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ポートフォリオ診断AIの衝撃

~新NISA開始!投資ポートフォリオにAIは役立つのか~

柏村 祐

目次

1.投資ポートフォリオの調整は難しい

2024年1月から新NISA制度が始まり、投資に対する関心が高まっている。新NISAは、非課税で投資を行うことができる制度で、特に長期的な資産形成に適している。この制度を利用することで、株式や債券など様々な投資商品を組み合わせて資産形成を行える。しかし、一般の人々にとって、様々な投資商品を組み合わせる投資ポートフォリオの調整は容易ではない。ポートフォリオとは、株や債券など、様々な投資商品を組み合わせたもので、これを適切に管理するには、投資に関する知識、経済状況への理解が必要である。今般の新NISA制度導入によって、ポートフォリオの構築と管理がより重要になっており、投資に対する理解を深めることが求められている。

経済の状況や世界情勢が市場に大きな影響を与えるため、市場の動きを常に注意深くみて、適切な投資戦略を立てることが必要である。しかし、投資家一人ひとりのリスク許容度や投資目標は異なるため、すべての人に合った1つの最適なポートフォリオ戦略は存在しない。また、戦略を立てた後のポートフォリオの管理も難しい。投資の多様化はリスク分散の方法として有効だが、どの資産にどれだけ投資するかの決定、そしてそのバランスを維持することは、市場の動向や個人の状況を踏まえて慎重に行う必要がある。

以上の通り、戦略の立案からその管理に至るまで、投資には専門知識と継続的な管理が求められるが、そのような投資ポートフォリオ管理を支援するポートフォリオ診断AIが登場している。このAIは、高度なアルゴリズムと大量の市場データを利用してポートフォリオを分析し、最新の投資情報に基づく最適な提案を行う。さらに市場の変動をリアルタイムで監視し、投資家のリスク許容度や目標に合わせて、最適化された投資戦略を提供する。

本稿では、このポートフォリオ診断AIの実態と可能性について、具体的な事例を交えて考察する。

2.ポートフォリオ診断AIの実態

まず、実際に想定される投資家のプロフィールとポートフォリオをAIに読み込ませて診断を行った。想定した投資家像は以下の通りである(図表1)。

図表1
図表1

1つ目の事例の高橋さんの情報について、ポートフォリオ診断AIに資産保有状況を読みこませ診断を指示したところ、AIは高橋さんに関する追加情報として投資予算、リスク許容度、投資期間、主な財務目標をたずねてきた。そこで「投資予算がないこと」「リスク許容度は低いこと」「投資期間は60歳までの15年」「主な財務目標は退職準備」と回答した。その結果ポートフォリオ診断AIは、現在のポートフォリオとリスク許容度と投資期間、主な財務目標を踏まえたアセットアロケーション(資産配分)の提案、特定の投資オプション、期待されるリターン、リスク評価、リバランス戦略ごとにわかりやすい診断を提供した(図表2)。

図表2
図表2

また、ポートフォリオ診断AIに、リバランスしたポートフォリオ案の作成を依頼したところ、AIは、高橋さんの要望に基づいた新しいアセットアロケーション、各アセットの割合と金額、調整の概要、注意点を示した(図表3)。なお、リバランスとは、投資ポートフォリオ内の各資産の割合を、元の投資戦略や目標に合わせて再度調整することを意味する。

図表3
図表3

次に2つ目の事例として、佐藤さんの情報について、ポートフォリオ診断AIに資産保有状況を読みこませ、診断を依頼したところ、AIは、佐藤さんに関する追加情報として投資予算、リスク許容度、投資期間、主な財務目標をたずねてきた。そこで、「投資予算が200万円あること」「リスク許容度は高いこと」「投資期間は退職まで」「主な財務目標は家の購入」と回答した。その結果、ポートフォリオ診断AIは、アセット配分、具体的な投資オプション、期待されるリターン、リスク評価、リバランス戦略ごとにわかりやすい診断を提供した(図表4)。

図表4
図表4

ポートフォリオ診断AIに、リバランスしたポートフォリオ案の作成を依頼したところ、AIは、佐藤さんの要望に基づいた再バランス後のポートフォリオ案、リバランスのポイント、リバランスの目的、注意点を示した(図表5)。

図表5
図表5

これら2つの事例から、投資家の属性(年齢、資産等)に加え、投資予算、リスク許容度、投資期間、目標といった個人の状況に応じた情報を入力することで、その人に合ったきめ細かな診断を受けられることがわかる。特にリスク許容度の違いによって提案されるポートフォリオの内容が大きく異なる点は興味深い。低リスクを好む高橋さんには比較的安定した収益が期待できる債券や配当株への配分が提案されている。一方、リスクをある程度許容できる佐藤さんには、リターンが大きい反面ボラティリティも高い新興国株や不動産関連投資の比重が高くなっている。このようにポートフォリオ診断AI は、投資家の個別事情に柔軟に対応したポートフォリオ設計ができる。

また、具体的な数値とともに結果が示されていることもポイントである。AIの出力結果が単なる抽象論ではなく、実際に使える形で提供されている。特にリバランス後の新しいポートフォリオ案は、各資産の目標配分と金額が明示され理解しやすい。

3.ポートフォリオ診断AIの未来展望

以上のように、ポートフォリオ診断AIは個々の投資家の状況に合わせた資産配分の提案やリバランス戦略を効果的に行う能力をもっている。特に2024年1月から始まった新NISA制度において、初めて投資を行う人々にとって、このようなAI診断ツールは大きな助けとなる。新NISAを利用して長期的な資産形成を目指す投資家は、市場の複雑さやポートフォリオ管理の難しさに直面するが、AI診断はこれらの課題に対処する有効な方法を提供する。

しかしながら、AI診断を利用する際に留意すべき点もある。AIはアルゴリズムに基づいて提案を行うため、個人的な状況や市場の動きを完全に把握できるわけではない。したがって、AIの提案を参考にする一方で、投資家自身も市場動向や個々の状況についての理解を深めることが重要である。

AI技術の進歩により、ポートフォリオ診断は今後さらに高度化することが期待される。現在のAIは個人のリスク許容度や投資目標に基づいて提案を行っているが、将来的には投資家のライフスタイルや価値観、感情的な要素までも考慮に入れることが可能になるだろう。たとえば、環境に配慮した投資や社会的責任を重視する投資など、個々の価値観に合致したポートフォリオが提案されるようになるのではないか。

また、AI技術の進歩は、市場予測の精度も格段に向上させることが期待される。従来の市場分析は過去のデータに依存していたが、AIの進化により、よりダイナミックでリアルタイムな市場分析が実現し、突発的な市場の変動や異常事態にも迅速かつ適切に対応できるようになるかもしれない。さらに、ポートフォリオ診断AIの発展は、新しい投資の形態を創出する可能性もある。たとえば、AIが個々の投資家のポートフォリオを連携させ、共同投資のような新たな機会を提案することも考えられる。

ポートフォリオ診断AIの未来は、テクノロジーの進化と倫理的なガイドラインのバランスを取ることにかかっている。AIがもたらす利便性と効率性は魅力的であるが、人間の直感や倫理観との調和が求められる。このバランスを適切に保つことが、ポートフォリオ診断AIの健全な発展と、投資市場全体の持続可能な成長に不可欠だといえるだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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