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スウェーデンの「1177.se」が示す日本のデジタルヘルスの未来

~北欧の先進的健康ケア技術と日本での取り組みの可能性~

柏村 祐

目次

1.スウェーデンで展開されるデジタルヘルスサービス「1177.se」

スウェーデンは福祉国家として知られている。高い税収によって多くの公共サービスが賄われ、教育、医療、年金、失業保険といった広範で手厚いサービスが市民に提供されている。このスウェーデンでは、国民の健康増進と医療機関とのやり取りを効率化するデジタルヘルスサービスが普及している。

2003年にストックホルム地域で「Mina vårdkontakter(私の医療連絡先)」として始まった「1177.se」は、2011年には国内の全地域が参加するようになった。1177.se は、スウェーデンの公式な健康情報ポータルとして、全国の住民に健康情報やアドバイスを提供している。医療へのアクセス向上を目的としたこのデジタルヘルスサービスは開始から約20年が経過し、処方箋の取得、医療アドバイス、医療機関への予約サービスから、2008年には、クラミジアテストのような新しい検査の予約サービスが追加され、2012年にはモバイル対応が実施された(図表1)。

その結果、2021年の1177.seのユーザー統計によれば、年間1億7,200万回のログインが行われ、580万回の医療機関への予約が行われるなど、大いに利用されている(注1)。 本稿では、1177.seの概要と仕組みについて解説する。

図表1
図表1

2.デジタルヘルスサービス「1177.se」の実態

1177.seを利用することで、スウェーデン国民は自身の医療情報を安全に閲覧できる。また、医療機関との連絡が可能となり、睡眠障害、うつ病、ストレス、不安といった問題や、ギャンブルやアルコールなどの依存症を持つ人々はオンラインで治療を受けることができる。1177.seにログインするには、e-legitimation(電子認証)が必要であり、銀行IDまたはFreja plus(スウェーデンの無料電子身分証明書)のいずれかを使用する必要がある。ログイン後、自分自身のカルテの閲覧、処方箋の取得、医療機関の予約といった様々なサービスがオンライン上で利用可能となる(図表2)。

図表2
図表2

ここでは、1177.seで提供されるサービス項目の中から「医療情報の閲覧」、「予約の管理」、「処方箋の受け取り」の3つについて詳述する。

まず、「医療情報の閲覧」では、医療機関での診療や治療に関する情報が記録されている。この記録には、患者の健康状態、治療の経過、医師や看護師からの指示や助言など、医療に関する多岐にわたる情報が含まれる。医療機関のスタッフだけでなく、患者自身もこれらの情報を閲覧できる。患者はオンラインで自らの記録を確認でき、自身の健康状態や治療の経過を把握することができる。医療情報は、患者の同意なしに第三者と共有されることはない。ただし、特定の状況下、たとえば警察や裁判所の要求に応じて、情報が共有されることがある。このような医療情報の管理・共有は、2008年に発行された患者データ法に基づいて行われる(注2)。

次に、「予約の管理」では、様々な医療施設の予約や変更、キャンセルなどの手続きが可能である。具体的には、診療を希望する施設を検索したうえで予約ができ、予約内容を一覧で確認することもできる。診療を希望する施設を検索する際、自分の居住地域を入力し、希望する診療科を指定することで、1177.se 上で関連する医療施設の一覧が表示される。例として、スウェーデンの首都ストックホルムを地域名として入力し、眼科を検索した場合、該当する眼科が地図上に表示される。その中から希望する施設を選択し、予約の機能を利用することで、オンライン上での手続きが完了する(図表3赤枠)。

図表3
図表3

さらに、「処方箋の受け取り」では、18歳以上の者は自身の処方箋情報をオンラインで確認できる。具体的には、オンライン上での処方箋の発行依頼や、これまで受け取った薬の情報、高額治療制度に関する情報などが確認できる。処方箋の受け取りもオンラインで行える。この機能により、患者はどの薬を受け取ったか、どの医師から処方されたかなどの情報を確認できる。特に、複数の医師から処方箋を受け取っている場合や、複数の薬を服用している場合、この機能は薬の管理を容易にする。さらに、医療従事者もこの情報を確認できるため、薬の重複投与や過剰投与の防止が期待できる。

3.日本におけるデジタルヘルスサービスの導入とその重要性

日本の医療体制は、2025年問題を控える中で大きな転換期を迎えている。2025年には、いわゆる「団塊の世代」全員が75歳以上となり、超高齢社会は更に進む。このような中、国民一人ひとりが、医療や介護が必要な状態となっても、できる限り住み慣れた地域で安心して生活し、人生の最期を迎えることができる環境の整備が求められる。

そうした中で、日本における患者の情報管理や医療機関間の情報共有が十分でないことは、大きな課題となっている。特に、医療に関する情報を患者自らがオンラインで確認できないことや、医療機関間の情報連携が不十分なことが問題点として挙げられる。医療情報の一元化や、医療機関間の情報共有の仕組みが確立されれば、患者が自らの医療情報を確認することができるうえ、より的確な治療を受けることにつながる可能性もある。そのため、国は患者の情報を一元化した仕組みの構築を検討するべきだろう。

スウェーデンのデジタルヘルスサービス「1177.se」のような先進的な取り組みを参考に、日本独自の医療情報システムを確立することで、医療の効率化と質の向上を目指すとともに、国民の医療に対する信頼と満足度の向上を図ることができるだろう。

【注釈】

  1. inera.seHPより
    https://www.inera.se/aktuellt/nyheter/2021-rekordar-for-1177.se/
  2. SVERIGESRIKSDAGHPより
    https://www.riksdagen.se/sv/dokument-och-lagar/dokument/svensk-forfattningssamling/patientdatalag-2008355_sfs-2008-355/

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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