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中小企業向け生成AIの衝撃

~中小企業におけるAI導入の処方箋~

柏村 祐

目次

1.中小企業における生成AI導入の悩み

中小企業におけるAI、特に生成AIの導入は、大企業と比べ遅れているようだ。その要因として、AIの機能や効果についての理解不足、AIに関する知識をもつ人材の不在、AI導入に関するノウハウの欠如などが挙げられる。中小企業は現在、人手不足という大きな課題に直面しており、今後の成長を妨げる要因になるおそれがある。そのような中、AIの活用、特に生成AIは、ルーチンワークの自動化や意思決定プロセスのサポートなど多様な業務を効率化し、人手不足の問題を緩和する手段として注目されているが、中小企業がAIを導入するにあたっては、いくつかの問題点がある。

1つは、AI技術の導入には相応の投資が必要であり、特に資金面で余裕が少ない中小企業にとって大きな負担となる点である。AIシステムの開発や導入には一定以上の技術が必要であり、これに伴うコストが中小企業に重くのしかかる。加えて、維持費やアップデート費用も考慮する必要がある。また、AIは大量のデータを扱うため、これらの情報の保護と管理が求められるが、中小企業には専門的なIT部門がない場合が多く、セキュリティ対策も十分とはいえないことが少なくない。データ漏洩やサイバー攻撃のリスクが常に存在し、これらを防ぐための追加投資や対策が必要となる。情報管理の不安は、多くの中小企業がAI技術の本格的な導入に対し慎重な姿勢を見せる要因の1つである。

これらの問題点を解決すべく、中小企業向けの生成AIが登場している。本稿では、この中小企業向け生成AIについて、その特徴を概観し、具体的な活用事例を交えて考察する。

2.中小企業向け生成AIの実態

中小企業向け生成AIは、中小企業ユーザーのニーズに合わせた機能を搭載しており、様々な業務課題の解決に資する特長を有している。たとえば、ある製造業企業が、部品設計のためのAIを導入したケースをみてみよう。この企業は従業員数が50人未満で、設計部門には技術者が5人いる。しかし、需要の変動に迅速に対応するためには、さらに多くの技術者が必要であった。ここで、生成AIの導入が重要な役割を果たす。このAIは、過去の設計データを基に、新しい部品の設計案を迅速に生成した。これにより、技術者は設計案の検討に集中でき、設計の品質を向上させると同時に、設計プロセスを加速させ、結果として、人手不足の問題が大幅に緩和された。

生成AIの特徴は、高機能生成AIを利用できる点、特化型生成AIを作ることができる点、低価格・情報管理が安心な点の3点に集約される。たとえば、この製造業企業では、特化型の生成AIを活用しており、その結果、部品設計の効率が大幅に向上した。低価格でありながらも、企業のニーズに特化した機能を提供することで、中小企業にとっても導入が容易であり、情報管理の安全性も確保されている。

では3つの特徴について、高機能生成AIを利用できる点からみていこう。高機能生成AIの利用ページでは、自分の仕事に必要なAIを検索できる機能が提供されている。たとえば、仕事においてデータ分析をしたい場合、検索窓に「data」と入力すれば(図表1の赤枠)、関連する高機能生成AIがプルダウンで表示され、クリックすればすぐに利用開始できる(図表1の青枠)。

図表1
図表1

また、このページでは、人気のAI、画像生成、文章生成、生産性向上、調査・研究、プログラミング、教育、ライフスタイルといった主要カテゴリー別に、実務に役立つ高機能AIが整理され、わかりやすく表示されている。利用者は仕事の用途に応じてカスタマイズされたAIを利用できる。たとえば、生産性向上の項目に表示されている生成AIの一覧には、複数のPDFをアップロードして、そのPDFの内容を要約したり、膨大なPDFコンテンツの中から必要な情報を抽出できるAIや(図表2赤枠)、見栄えの良いPowerPointのスライドの作成を対話形式で生成できるAIが提供されている(図表2青枠)。

