と雇用に関する指標は力強さを増し続けている」から小幅の下方修正にとどめ、米経済が堅調な拡大を続けているとの判断を維持した。

雇用情勢について声明文では「ここ数カ月、雇用の伸びは堅調で、失業率は大幅に低下した」と前回の「ここ数ヶ月、雇用の増加は力強く、失業率は大幅に低下した」から小幅下方修正されたが、労働市場の好調さを指摘した。パウエル議長は、「労働市場は非常に逼迫している」と労働市場の過熱を強調した。

インフレについて声明文で前回同様「パンデミック、エネルギー価格の上昇、幅広い物価圧力に絡む需給の不均衡を反映し、インフレ率は高止まりしている」との判断を維持した。また、議長は「インフレは高すぎる」との見方を示した。

ロシアによるウクライナ侵略戦争の影響に関して、声明文で「ロシアのウクライナに対する軍事侵攻は甚大な人的・経済的な苦しみをもたらしている」としたうえで、「米国経済への影響は極めて不明確なものの、侵攻と関連事象がインフレのさらなる押し上げ圧力を生み出し、経済活動の重しになる可能性が高い」と前回の「米国経済への影響は極めて不明確なものの、短期的には侵攻と関連事象がインフレのさらなる押し上げ圧力を生み出し、経済活動の重しになる可能性が高い」とロシアによるウクライナ侵略戦争が長期化するなかで、短期的との見方を削除した。議長は、戦争、制裁の行方などが不透明なため米国経済への影響は不確実だが、商品市況の上昇によるインフレ圧力の高まりのほか、世界経済の減速が米国経済にマイナスの影響を与えるとの見方を示した。

今回、中国のロックダウンの悪影響が新たに追加された。声明文では「さらに、中国での新型コロナウイルス感染症に関わるロックダウンがサプライチェーンの混乱を悪化させるとみられる」と中国の新型コロナウイルス対策がサプライチェーンの混乱を悪化させ、インフレ圧力となることが指摘された。

リスクとして、「委員会はインフレリスクを注意深く観察している」とFRBの政策転換の遅れを映じて、今インフレ高進局面で初めてインフレをリスクとして声明文に明記した。

今後の金融政策運営に関して、声明文で「経済見通しに影響を及ぼす情報を注視し、目標の達成を阻害するようなリスクが生じれば、金融政策スタンスを適切に調整していく用意がある」と金融政策を柔軟に運営する方針であることを強調した。

パウエル議長は、経済・金融情勢がFRBの期待通りに進展するなかで、政策金利をより正常な水準に戻す道筋にあるとしたうえで、「委員会では、今後数回の会合でそれぞれ50bpの利上げが検討されるべきとの意見が多い」と現時点では6、7月にそれぞれ50bpの利上げがFOMCのコンセンサスであることを指摘した。ただし、「FOMCは今後入手されるデータと経済の見通しに基づき、会合ごとに判断する」と柔軟に運営することを指摘したうえで、「インフレはこの1年で明らかに高騰しており、さらなる驚きが待っているかもしれない」と、データ次第だが利上げペースの一段の加速を完全に否定した訳ではない。

バランスシートの縮小策について、保有証券の圧縮を6月1日から予測可能な方法で開始することを決定した。当初は月額475億ドル、3ヵ月後に月額950億ドルに増額するとされた。内訳は、米国債の上限が当初300億ドル、3カ月後に600億ドルに拡大する。エージェンシー債、政府支援機関保証付き住宅ローン担保証券の月間上限は、当初175億ドル、3ヵ月後に350億ドルに増額する。

今後、新型コロナウイルスのパンデミックの継続、ロシアへの経済制裁の強化等による悪影響が続く一方、行動制限の緩和や雇用・所得の増加等を背景に、潜在成長率を上回る経済成長が持続すると予想される。インフレでは、PCEコアデフレーターが2月の前年比+5.3%をピークに緩やかな低下傾向を辿るとみられる。

このような経済情勢のもと、FRBは、6、7、9月にそれぞれ50bp、11、12月にそれぞれ25bpの利上げを実施し、FFレート誘導目標を22年末にFOMC参加者の推計したターミナルレートである2.375%を上回る3.00%まで引き上げると見込まれる。23年には、金融環境の引き締まり、ねじれ議会による政策の停滞、世界経済の減速等による米経済成長の鈍化、コアインフレの低下等を背景に、FRBは利上げを停止すると見込まれる。

【FOMC参加者による経済・金利予測:22年3月】

FOMC参加者による経済・金利予測(中央値)では、22年の実質GDP予測(10-12月期の前年同期比)は+2.8%とインフレの高進を受け、前回12月の+4.0%から下方修正された。一方、23年+2.2%(前回+2.2%)、24年+2.0%(前回+2.0%)と変わらずとなり、利上げが継続されるなか、潜在成長率程度の成長を維持できると予想されている。

失業率の予測(10-12月期の平均値)は、利上げ見通しの大幅な引き上げにもかかわらず22年3.5%(前回3.5%)、23年3.5%(前回3.5%)、24年3.6%(前回3.5%)と労働市場の逼迫が続くと予想されている。

インフレ見通し(10-12月期の前年同期比)は、22年にPCEデフレーターが+4.3%(前回12月+2.6%)、PCEコアデフレーターが+4.1%(前回+2.7%)と今回も大幅に上方修正された。23年のPCEデフレーターは+2.7%(前回+2.3%)、PCEコアデフレーターは+2.6%(前回+2.3%)と大幅に上方修正され、インフレの高止まりが長期化する予想に変更された。24年のPCEデフレーターは+2.3%(前回+2.1%)、PCEコアデフレーターは+2.3%(前回+2.1%)と上方修正され、24年もFRBの目標を上回った状態が続くと予想された。

ドットチャート(FFレート誘導目標レンジの中央値、年末)では、22年は1.875%(前回0.875%)、23年は2.75%(前回1.625%)、24年は2.75%(前回2.125%)と予測期間を通じて上方シフトした。長期は2.375%と中立金利の見方が下方シフトした。

利上げ回数では25bpの利上げが22年に7回、23年に3、4回の予想に上方シフトした。

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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