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マルチアンケート分析AIの衝撃

~多様なデータから未来を読み解く新時代の知恵~

柏村 祐

目次

1.アンケート分析AIの進化

企業にとって顧客アンケートは、ニーズや期待を把握し、ビジネスや商品の改善に活かすための重要なツールである。選択式の質問は定量化が容易で分析もしやすいが、自由記述欄には多様な回答が寄せられるため、集計・分析が相対的に難しい。

以前筆者が執筆したレポート(注1)では、生成AIを利用して、単一のアンケートファイルを分析する方法について論じた。その中で、生成AIがアンケートデータの分析をいかに助け、企業が顧客のフィードバックを迅速に理解するのに有効であるかを明らかにした。

本レポートではさらに一歩進んで、複数の異なるフォーマットのアンケートデータを一元的に読み込み、統合的に分析できるマルチアンケート分析AIの利用可能性に焦点を当てる。この革新的な技術により、従来時間と労力を要していた複数のアンケートデータの統合や分析作業が大幅に効率化される。

また、この手法により、企業は顧客の意見や要望をより深く、より迅速に理解し、それをビジネス戦略や製品開発に反映できるようになる。本レポートでは、この新たな手法の具体的な応用例、実績、そして将来の可能性について考察する。

2.マルチアンケート分析AIの具体的活用事例

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、今や多くの業界や組織が取り組む重要な課題となっている。このDXの波に乗るために、様々なセミナーやワークショップが実施されており、それらの効果や受け手の意見を知るためのアンケートも頻繁に行われている。筆者自身も、今までDXに関するセミナー講師を多く手がけ、そのアンケート結果を収集してきた。しかし、異なるタイミング・地域・参加者層によって行われた複数のアンケートを個別に分析するだけでは、全体的な傾向や深い洞察を得るのは難しい。そのような場合には、複数の異なるアンケートデータを統合的に分析できるマルチアンケート分析AIが有効だ。本節では、筆者が実際に収集したDXセミナーのアンケート結果を、マルチアンケート分析AIを活用してどのように分析したのか、その手法と得られた結果を紹介する。

実際に表形式のファイル2つ、プレゼンテーション形式のファイル1つのアンケート結果を1度にマルチアンケート分析AIに読み込ませ、「セミナーの評価をお願いします」と入力した。するとマルチアンケート分析AIは、ファイル形式の異なるアンケート結果情報の分析したうえで、セミナーの評価と提案を生成した(図表1)。マルチアンケート分析AIの提案として挙げられた「内容の拡充」「新しいテーマの導入」「ディスカッションの時間の設定」「参加者の背景に合わせた内容の提供」の4項目の内容を確認したところ、ディスカッションの時間の設定や参加者の背景に合わせた内容の提供としてグループワークを実施することで、参加者の具体的な問題解決や学びの進化が図れるという提案は、今後筆者がセミナーを開くにあたり必要と認識していた事柄と一致しており興味深い。

図表 1 マルチアンケート分析 AI による評価と提案
図表 1 マルチアンケート分析 AI による評価と提案

3.マルチアンケート分析AIの概要と想定される活用分野

マルチアンケート分析AIは、複数のアンケートデータを一元的に解析できる。この技術の背後には、生成AIの進化が挙げられる。異なるフォーマットや構造のデータに対しても、AIはデータを自動的に統一されたフォーマットで解析することが可能である。具体的な機能として、複数のアンケートデータからの情報を統合し、そのデータの相互関連を明らかにするデータ統合、アンケートの回答や意見を自動的にカテゴリに分ける自動カテゴライゼーション、回答者の感想や意見の傾向を評価する感情分析などが挙げられる。

ビジネスの現場においては、商品の市場調査や顧客のフィードバック収集の際に、このAIの能力を活用して市場のトレンドや顧客のニーズを迅速に把握し、効果的な意思決定を行うケースが増えている。一方、研究の領域では、異なる調査や実験からのデータを統合し、新しい知見や仮説の検証を支援するツールとして利用されている。将来的には、マルチアンケート分析AIの技術がさらに進化し、リアルタイムのアンケート解析や高度な感情分析、異文化間のアンケート結果の統合分析などの新たな応用が期待される。マルチアンケート分析AIは、膨大なアンケートデータの効率的な分析を通じて、ビジネスや研究の分野での重要な位置を占めることが予想される(図表2)。

図表 2 マルチアンケート分析 AI の活用分野
図表 2 マルチアンケート分析 AI の活用分野

4.マルチアンケート分析AIの可能性

マルチアンケート分析AIの進展は、情報の海を渡る新しい航路を切り開いている。この技術が社会に広く普及すると、アンケートの解析と利用のパラダイムが大きく変わり得る。マルチアンケート分析AIの普及により、より多くの人々や組織がこの技術に容易にアクセスし、利用することが可能になるだろう。これは、異なるアンケートデータを統合し、新たな知見や理解を生み出すことにつながる。現代社会ではデータが加速度的に増加しており、効率的かつ正確なデータ分析が不可欠だ。その意味でも、マルチアンケート分析AIの重要性は今後ますます高まるであろう。この技術のさらなる発展により、従来は困難とされていたアンケートデータの高度な統合や解析が可能になり、未知のパターンや知識を発見できるようになる。ビジネスの世界では、この技術の導入により、より迅速な意思決定や市場戦略の策定が可能となり、競争優位の強化につながる強力な武器となる。また、学術研究のフィールドでも、異なる分野の研究結果を一元的に解析することで、新しいアイデアや理論が生まれる可能性がある。

アンケートの目的は、さまざまな意見を集計して分析した結果をもとに、戦略を立てることである。生成AIを活用すると、集計・分析にかかる作業時間を短縮できる。また、アンケートで集まった意見を生成AIが分析することで、企業の戦略やイノベーションに対する示唆を与える。これは、商品やサービスの開発・改善、顧客満足度の向上に役立ち、社会全体の発展に寄与するだろう。

最終的に、マルチアンケート分析AIの未来は、データと知識の新たな地平を切り開くものと期待される。アンケートの解析と利用の可能性が無限大に広がり、社会の様々な問題解決に向けた新しいアプローチが可能となる。多様で複雑な情報が錯綜する現代に、マルチアンケート分析AIが新たな知識や理解を引き出す力は、計り知れないものとなるであろう。


【注釈】

  1. 生成AIはアンケート分析に活用できるのか~AIと協働しながらアンケートを分析し企画立案する時代の到来~
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/280108.html

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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