図表2
図表2

次に、特化型生成AIを作ることができる機能について確認してみよう。特化型生成AIの作成機能を用いると、自社の業務に特化したAIを作成できる。実際にこの生成AIを作る機能のトップ画面を開いてみたところ、生成AIのナビゲーターは、『こんにちは!新しい GPT の構築をお手伝いします。「新製品のビジュアル生成を支援するクリエイティブを担当してください」、「コードのフォーマットを支援してくれるソフトウェア エンジニアを担当してください」などと言えます。何を作りたいですか?』と質問してきた。そこで必要とするAIの役割について対話したり、情報を読みこませていくことによって自社に必要なAIを作成できる。たとえば、自社の内部資料となる基準書やマニュアル照会対応AIを作りたい場合、プログラムスキルがない人でも対話形式でAIに伝えれば、自社専用の基準書・マニュアル照会AIを作ることができる(図表3)。

図表3
図表3

最後に、低価格かつ情報管理が安心である点について触れたい。たとえば、この生成AIの個人向け月額利用料金は1人当たり20ドルである。しかし、2名以上で利用する中小企業向けの料金は、1人当たり25ドルである。個人向けとほぼ同じ価格帯で提供され、かつサブスクリプション形式のため初期構築費などの初期費用がかからないため、中小企業でも導入しやすい。すでに大企業向けの生成AIは多く存在するものの、導入費用が高額であったり、ITに詳しい人材がいないと導入が難しい点が障壁となっている。さらに、中小企業向け生成AIにおいては、セキュリティが強化された仕組みを採用しているため、社内情報や顧客情報などの機密情報を扱うことが可能である。

ただし、これらの情報をAIに学習させる際には、プライバシー保護および法的規制を遵守し、セキュリティリスクを最小限に抑える必要がある。透明性の高いプロセスを通じて、これらの情報をビジネスに活用する中小企業にとって、AIは有効なツールであるといえる。

中小企業向け生成AIは、高機能かつ特化型のAIを低価格で利用可能な点が特徴である。特に、自社専用のAIを容易に構築できる機能は、ビジネスのカスタマイズに貢献し、限られたリソースの中でも最大限の成果を生み出せるようにする。また、個人情報の保護や安全なデータ管理の提供は、安心して技術を活用できる環境を実現する。このように、中小企業向け生成AIは、経営のデジタル化を加速させ、新たなビジネス機会の創出に寄与する重要なツールであるといえる。

3.中小企業の課題と生成AIによる変革

中小企業は、生産性の向上、人手不足への対応などの経営課題に直面しているが、生成AIの導入は、これらの課題を解決する可能性を秘めている。

生産性の向上については、AIの活用によりルーチン作業だけでなく、専門性を要する業務も効率化し、従業員がより創造的な仕事に集中できるようになる。たとえば、単純作業の自動化だけでなく、データ分析や市場調査などの専門業務をAIにより自動化することで、生産性は大きく向上する。また、高齢社員の豊富な経験や技術をAIによってマニュアル化し、若手社員の教育に活用することで、ノウハウの組織共有化に対応できる。AIの導入をきっかけに新たなAI人材を採用すれば、企業のIT技術力の向上を図ることができる。

一方で、中小企業がAIを導入する上での障壁も存在する。AIへの理解度の不足、日々の業務に追われる中でのAI導入チームの設立と業務フローの開発・実行の困難さが挙げられる。さらに、英語での情報提供が多いため、導入に躊躇する企業も少なくない。この問題を解決するために、今後、AI技術に関する教育の提供、導入に向けたサポート体制の構築が一層求められることになるだろう。

以上みてきたように、中小企業向け生成AIは、労働力不足を補い、コスト削減を実現し、ビジネスの柔軟性とセキュリティを高めることで、中小企業の経営に重要な役割を果たす可能性を秘めている。AI技術の活用は、中小企業が持続可能な成長を果たすための重要な鍵となるといえるであろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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