2018 年の「過去問」どおりとは限らない 今年は米国の引き締めを中国の緩和が一部相殺

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月31,500程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年3月に利上げ開始、年後半にはQTに着手するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は続落。NYダウは▲0.5%、S&P500は▲0.1%、NASDAQは▲0.1%で引け。VIXは19.60へと低下。
  • 米金利カーブはツイスト・フラット化。債券市場の実質金利は▲0.802%(+5.5bp)へと上昇。5年先5年金利は2%到達後に上昇一服。
  • 為替(G10通貨)はJPYが買われ、USD/JPYは115後半へと下落。コモディティはWTI原油が77.2㌦(▲0.6㌦)へと低下。金は1809.6㌦(▲15.5㌦)へと低下。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 実質金利(10年)
米国 実質金利(10年)

米国 5年先5年金利
米国 5年先5年金利

注目ポイント

  • 12月FOMC議事要旨を受けたFEDの引き締め観測の高まりを背景に世界の株式市場は下落した。3月の利上げ開始は一段と現実味を帯び、年内のQT(バランスシート縮小)開始も既定路線になった印象だ。

  • 来たるべきFEDの金融引き締めに備えて投資家が参考にする事例としては2018年があり、いわば「過去問」とも言うべき存在になっている。利上げとQTが同時進行した2018年は大きくみれば、米長期金利上昇が米国株を直撃し世界的株安を招く構図であった。米国株は2度にわたり大幅な下落に見舞われ、そうした中で日経平均は1月の2.4万円超から年末には1.9万円近傍まで下落した経緯がある。

S&P500・FRBバランスシート
S&P500・FRBバランスシート

S&P500・FRBバランスシート
S&P500・FRBバランスシート

10年金利・FRBバランスシート
10年金利・FRBバランスシート

  • もっとも過去問がそのまま出題されるとは限らず、2018年型のクラッシュに対する備えが空振りに終わるケースも十分に想定される。当時との相違点で最も重要な点は中国当局の政策態度であろう。2018年の中国経済はいわゆるデレバレッジ政策によって減速基調にあった。地方政府に債務削減を促したこともあって、固定資産投資におけるインフラ投資の伸びは2017年の+19.0%から僅か+3.8%へ急減速していた。その間、マネーストック(M2)の前年比伸び率はほぼ一貫して低下した。こうした中国当局の政策態度は市場参加者のリスク志向を削ぎ落とし、世界的株安の遠因にもなった。

中国 固定資産投資(インフラ)
中国 固定資産投資(インフラ)

  • それに対して2022年は、米国の引き締めを中国の緩和が相殺する構図になりそうだ。FEDがタカ派色を強めるのをよそに、中国当局は2021年7月に預金準備率を引き下げた後、12月6日には更に0.5%pt引き下げを実施し、大手行のそれは11.5%となった。また17日には政策金利に位置付けられている貸出基準金利(LPR、ローンプライムレート)を3.80%へと0.05%pt引き下げるなど景気刺激に前向きな姿勢を示した。

  • そうした政策態度は金融機関の融資態度の軟化(審査基準の緩和)に繋がった。12月30日にPBOCが公表した銀行四半期調査(調査対象3200行、3ヶ月前との比較を問う)によれば、新規貸出の動向を反映する融資承認DIは51.6へと1.9pt上昇した。不動産問題に揺れた夏場に比べて貸出は伸びやすい環境にあると判断される。そうした下でクレジットインパルス(新規与信・GDP比、12ヶ月変化)は11月に底打ちし、反転上昇サイクルに突入した可能性が高まっている。

中国 融資承認DI・預金準備率
中国 融資承認DI・預金準備率

  • クレジットインパルス(あるいは中国M2伸び率)はグローバル製造業PMIや世界株に対して一定の先行性を有することが知られている。日経平均に注目すると、比較対象をクレジットインパルスかM2にするかで微妙に波形は異なるが、先行指標としてはどちらも十分に有効に見え、今次局面においては日経平均の停滞が終わりに近づいていることを示唆する波形となっている。

日経平均・中国クレジットインパルス
日経平均・中国クレジットインパルス

日経平均・中国クレジットインパルス
日経平均・中国クレジットインパルス

日経平均・中国クレジットインパルス
日経平均・中国クレジットインパルス

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。