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フィットネスAIの衝撃

~もう悩まない!フィットネスメニューを考えてくれる生成AIの世界~

柏村 祐

目次

1.素人がフィットネスメニューを作るのは難しい

フィットネスは、もともとは体力という意味であり、現在では健康の維持・増進を目指して行う運動のことをいう。定期的な運動により心臓病、糖尿病、高血圧などの慢性疾患のリスクを軽減し、骨密度を維持し、筋力や柔軟性を向上させることが可能となる。これらにより、体重の管理も助けられる。またフィットネスは、精神的健康にも寄与する。運動がストレスを軽減し、気分を向上させ、睡眠の質を改善することにつながる。さらに、フィットネスは健康寿命を延ばし、より活動的で自立した生活を送るために有効である。年齢を重ねても、身体機能の維持により、日常生活の質を保つことができる。以上のように、フィットネスの重要性は非常に高いといえる。

一方で、素人が自宅やジムで行うフィットネスメニューを作成するのは難しい。その理由は、全身をバランス良く鍛えるためのエクササイズの選択、適切な運動の強度や頻度の設定といった多くの要素が関与するからである。エクササイズの選択には、筋力トレーニング、有酸素運動、柔軟性向上のためのストレッチングなど、多岐にわたる運動種目から自身の体力や目標に合ったものを選ばなければならず、これには専門的な知識や経験が必要となる。また、運動の強度や頻度は目標に応じて適切に調整する必要がある。強度が高すぎると怪我のリスクを増大させ、頻度が高すぎると適切な回復時間を確保できず、身体に過度な負担を与えることになる。フィットネスメニューの作成は、これらの専門知識を組み合わせて行うものであり、素人にとっては難易度が高い。

このフィットネスメニューの作成について、フィットネストレーナーへの相談を必要とせず、生成AIによってフィットネスメニューを作成するフィットネスAIが現れている。本稿では、フィットネスAIについて概観し、その可能性を探る。

2.フィットネスAIの実態

フィットネスAIは、身長、体重、フィットネスの目標、鍛えたい部位といった情報を入力することにより、最適なフィットネスメニューを提案する能力を有している。そのため、フィットネスの初心者であっても、自分の状況に応じたトレーニングメニューを作成することが可能である。

以下では、フィットネスAIの機能を具体的に検証する。あるフィットネスAIでは、自身の年齢、体重、性別、フィットネスレベル、フィットネスの目標、1週間に運動する頻度といった基本情報を入力すれば、AIがトレーニングプログラムを瞬時に生成する。筆者が実際に自身の年齢、体重、性別を入力し、フィットネスレベルとして初心者、1週間に運動する頻度を2回としたところ、フィットネスAIはトレーニングプログラム概要と二日間のメニュートレーニングプログラムを生成した(図表1)。

図表1  フィットネスAIが生成したプログラム概要と1日目の内容
図表1  フィットネスAIが生成したプログラム概要と1日目の内容

また、他のフィットネスAIでは、トレーニング場所を指定すると、それぞれに適したメニューを提示する。ここでは、「自宅」と「ジム」の2つの場所でのトレーニングを想定してみる。まず、「自宅」でのトレーニングについて、フィットネスAIに自身の身長と体重に加え、目標を「お腹をへこませたい」、鍛えたい部位を「腹筋」、行う場所を「自宅」と入力した。その結果、フィットネスAIは自宅で行うエクササイズとして「Hill Touch Crunch(ヒルタッチクランチ)」と「Oblique Crunch(オブリキュークランチ)」をそれぞれ3セット、各セット15回行うことを推奨した。それぞれのエクササイズについては動画と解説文があり、これらを確認したところ、どのような動きがヒルタッチクランチなのかが明確に理解できた。たとえば、「Hill Touch Crunch(ヒルタッチクランチ)」に関する運動ガイド詳細を確認すると、スタート姿勢、運動方法、呼吸法、注意点がわかりやすく解説されていた(図表2)。

図表2  フィットネスAIが解説するヒルタッチクランチの運動ガイド
図表2  フィットネスAIが解説するヒルタッチクランチの運動ガイド

次に、「ジム」でのフィットネスAIの活用事例を確認する。フィットネスAIに自身の身長と体重に加え、「自宅」の場合と同様、目標を「お腹をへこませたい」、鍛えたい部位を「腹筋」とし、行う場所を「ジム」と入力した。その結果、フィットネスAIはジムで行うエクササイズとして「Flutter Kick(フラッターキック)」を3セット、各セット30秒と「Plank(プランク)」を3セット、各セット50秒行うことを推奨した。さらに、フィットネスを行う場所をジムとしたことから、器具を使ったフィットネスメニューとして、「Captains Chair Leg Raise(キャプテンチェアレッグレイズ)」も推奨された。それぞれのエクササイズについても動画と解説文があり、これらを確認したところ、器具を利用したエクササイズ方法が明確に理解できた。例えば、「Captains Chair Leg Raise(キャプテンチェアレッグレイズ)」に関する運動ガイド詳細を確認してみるとスタート姿勢、運動方法、呼吸法も詳細に解説されていた(図表3)。

