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デンマークの革新的な健康情報ポータル

~一元化された情報管理から日本が学べること~

柏村 祐

目次

1.デンマークで進む健康情報の一元化

デンマークはデジタル化の先進国として知られている。

デンマーク政府は世界一の電子政府と評価されており、政府の積極的な取組みの結果、国連が隔年で発表する世界電子政府ランキングで2018年、2020年、2022年の3回連続で世界一に選ばれた(注1)。デンマーク政府がデジタル化の推進に力を入れている領域の1つが、国民の健康情報管理である。デンマーク国民の健康情報は、「sundhed.dk」というポータルサイトで一元管理されている。「sundhed.dk」は、デンマークの公式健康情報ポータルで、国民の健康データの一元化と、健康状態や病気に対する理解促進を目指している(図表1)。本稿では、「sundhed.dk」を概観しつつ、その仕組みを解説する。

図表1
図表1

2.健康情報ポータル「Sundhed.dk」の実態

2003年に開始された「sundhed.dk」は、国民一人ひとりの健康に関するデータを収集し、個々人が自身の健康や病気の状態を簡単に知ることができる。また、sundhed.dkを利用して、医療提供者や健康・病気に関する情報を検索したり、患者の権利に関する情報などを読むことができる。MitIDを使用してログインすると、公的機関が自身に関する情報として登録している健康データを閲覧できる。MitIDは、デンマークのデジタルIDで、デンマークの公共および民間のデジタルサービスにアクセスするために使用される。「sundhed.dk」のサービスは、主に「健康記録」、「登録機能」、「ログ機能」の3つのカテゴリーに分けられる。

まず、「健康記録」は、デンマークの公的医療システムが提供する、個々の患者が自身の健康データを閲覧できる健康記録データである。患者は、自身の病院の記録、検査結果、紹介状、薬剤カードなどの診療記録を確認できる。また、臓器提供に関する自己の意志の登録、治療遺言の作成、親族に対する病院の記録や検査結果の閲覧権限の付与が可能である。さらに、保険からの補助金の額も確認できる。また、1977年以降の病院での治療や1995年以降の外来治療や救急部門での診療に関する情報も閲覧可能である。この「健康記録」は、個々の患者が自身の健康状態と医療履歴を記録し管理するツールとなっている(図表2)。

図表2
図表2

次に「登録機能」について説明する。具体的には、ユーザーはこの機能を使用し、自身の臓器提供の登録状況を確認することが可能である。また、生命維持治療に関する意志を登録し、スクリーニングの進行状況を把握することもできる。さらに、自身の健康情報を他人が閲覧できるようにするための委任状を作成する機能も提供している。病院のカルテにプライベートマークを付けることも可能である(図表3)。プライベートマークは、ユーザーが自身の医療記録を特定の人々から隠すために使用する機能を指す。つまり、この機能を活用すれば、ユーザーは自身の医療記録を特定の医療スタッフや家族から視認できないようにすることが可能となる。

図表3
図表3

「ログ機能」では、ユーザーが「sundhed.dk」を通じて行った医療記録、検査結果、予定、予防接種、基本カード、薬剤カードの参照履歴が表示される。ユーザーが承認した家族や医療専門家による参照履歴も表示される。15歳までの子供のログや、承認を得た家族のログも閲覧可能である。ただし、表示されるのは「sundhed.dk」や共通薬剤カードを通じて行われた参照履歴のみで、医師が自身のシステムで行った参照履歴は「sundhed.dk」では記録されない。

以上みてきたように、「sundhed.dk」は、広範な情報提供を通じて国民の健康的な生活を支える役割を果たす貴重なツールである。これにより、国民は自己の健康状態をより深く理解し、健康管理の知識を得ることができ、予防医療にも貢献する。さらに、このプラットフォームは患者が自身の疾患について詳細に学び、医療専門家とのコミュニケーションを促進する手段も提供する。このような相互理解とコミュニケーションの強化は、医療の質の向上や患者の満足度向上に資する。

同プラットフォームは、医師や患者の負担を軽減する機能も備えている。オンライン予約システムにより、患者は待ち時間を気にせず、自分の都合に合わせて予約を取ることができる。一方、医師は患者の健康情報に容易にアクセスでき、時間をかけて報告書を作成する必要がなくなる。これにより、医師はより多くの時間を患者との直接的な対話や治療に集中でき、全体として医療の効率性と効果性が向上する。以上のように、「sundhed.dk」は患者と医療専門家双方に利益をもたらす革新的な健康管理プラットフォームだといえる。

3.日本が健康情報ポータル「Sundhed.dk」から学べること

前述のとおり、デンマークの「sundhed.dk」は、国民一人ひとりが自身の健康情報を一元管理できる環境を提供することで、国民全体の健康維持・向上に貢献している。この取組みは、我が国も学ぶべきところが多い。

日本でも、全ての国民の健康情報を一元化するシステムを導入できれば、医療情報の管理の効率性が飛躍的に高まる。また、医療機関間の情報共有も円滑になる。これにより、医療サービスの質の向上、診療ミスの防止、さらには患者の医療費負担の軽減につながる可能性がある。現在の日本では、地域や病院ごとに情報が分散しており、患者が自身の健康情報を一元的に把握することが難しい。デンマークの「sundhed.dk」のようなシステムが導入されれば、患者が自身の健康情報を確認・管理することで健康状態への深い理解を得て、適切な医療相談を受けられる。

さらに、医療情報のデジタル化と一元化は、AIのような先端技術の導入を促進し、新たな医療サービスの開発や医療品質の向上に寄与する可能性も秘めている。たとえば、AIが個々の患者の健康情報を分析することで、早期発見や予防策の提案が可能となり、罹患や重症化を未然に防ぐことができるかもしれない。また、「sundhed.dk」にみられるような、国民一人ひとりが健康情報を自己管理できるシステムは、国民の健康に対する意識を高める効果もある。これは、生活習慣病等の予防に大いに役立つだろう。

以上のように、国民全体の健康状態の改善と医療サービスの質の向上を図るためにも、わが国もデンマークの健康情報ポータル「sundhed.dk」を参考に、医療情報のデジタル化と一元化を検討すべきではないだろうか。デジタル技術を活用した新たな医療情報管理システムの導入は、高齢化社会を迎える日本にとって、次世代の医療サービス改革に求められるソリューションの1つであるといえるだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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