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テクニカル分析AIの衝撃

~AIを使ってS&P500とユーロ円のテクニカル分析をやってみてわかったこと~

柏村 祐

目次

1.テクニカル分析とは

テクニカル分析とは、金融市場における価格動向を予測する手法の1つであり、株式はもちろん為替や商品市場など、様々な市場で幅広く用いられている。この手法は、市場の価格変動が特定のパターンを繰り返すという仮説に基づいており、主に過去の価格や取引量のデータに基づいて将来の市場の動きを予測するものである。たとえば、チャート分析、移動平均線、相対力指数(RSI)などの指標が用いられる。

従来のテクニカル分析は人の経験や直感による部分が多く、投資初心者には理解や適用が難しい面がある。さらに、テクニカル分析の結果は分析した専門家によって異なることがあり、その解釈も主観的であることが多い。そのため、テクニカル分析は確実な未来予測を提供するものではなく、あくまでも市場動向の解釈手段の1つに過ぎない。

現在、技術進歩に伴いテクニカル分析にAIが用いられるようになっている。AIは膨大なデータから、人間の専門家よりも高速で精度の高い分析を行うことができる。AIによるテクニカル分析は、投資家の判断基準や市場の動きに新たな変化を生じさせる可能性があり、今後の金融市場におけるテクニカル分析の役割とその進化に注目が集まっている。本稿では、AIを活用したテクニカル分析の能力と可能性について、具体的な事例を交えて考察する。

2.テクニカル分析AIの実態

まず1つ目の事例としてS&P500インデックスを用いて分析を行った。テクニカル分析AIにチャートを読みこませたうえで「分析してください」と指示したところ(図表1)、AIは直ちに分析結果を表示した。その内容は、テクニカル指標についてのコメント、AIによる総括コメントである。

図表1  テクニカル分析AIにS&P500チャートを読みこませ分析を指示している画面
図表1  テクニカル分析AIにS&P500チャートを読みこませ分析を指示している画面

テクニカル指標に関するコメントでは、トレンド、サポートとレジスタンス、キャンドルスティックパターン、移動平均リボン、RSIの5つの主要指標に着目し、各々に対するAIの詳細な分析が示された(図表2)。また、「総合的にこのチャートは強気の市場状態を示しており、グレードはA-とします。しかし、RSIが示す過熱状態を考慮に入れる必要があり、市場のトップに近づいている可能性があるため、新しいポジションを取る際には注意が必要です。常にリスク管理を忘れずに行うことが重要です」という総括コメントが示された。

図表2  AIによるテクニカル指標のコメント(S&P500の例)
図表2  AIによるテクニカル指標のコメント(S&P500の例)

次に事例の2つ目として、テクニカル分析AIにユーロ円レートのチャートを読みこませたうえで「分析してください」と指示したところ(図表3)、同様にテクニカル指標についてのコメント、AIによる総括コメントが示された。

図表3  テクニカル分析AIにユーロ円チャートを読みこませ分析を指示している画面
図表3  テクニカル分析AIにユーロ円チャートを読みこませ分析を指示している画面

テクニカル指標に関するコメントは、トレンド分析、サポートとレジスタンス、移動平均(MA)、MACD指標、出来高、ローソク足パターンの6つが表示された(図表4)。また、ユーロ円が「このチャートは「C」よりも悪い評価を受ける可能性が高く、弱気の感情を示しています。主要な移動平均を大きく下回る動き、負のMACD、強気のローソク足パターンの欠如は、弱気のモメンタムが続く可能性があることを示唆しています。トレーダーは潜在的な短期エントリーを探すかもしれませんが、サポートレベルでの反発やブレイクダウンの兆候に注意する必要があります」という総括コメントが示された。

図表4  AIによるテクニカル指標のコメント(ユーロ円レートの例)
図表4  AIによるテクニカル指標のコメント(ユーロ円レートの例)

以上のように、テクニカル分析AIを使用してS&P500とユーロ円レートを分析したところ、AIはテクニカル指標に基づいた詳細な分析を迅速に提供することが明らかになった。1つ目のS&P500に対しては、トレンド、サポートとレジスタンス、キャンドルスティックパターン、移動平均リボン、RSIなどのテクニカル指標に関するコメントと、強気トレンドにあるが買い過ぎの可能性を示唆する総括コメントが表示された。2つ目のユーロ円レートについても同様の分析が行われ、トレンド分析、サポートとレジスタンス、移動平均(MA)、MACD指標、出来高、ローソク足パターンなどの指標に基づくコメントと、弱気のモメンタムが続く可能性を示す総括コメントが提供された。これらの事例から、テクニカル分析AIは投資判断のための有力なツールの1つになりうるといえるだろう。

3.AIを活用したテクニカル分析の可能性

テクニカル分析は過去の価格データや取引量に基づき市場の将来の動向を予測する方法である。しかし、この伝統的なアプローチは主観性が強く、解釈に幅がある。そのため初心者には理解や適用が難しい側面がある。これに対し、AIによるテクニカル分析は、膨大なデータを基に迅速かつ客観的に分析を行う。AIは専門家と異なる視点で市場を解釈し、新たな洞察を提供する。その特長は、その「最新の情報を瞬時に分析しわかりやすく説明する能力」にあり、大量のデータを短時間で分析し、市場の動向を示唆する総括コメントを提供することができる。人間が見落としやすい市場の微妙な動きを捉えることができるため、投資家は市場の動きをより深く理解し、適切な投資判断を下す一助となる。特に、AIの分析結果は初心者にも理解しやすく、視覚的な表現は市場の動向を把握しやすい。ただし、AIの分析も万能ではなく、市場の変動やファンダメンタルズの分析との組み合わせが重要である。

以上のように、AIによるテクニカル分析は従来の専門家による分析とは一線を画す新しい視点を投資家に提供する。膨大なデータに基づく精密な分析は、市場理解を深め、投資戦略の策定に寄与するだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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