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ブレインストーミングAIの衝撃

~AI を使って経理部門の生産性向上について考えてみた~

柏村 祐

目次

1.ブレインストーミングの特徴

ブレインストーミングは、集団によるアイデア出しの手法であり、多くの企業や教育機関で活用されている。その目的は、様々な視点からアイデアを引き出し、創造的な解決策を生み出すことにある。ブレインストーミングの特徴は、参加者が自由に意見やアイデアを提案し、それらを互いに批判せず受け入ることにある。このプロセスでは、多様なアイデアを自由に出し合い、それらをもとに新しいアイデアを生み出すことが重要である。進行や管理よりも、自由に意見を述べ合ったうえで、それをもとにいかに新たな価値を生み出すかがブレインストーミングの鍵となる。

ブレインストーミングとディスカッションの違いは、ブレインストーミングがアイデアの生成と収集に重点を置くのに対し、ディスカッションは特定のアイデアや問題について深く議論し、分析する点にある。ブレインストーミングではアイデアの自由な発想が奨励され、その場での批判は避けられる。一方でディスカッションでは、アイデアや意見が深く掘り下げられ、合理的な議論によって評価される。ブレインストーミングを効果的に進行させるには、セッションの目的を決め、進行役と参加者を選定することが重要である。事前の準備と適切な進行が、ブレインストーミングを価値あるものするためのポイントである。

昨今のAIの進化に伴い、ブレインストーミングの進行をサポートするブレインストーミングAIが登場している。このAIは、セッションの目的や参加者の特性に基づき、最適な進行プランを自動生成する。進行シートには、セッションのタイムライン、活動の概要、ルール設定、アイデア生成テクニックが含まれ、主催者はセッションの準備にかかる時間を削減し、質を向上させることに集中できる。本稿では、ブレインストーミングAIの実態とその可能性について考察する。

2.ブレインストーミングAIの実態

以下では、ブレインストーミングAIが実際にどのように機能するかをみる。本稿では、筆者が研究対象の1つとしているAIを活用した経理部門の生産性向上をテーマとした。

テーマについて、ブレインストーミングAIに「AIは経理部門で生産性をどのように向上させるか?」と問いかけたところ、AIは迅速にブレインストーミング用の進行シートを作成した。このシートは、図や表を巧みに配置した形式で、大項目として「AIの活用事例」(図表1緑部分)、「課題の洗い出し」(図表1紫部分)、「アイデアの共有」(図表1青部分)に分かれている。

図表1
図表1

まず、「AIの活用事例」という大項目の下では、「自動請求書作成」「経費精算の自動化」「仕訳帳の自動化」といった中項目が設定され、それぞれの特徴に関する詳細な解説が付け加えられている(図表2)。これは、AIが経理部門の生産性向上にどのように寄与するかを示す事例であり、ブレインストーミングの参加者にとって重要な情報源となる。

図表2
図表2

次に、「課題の洗い出し」という大項目では、付箋形式で課題を整理できるフォーマットが提供される。この部分には、「経理業務の煩雑さ」「データの入力ミス」といった具体的な課題が記載されており、これらは参加者自らが課題を洗い出していく上で参考となる(図表3)。

図表3
図表3

さらに、「アイデアの共有」という大項目では、中項目として質問1「どの業務を自動化することができますか?」、質問2「どの業務を効率化することができますか?」という2つの質問が設定された。質問1の内訳では自動化の対象業務として経費精算、請求書処理、月次決算、給与計算が出力された。これらの対象業務は、AIを活用して経理部門の生産性をどのように向上させるかのターゲットを明確化しており、ブレインストーミングの参加者にとって価値ある情報となる。また、各項目にはアイデアを考えるための所要時間として10分の時間が割り当てられている。これにより、参加者はAIを活用した業務自動化のアイデア出しのための時間配分を進行シートから把握し、効率的なブレインストーミングを行うことができる(図表4)。

図表4
図表4

加えて、ブレインストーミングAIは、出されたアイデアを効果的に整理し、グループ化する機能も有している。AIはアイデアをテーマ別や重要度に基づいて分類し、類似または関連するアイデアを1つのグループにまとめることができる。これにより、参加者や主催者は、さまざまなアイデアの中から特に有望なものを選出しやすくなり、ブレインストーミングの成果をさらに深めることができる。このように、AIの活用は、アイデアの多様性と創造性を保ちつつ、効率的な意思決定とアイデアの実行への移行を促進し、最終的な成果の質と実現可能性を大きく向上させることにつながる。

3.AIを活用したブレインストーミングの進行とアイデアの整理について

AIを活用したブレインストーミングの最大の価値は、進行の円滑化と参加者のアイデア出しを支援することにある。AIが自動的に生成する進行シートは、主催者が直面する多くの問題を解決する。AIによるサポートにより、主催者はブレインストーミングの進行に関する悩みから解放され、よりクリエイティブな側面に集中できるようになる。これはブレインストーミングの質を向上させ、より良いアイデアや解決策を生み出す可能性を高める。

また、参加者にとっても、AIが提示する情報が非常に役立つ。AIが生成する進行シートには、セッションの流れや目標、さまざまなアイデア生成の方法が明確に示されており、参加者はこれらの情報を確認しながらブレインストーミングに参加できる。これにより、参加者はアイデアを出しやすくなり、セッションにおける自身の役割を理解しやすくなる。AIが提案するアイデアや課題の洗い出し方法は、参加者が新しい視点やアプローチを発見するのを助ける。これは、従来の手法では見過ごされがちな革新的なアイデアの発掘を促すことになるだろう。

ブレインストーミングの最終段階においては、AIは参加者から出された多くのアイデアを効率的に整理し、発展させる役割を果たす。AIは、提案されたアイデアをテーマ別や重要度に基づいて分類し、類似または関連するアイデアをグループ化することができる。これにより、参加者や主催者は、アイデアの中から特に有望なものを選出しやすくなる。さらに、AIはこれらのアイデアに対して追加的な情報やデータを提供することが可能であり、たとえば市場動向、過去の類似事例、科学的研究などの情報を参考にして、アイデアの実現可能性や革新性を評価することができる。その結果、アイデアの質を高め、より現実的かつ実用的な解決策へと発展させることが可能になるだろう。

以上の通り、ブレインストーミングAIの活用により、セッションの進行品質を高め、アイデアの実行可能性を向上させることが期待できる。そしてそれは、ブレインストーミングが従来以上にイノベーションを生み出すことにつながるのではないだろうか。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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