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2024.03.25
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高齢期に最適な住まいとは
~多様化する高齢者の暮らしと住まいのライフデザイン~
福澤 涼子
1.高齢期の身体の変化と住まいのニーズ
高齢期に最適な住まいとは何か。ひとり暮らし高齢者の増加など世帯構造の変化や、家族介護に対する価値観の変化に伴い、高齢期の住まいへのニーズも変化・多様化してきている。また高齢期が伸びることによって、その時々で適した住まいも変わってくると考えられる。
図表1は平均寿命・平均自立期間・健康寿命にもとづき、高齢期の健康状態に伴う生活の変化を示したものである。女性を例にすると、65歳で高齢期に入り、日常生活や外出、仕事に制限のない期間(①)はおよそ10年ほどである。その後、制限はあるものの日常生活は自立ができる期間(②)がおよそ9年、食事や入浴、排せつに手助けが必要になり亡くなるまでの期間(③)がおよそ3年である(注1)。
令和4年簡易生命表によると、65歳時点の平均余命は女性24.30年(89.3歳)、男性19.44年(84.4歳)となっており、実際の高齢期は図表1よりもさらに長期化すると考えられ、その状況ごとに住宅に求めるものも変化してくるだろう。
図表2は60歳以上の男女に「身体機能が低下して、車いすや介助者が必要になった場合、自宅に留まりたいか、どこかへ引っ越したいか」をたずねた結果の時系列比較である。「現在のままの自宅に留まりたい」「改築の上、自宅に留まりたい」という自宅に住み続けることを希望する人は、15年前から減少傾向にあるものの6割を占めている。一方、老人ホームや高齢者用住宅への入居希望者は増加しており、特に「高齢者用住宅へ引っ越したい」人の割合は、15年間で2倍以上となっている。この背景には、家族など見守りや世話を期待できる人がいない高齢者が増えており、そうしたサービスが付いた高齢者用住宅(注2)が普及してきたことがあると考えられる。
2.高齢期の住まい・施設の選択肢
それでは、現代の高齢者にとって、どのような住まいや施設の選択肢があるのか。図表3は、自宅や一般の賃貸住宅を除く高齢者を対象とした住まい・施設の一覧である。これをみると、介護サービスが付いていない住宅系では自立のうちから入居できるものが多い。一方で、介護保険施設の場合、公的な施設なこともあり費用は相対的に安価に済むが、要介護認定を要する等入居にあたって一定の条件がある。たとえば、特別養護老人ホームは原則として要介護3以上の認定を受けないと入居できない。
多少健康上の不自由があっても自立して生活できる場合は、特別養護老人ホーム等に入居することができないため、平均およそ9年間にものぼる「自立はできるが生活上の制限がある状態の暮らし」をどのように暮らしていくのか、自宅以外で暮らすことを選択する場合、資金面を含めてしっかりと考えて備えておく必要がある。特に民間が運営する施設はサービス内容や費用が千差万別であり、見学などを通じて自分に合った住まいや施設を見つけるには、一定の時間と労力がかかる。
ただ歳を重ねるにしたがって、自分で判断する能力は落ちていく。「高齢者用住宅へ引っ越したい」と考えていても、高齢になればなるほど、決断や情報収集が難しくなり、引っ越し作業も困難になる(注3)。そのため、あまり制限のない元気なうちから今後どのような暮らしをしたいのかを考え、自宅以外で暮らすことを選択する場合には、実際に興味のある住居や施設に見学に行くなど、情報収集をする必要がある。住まいは一般に住んでみないとわからないことも多い。可能であれば、実際の入居者に、満足しているところ、不満なところを聞いてみるのもよいだろう。健康上の問題が出てからでは納得のいく選択が難しくなる可能性があるため、早めに検討を始めることが望ましい。
3.住まいの視点でのライフデザインの大切さ
以上のように、多様な住まい・施設が存在する一方で、すべての人がそれらの選択肢から自由に選べるわけではないという現実がある。費用負担の軽減を目的に住み慣れた地域を離れて遠方のサービス付き高齢者向け住宅に転居している実態があるように(注5)、住んでいる地域によっては選択の幅が狭いこともある。健康状態や家族の状況などによって、本人の希望がかなわないこともあるだろう。ただ、そうした様々な条件や制約があったとしても、高齢者自身が納得のいく選択をすることが重要である。
その点で、高齢者本人が元気なうちに情報収集や意思決定をしていくことが望ましいが、将来想定通りになるとは限らないうえ、高齢者やその家族だけで住まいや介護に関する最新情報の収集・意思決定をするのは難しい。そのため、高齢者の住まいを専門とした相談窓口の設置や、情報収集のしやすいよう情報の一元化などの対応が求められる。
