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データ対話型AIの衝撃

~データ対話型AIは働き方を変えるのか~

柏村 祐

目次

1.データ分析スキル習得の難しさ

情報過多の時代ともいわれる今日、データ分析の重要性はますます高まっている。企業や組織は、経済活動の多様な側面から大量のデータを収集し、その中から有益な情報を見つけ出すことで競争優位を築こうとしている。マーケティング戦略の策定、リスクの予測、製品の最適化、販売パフォーマンスの改善といった多様な意思決定をデータ分析にもとづいて行うことができる。しかし、これらのデータ分析のスキルを習得するのは容易ではない。高度な数学的知識、プログラミングスキル、特定の分析ツールの操作能力など、様々な要素が求められる。 データ分析において、今やAIの影響は無視できないものとなっている。AI、特に機械学習や深層学習の技術は、大量のデータセットからパターンを学習し、予測を行うための強力なツールとなっている。これらにより、人間が手動で分析するのが困難なほどの大量のデータから、意味のある洞察を得ることが可能となる。また、AIはリアルタイムでの分析や予測、自動化されたレポート作成など、データ分析のプロセスを劇的に高速化し、効率化する。

さらに、データ分析スキルの習得を行うことなくデータ分析を対話型で行える生成AI(以下、データ対話型AI)が登場し、データ分析の風景は大きく変化している。このAIは、大量のデータを処理し、その中に含まれるパターンやトレンドを抽出する能力をもつ。さらに、その分析をビジュアル化することもでき、データを人間が理解しやすい形で視覚的に表現する。経験に基づく判断を模倣する能力も有するため、長年にわたる専門家の知識と経験を効率的に活用することが可能となる。本稿では、リサーチやビジネスの現場におけるデータ分析の効率化に貢献するデータ対話型AIを概観し、その可能性について検討する。

2.データ対話型AIの具体的な使用例

データ対話型AIは、人が分析を加えたいデータを読み込ませると、データの分析と図表を作成するなどのビジュアル化を行う能力をもつ。 このデータ対話型AIの機能を検証するため、「ワシントン州が公開している電気自動車の登録データ」(注1)と「東京都が公開している防災避難所データ」(注2)の2つを用い、データ対話型AIの機能を確認する。 まず、135,039行から構成される「ワシントン州が公開している電気自動車の登録データ」をcsvデータとして読み込ませ、データ対話型AIに「このデータから分析できることは何か?」とたずねたところ、AIは4つの分析結果を生成した(図表1)。

図表1
図表1

また、この分析結果の1つである電気自動車の普及度についての図解を要請すると、データ対話型AIはワシントン州の各郡における電気自動車の登録数上位10を示すバーチャートを描いた(図表2)。そして、「King郡が最も多くの電気自動車の登録数を持ち、次いでSnohomish郡、Pierce郡が続く。これらの情報は、電気自動車の普及度が地域によって異なることを示している」との解説を付け加えた。

図表2
図表2

次に、2,563行から構成される「東京都が公開している防災避難所データ」をcsvデータとして読み込ませ、「このデータから分析できることは何か?」とたずねたところ、AIは4つの分析結果を生成した(図表3)。

図表3
図表3

この分析結果の1つである避難所の地理的分布を地図化するよう要請すると、データ対話型AIは地図上に避難所の地理的分布をプロットした(図表4)。そして、「避難所の地理的分布図は、避難所がどの地域に集中しているかを視覚的に理解するのに役立つ」との解説を付け加えた。

以上のように、データ対話型AIは、利用者がデータを読み込ませたうえで対話すると、データの分析とビジュアル化を行う能力をもつことが確認された。

図表4
図表4

3.データ対話型AIのメリットとデメリット

  データ対話型AIは、データ分析の新たな地平を開く技術である。その特性により、専門知識を必要とするデータ解析業務の効率化が可能となり、それまでの手動分析では見過ごされがちだったパターンやトレンドの把握も実現できる。さらに、生成された分析を視覚的に表現する能力により、一般の人々もデータの意味を理解しやすくなる。これは、組織全体の意思疎通をスムーズにし、意思決定や戦略立案のプロセスを透明化する一助となる。

しかし、データ対話型AIにも課題が存在する。その1つ目は、データ対話型AIがアルゴリズムに依存して動作するため、入力データとアルゴリズムが結果の品質に直結するという点である。不正確なデータや偏ったデータが入力されると、それに基づく分析も誤りを含む可能性が高い。2つ目の課題は、現段階ではAIが人間の直感や分析力に匹敵する分析を生み出すことが難しいという点である。AIが経験や知識の背後にある複雑な文脈を完全に理解することは難しい。そして最後に、データ対話型AIの導入や管理には、データ分析に関する知識と経験が求められる点である。それらが不足している組織では、現段階で導入の障壁は高いといえる。

4.データ対話型AIは働き方を変えるのか

データ対話型AIが企業で採用されると、働き方の変革がもたらされる可能性が高い。この技術を採用することで、データ分析の専門家以外の人もデータからの知見抽出が可能になり、それに伴い意思決定や戦略策定が主観や偏見から解放される傾向がみられる。さらに、データ対話型AIは大量データから要点を迅速に取り出す機能を備えており、これにより従業員は時間を節約し、創造的な作業や戦略的な計画策定に時間を割くことが可能になる。加えて、AIが難解な計算や分析を行い、その結果を視覚的に提示する機能により、従業員のデータ理解が深まり、より分析に基づく意思決定が可能になる。これにより組織のパフォーマンス向上が期待される。

データ対話型AIの影響は組織内部だけでなく、雇用市場全体にも及ぶ。特に反復性の高いタスクに携わる職種は、AIの普及により変化を余儀なくされる可能性がある。しかし一方で、新たな職種、特にAIと共に働く能力を求められる職種が出現する可能性もある。その場合、データ対話型AIの普及と共に、教育や訓練の機会の提供が重要な課題となってくるだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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