デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

AIが予測する2024年の米国金利の衝撃

~AI予測は日本経済にどのような影響をもたらすのか?~

柏村 祐

目次

1.米国金利が日本経済に与える影響

金利は、経済活動や金融市場に大きな影響を与える重要な指標である。特に、世界経済の中心的存在であるアメリカの金利は、グローバル経済の動向を左右する要因の1つとして注目されている。米国の金利上昇は、ドル高・円安を引き起こし、日本の輸出企業の収益を押し上げる一方で、輸入価格の上昇を通じて国内のインフレ圧力を高める。また、米国債などの外貨建て資産の魅力が高まることで、日本からの資金流出を招き、国内金融市場の不安定化につながるリスクもはらんでいる。

アメリカの代表的な金利としては、連邦準備制度理事会(FRB)が決定する政策金利であるフェデラルファンド金利(FF金利)と、市場で取引される米国債の利回りがある。FF金利は、金融機関同士が一晩だけ資金を貸し借りする際の金利であり、FRBが金融政策の運営目標に用いている。一方、米国債利回りは、投資家のリスク選好度や経済見通しを反映して変動する。FF金利の変更は米国債利回りにも影響を及ぼすため、両者は密接に関連している。

近年、金利が経済に与える影響の大きさから、AIを用いた金利の将来予測に注目が集まっている。AIは大量のデータを分析し、複雑な経済指標の関係性を学習することで、高い精度での予測を可能にすると期待されている。本稿では、AIによる米国金利の予測手法とその有効性について考察し、日本経済への示唆を探る。

2.AIによる米国金利の予測実験

AIを活用した米国金利予測は、「過去のチャート分析」と「楽観シナリオ、悲観シナリオにもとづく予測」の2つの工程に大別される。

まず、「過去のチャート分析」工程で、2000年からの米国金利のチャートをAIに読み込ませ「米国金利のチャート分析をお願いします」と指示したところ、AIはその米国金利チャートを解析したうえで、2000年から2024年の期間を6つに分解し、それぞれの期間ごとの当局の政策、環境、金利動向に関する分析を行った。分析の最後のまとめとして、「金融危機や景気後退局面では大幅利下げ、景気過熱局面では利上げが行われる傾向にあります。足元の金利水準は歴史的に見ても高い部類に入りますが、インフレ抑制のためにさらなる利上げも想定されます」と洞察している(図表1)。

図表 1
図表 1

次に、今後の楽観シナリオにもとづく米国金利を予測するため、はじめにAIを活用して楽観シナリオの作成を行った(図表2)。

図表 2
図表 2

このAIが作成した2024年度の世界経済の持続、インフレの鈍化、テクノロジーの進展、地政学リスクの低減、環境政策の推進に関する楽観シナリオを改めて読み込ませたうえで、「楽観シナリオにもとづき2024年6月末、9月末、12月末の米国金利を予測してください」と指示したところ、AIは、前提条件として「予測はあくまでも楽観シナリオに基づいており、実際の金利動向は経済指標や地政学的リスクなど様々な要因に左右されます。予期せぬショックや市場の期待の変化により、金利予測とは異なる展開となる可能性もあることに注意が必要です」とし、2024年6月末4.50%-4.75%、2024年9月末4.25%-4.50%、2024年12月末4.00%-4.25%という予測を算出した(図表3)。

図表 3
図表 3

次いで今後の悲観シナリオにもとづく米国金利の予測を行うため、はじめにAIを活用して悲観シナリオの作成を行った(図表4)。

図表 4
図表 4

このAIが作成した2024年度の地政学的緊張の激化、米国の政治的不確実性、経済成長の鈍化、インフレの再燃、テクノロジーと経済安全保障の脅威に関する悲観シナリオを改めて読み込ませたうえで、「悲観シナリオにもとづき2024年6月末、9月末、12月末の米国金利データを予測してください」と指示したところ、AIは、前提条件として「予測はあくまでも悲観シナリオに基づいており、実際の金利動向は様々な要因に左右されます。地政学的リスクの顕在化や予期せぬ経済ショックなどにより、金利予測とは大きく異なる展開となる可能性もあることに留意が必要です。また、こうした高金利環境が長期化した場合、経済活動への悪影響が懸念され、最悪の場合は金融危機につながるリスクもはらんでいます」とし、2024年6月末5.50%-5.75%、2024年9月末5.75%-6.00%、2024年12月末6.00%-6.25%という予測を算出した(図表5)。

図表 5
図表 5

3.AIが考察する米国金利予測と日本経済への影響

AIによる米国金利予測の実験結果は、今後の日本経済にどのような影響をもたらすだろうか。

楽観シナリオでは、2024年末にかけて米国金利が緩やかに低下すると予測された。世界経済が順調に回復し、インフレ圧力が和らぐことで、FRBが利下げに転じるとの見方である。この場合、円高・ドル安が進行し、日本の輸出企業の収益が圧迫されるおそれがある。ただし、原材料価格の下落などを通じて、企業のコスト負担は軽減されるだろう。金利低下による内需の下支えも期待でき、総じて日本経済にとってプラスに働く可能性が高い。

一方、悲観シナリオでは、2024年末にかけて米国金利が大幅に上昇すると予測された。地政学リスクの高まりや経済の失速、インフレの再燃などを背景に、FRBが積極的な利上げを迫られるとの見方である。この場合、大幅な円安・ドル高が進行し、日本の輸入コストが急激に押し上げられるリスクがある。企業収益の悪化や家計の実質購買力の低下を通じて、日本経済が深刻な打撃を受ける可能性がある。加えて、高金利による金融市場の混乱や、海外からの資金引き揚げも懸念され、日本経済の下振れリスクは大きい。

このように、AIによる米国金利予測は、日本経済の先行きを占う上で重要な示唆となる。企業は、為替レートやコスト構造への影響を見極めながら、事業戦略の見直しを迫られるだろう。投資家は、金利変動がもたらす資産価値への影響を注視し、ポートフォリオの調整を検討する必要がある。個人も、ローンの借り換えや資産運用など、金利変動を踏まえた資金計画の再考を求められる。

AIが示す複数のシナリオを参考に、各主体が適切にリスクを管理し、先を見据えた行動をとることが、日本経済の安定的な発展につながるだろう。同時に、AIの予測を鵜呑みにするのではなく、人間の知見と経験にもとづいて批判的に検証することも肝要だ。AIと人間が協働し、より確度の高い未来予測を行うことで、日本経済の不確実性に立ち向かう知恵を養いたい。

AIによる金利予測は、そのリスクと機会を事前に把握するうえで、極めて有効なツールとなる。技術の力を活用しつつ、人間の英知を結集して、日本経済の持続的な成長への道筋を描いていくことが求められている。米国金利予測の実験は、AIと人間の協働による新たな経済分析の可能性を示唆しているといえるだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