以上のように、利用者が自身の身長と体重、フィットネスの目標、鍛えたい部位、行う場所を入力するだけで、フィットネスAIは適切なエクササイズメニューを生成する。フィットネス初心者から上級者まで、誰に対しても自分の状況と目的に応じたエクササイズメニューをAIが生成、推奨してくれるのである。

図表3  フィットネスAIが解説するキャプテンチェアレッグレイズの運動ガイド
図表3  フィットネスAIが解説するキャプテンチェアレッグレイズの運動ガイド

3.フィットネスAIの特徴

フィットネスAIの利点として特筆すべき点は、各ユーザーの身体的特性や目標に適合した個別化されたフィットネスプログラムを提供できることである。これにより、ユーザーは自身の目標達成に適したエクササイズを容易に見つけ出せる。フィットネスAIは24時間稼働しており、ユーザーは好きな時間にトレーニングを行える。さらに、フィットネスAIはエクササイズに必要な動作を示す映像や詳細な説明を提供し、適切なフォームで運動を行うことを可能にする。これは怪我のリスクを減少させ、エクササイズの効果を最大化するのに重要である。また、専用のスマートフォンアプリと連携すれば、運動量や消費カロリーを自動的に計算し、進捗を可視化する機能も備わっており、ユーザーは自身の運動状況を把握しやすく、モチベーションを維持するのに有用である。

しかしながら、フィットネスAIには現時点でカバーできないこともある。1つは、AIはプログラムされた情報に基づいて動作するため、各ユーザーの日々の体調や気分、具体的な症状等を完全に理解することが難しい点である。たとえば、ユーザーが筋肉痛を感じたり怪我をしていても、それをAIに伝える手段がなければ、その情報を考慮したプログラムを提供することはできない。いま1つは、現行では運動のフォームを正確に確認することができないため、ユーザーの動きに基づくフィードバックが難しい点である。そのため、運動フォームを改善するためのアドバイスが受けられないこともある。最後に、フィットネスAIの利用にはインターネット接続やスマートデバイスが必要という制約が存在する。これらの条件を満たせない状況や地域では、フィットネスAIの恩恵を受けることは難しい。

とはいえ、フィットネスAIは、今後さらなる進化により、より多くの人々の健康的なライフスタイルの実現に貢献することになるだろう。

4.フィットネスAIの可能性

フィットネスAIの将来を見据えれば、ユーザーがフィットネスに求めるものを理解し、それに適応することが重要である。その観点からは、フィットネスAIとパーソナルトレーナーの役割と可能性を改めて検討することが必要である。

フィットネスAIは、まさに開発の真っ只中にあり、そのポテンシャルはいうまでもなく無限大である。AIの進化と共に、フィットネスAIはユーザー一人ひとりのニーズや体調に繊細に対応し、パーソナライズされたトレーニングメニューの提供が可能となるだろう。ユーザーの日々の活動量、食事、睡眠パターン、ストレスレベルを把握し、それらを踏まえた運動プログラムを提供することで、ユーザーの健康とフィットネス目標達成を加速させる。

ウェアラブルデバイスやスマートホームデバイスとのスムーズで効率的な連携も進化し続けるだろう。これらにより、フィットネスAIはユーザーの運動フォームをリアルタイムで監視し、誤った動きを直ちに修正するフィードバックを提供する可能性がある。これは、運動中の怪我の予防や、エクササイズの効果を極大化するために非常に重要な要素となる。

さらに、フィットネスAIはユーザーのモチベーション維持にも強力な味方になる。AIはユーザーの運動履歴やパフォーマンスを詳細に分析し、励ましやポイントや割引といった報酬を提供することで、運動習慣の強化を後押しする。これらにより、フィットネスAIは単なるトレーニングアシスタントを超え、ユーザーのライフスタイルを根底から変えるパワフルなパートナーへと進化するだろう。

フィットネスAIの技術革新により、前例のない新たなエクササイズメソッドやフィットネスプログラムが開発される可能性もある。AIが膨大なデータを分析し、ユーザーの体調やパフォーマンス、目標に最適な運動パターンを生成することで、究極のパーソナライズエクササイズプログラムを実現する。このように、フィットネスAIの進化は、人間の健康とフィットネスへの革新的な影響を与えることにつながるのではないか。フィットネスAIのさらなる進化と拡大は、社会全体の健康増進という目的の達成に向け、大きな希望と期待を抱かせるものといえよう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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