さらに、高齢期の住まいに関する情報だけではなく、本人のこれまでの暮らしや価値観にも配慮したアドバイスも提供されることが望ましい。高齢期は移動に制限が出てくることもあり、住まいが個人のウェルビーイングに大きくかかわってくる。これはバリアフリー化された住宅設備を整備するということだけではない。たとえば、病院や駅、食材を買う店へのアクセス、外出の自由度、家族や友人などとの交流、周辺の自然環境など、大事にしたいと思う価値観は人それぞれであり、最適な住まいも一人ひとり違ってくる。たとえば、拙稿「老後にシェアハウスで暮らすという選択」で紹介した高齢者向けグループリビングは、人とのつながりや自立を大事にしたいという価値観をもつ人が多く暮らす住まいである。
高齢期に適した住まい方は、暮らし方や価値観によって人それぞれだ。元気なうちから大事にしたい価値観を見つめ直し、自身の資産や収入の状況も踏まえながら、住まいの視点でもライフデザインすることが、今後ますます重要となるだろう。
【注釈】
1)図表1に掲載の期間は全て0歳からの期間である。そのため、平均余命と同様に自立期間や健康寿命も、65歳以降を対象とすればより延びると考えられる。
2)中でも近年増加している高齢者用住宅は「サービス付き高齢者向け住宅」、通称「サ高住」である。2011年に創設以来、10年余りで8,302棟287,306戸が登録されている(一般社団法人高齢者住宅協会「サービス付き高齢者向け住宅の登録情報」2024年2月末時点)。その他、シニア向け分譲マンションなども2000年代以降増加しており、中にはアクティブシニアを対象にしたテニスコートやアトリエなど多様な施設がついた大型のシニア向け分譲マンションも開発され注目を集めている。
3)「第3回サービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会資料」によれば、自立高齢者中心の施設では自ら住み替えを検討しているが、要介護者中心の住宅では「家族からの提案」や「自立した生活が困難」など成り行きで住み替えている住居者が多い。また、自立高齢者中心の施設では、自宅を既に売却済みの人が多いのに対して、要介護者中心だと「何もしない(空き家)」の割合が多くなる。このようなことからも、身体の衰えによって自らの意思で転居するということが困難になる傾向がうかがえる。
4)本間清文『最新図解スッキリわかる!介護保険 基本としくみ、制度の今とこれから』2019年,岡本典子『後悔しない高齢者施設・住宅の選び方』2014年,村田順子「高齢期の生活を支える施設」日本家政学会『住まいの百科事典』2021年,厚生労働省「第221回社会保障審議会介護給付費分科会資料」2023年
5)首都圏のサ高住の入居者の属性や併設介護サービスの提供実態を調べた既存研究では、首都圏の周縁部のサ高住に要介護の高齢者が広域から移り住む実態を踏まえて、「低所得の要介護高齢者が住み慣れた地域で居住継続しにくい現実は、高齢期の所得や要介護度によるセグリゲーションともいえる」と述べられる。/三浦研,安田渓「入居者属性からみた首都圏におけるサービス付き高齢者向け住宅の分布」『日本建築学会計画系論文集』第86巻 第790号, 2021年
【参考文献】
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本間清文『最新図解スッキリわかる!介護保険 基本としくみ、制度の今とこれから』株式会社ナツメ社 2019年
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岡本典子『後悔しない高齢者施設・住宅の選び方』日本実業出版社2014年
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村田順子「高齢期の生活を支える施設」日本家政学会『住まいの百科事典』丸善出版2021年
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三浦研,安田渓「入居者属性からみた首都圏におけるサービス付き高齢者向け住宅の分布」『日本建築学会計画系論文集』第86巻 第790号, 2021年
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厚生労働省「第221回社会保障審議会介護給付費分科会資料」2023年
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厚生労働省「サービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会資料」2018年~2023年
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内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」2005~2020年
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一般社団法人高齢者住宅協会「サービス付き高齢者向け住宅の登録情報」2024年3月
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株式会社スマートコミュニティ 「スマートコミュニティ稲毛」ホームページ
福澤 涼子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。