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フローチャート生成AIの衝撃

~ここまで来た!フローチャート作成におけるAI活用~

柏村 祐

目次

1.フローチャートの重要性

フローチャートとは、日本語で「流れ図」のことで、物事の流れを図や矢印で表す方法のことである。このツールを使用することで、業務の効率や正確性が向上し、問題を解決したりプロセスを改善したりする際の指針となる。

フローチャートは、プロセスの論理構造やデータの流れを明示することで、設計ミスや要件の見落としを防ぐことにつながるため、複雑な業務プロセスやシステムの設計・開発段階で活用されることが多い。

また、フローチャートはコミュニケーションのツールとしても非常に有効である。プロジェクトチーム内での意思疎通や、異なる部門間・企業間での協業時に、フローチャートは共通の理解を築くための基盤となる。これにより、仕事のプロセスが可視化され生産性が高まる。

フローチャートを作成するためは、単純に図形を繋げるだけでなく、その背後にあるプロセスやロジックを正確に捉え、視覚的に表現するための高度なスキルが必要である。特に複雑な業務やシステムをフローチャートで表現するには、多くの時間や労力がかかる。また、人間が手作業で作成するフローチャートでは、ミスや不足が生じるリスクもある。

生成AIを用いれば、与えられたデータや条件に基づく高度な分析に基づいて、フローチャートを自動生成することができる。これにより、手作業での作成に伴うミスや労力が大幅に削減される。また、生成AIによるフローチャートは、その精度や効率性においても人間の手作業を助ける可能性がある。そのため、フローチャートを効率的に生成する手段として、生成AI技術が注目されている。

以下では、フローチャートを効率的に生成するAIの実態を紹介するとともに、その可能性について論じる。

2.フローチャートAIの実態

フローチャート生成AI(以下、フローチャートAI)とは、人工知能技術を利用して、業務プロセスや計算手順のフローチャートを自動生成、最適化するシステムである。これは、従来人間が手作業で行っていたフローチャートの作成を、AIが自動で行うことができる技術である。フローチャートAIの登場により、フローチャートの作成時間が大幅に削減され、より複雑で精密なフローチャートの生成が可能となっている。また、AIは人間が見過ごす可能性のあるパターンや構造を発見し、さらに効果的かつ正確なフローチャートを提供することができる。フローチャートAIの利用は、ユーザーがプロセスの全体像を把握しやすくするだけでなく、プロセス内の矛盾や非効率性を明らかにする。これにより、ユーザーはプロセスの改善点を特定しやすくなり、業務の効率化や品質向上が期待できる。また、フローチャートAIは、定期的にプロセスを見直し、最適化する際の支援も行うことができる。

ここからは、フローチャートAIの活用方法を確認していく。本稿では、具体的な事例として、商品注文処理フローと採用プロセスフローの2つについて取り上げる。

まず、フローチャートAIに基づく商品注文処理フローの作成工程は、手順のテキスト化とビジュアル化の2工程に分けられる。テキスト化工程において、「商品注文処理フローを作成してください」と指示したところ、フローチャートAIは、消費者が商品を注文する際に行われる一連のプロセスを順序立てて生成した(図表1)。

図表1 AIによる商品注文処理フロー項目
図表1 AIによる商品注文処理フロー項目

そして、テキスト化された商品注文処理フロー項目をフローチャートAIに読み込ませ、「フローチャートを生成してください」と指示したところ、AIはその内容を認識したうえで、ビジュアライズされたフローチャートを生成した(図表2)。

図表2 AIにより生成された商品注文処理フローチャート
図表2 AIにより生成された商品注文処理フローチャート

次に、2つ目の事例として採用プロセスにおけるフローチャートAIの活用を確認する。テキスト化工程において、「採用プロセスを作成してください」と指示したところ、フローチャートAIは、企業における一般的な採用プロセスを順序立てて生成した(図表3)。

図表3 AIによる採用プロセスフロー項目
図表3 AIによる採用プロセスフロー項目

そして、テキスト化された採用プロセスフロー項目をフローチャートAIに読み込ませ、「フローチャートを生成してください。各ステップに関連するアイコンを追加してください」と指示したところ、AIはその内容を認識したうえで、各ステップに関連するアイコン付きのビジュアライズされたフローチャートを生成した(図表4)。 以上みてきたように、フローチャートAIの活用により、従来のフローチャート作成プロセスでは考えられなかったレベルで、誰もが迅速にたたき台を作成できる環境が生まれている。これにより、フローチャート作成にかかる思考時間や描画時間が大幅に短縮され、人々はフローチャートAIが生成したたたき台の仕上げに専念できるようになっている。

図表4 AIにより生成された採用プロセスフローチャート
図表4 AIにより生成された採用プロセスフローチャート

3.フローチャートAIの可能性

フローチャートを作成することで得られるメリットは、効率性と共有性である。具体的には、段取りが明確になること、共有することで全体が見える化されること、そして、それに基づく具体的なアクションの指針が得られることである。効率的なフローチャートは、これらの要素を包含し、理解しやすく、実践しやすいものであるべきである。

フローチャートAIは、これらの要素を備えたフローチャートを作成することができる。ただ、それはあくまでツールとしての機能に過ぎないため、極めて最適化されたフローチャートではあるものの、それが実際の現場のニーズや文化、制約に適合しているかどうか、人間が判断する必要がある。

実際の業務改善の過程では、フローチャートAIがフローチャートの案を出し、それを基に人間がディスカッションを行い、手直しを加えることが望ましい。この協働の中で、AIのもつデータ分析や最適化の能力と、人間のもつ現場の知識や経験、直感が組み合わされることで、最も効果的なフローチャートが生まれる。フローチャートは、ToDoリストやマインドマップと同様に、業務の流れや手順を明確にし、共有する手段として役立つが、AIを活用する最大のメリットは、複雑なタスクやデータの処理を高速で正確に行うAIの力を借りつつ、それを実際の業務や状況に合わせて調整できる点にある。

繰り返しになるが、フローチャートを実行するのは最終的には人間である。そのため、フローチャートAIが作ったフローチャートをどのように活用すればよいのかは、極めて重要なテーマとなる。ビジネスや教育など日常の場面で、物事を整理し、皆が同じ方向で行動し、目的を果たすために、フローチャートは有効である。それを活用することで、人間がどのように行動すればよいのかが明確になる。

フローチャートAIを活用することで、業務の効率化や改善につながる可能性がある。しかし、それを最大限に活かすには、人間とAIの協働が不可欠である。人間は、AIの提供する情報や提案を受け取りつつ、現場の実情に合わせて調整し、実行する役割を担う。フローチャートAIは1つのツールに過ぎないが、そのツールを正しく活用することで、業務の質や効率が向上するのである。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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