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自律型生成AIの衝撃

~質問と回答を繰り返すことでタスク達成へ導く自律型AIの可能性~

柏村 祐

目次

1.生成AIの使い方

生成 AI の進化が止まらない。特に注目されるものとして、ChatGPT をはじめとする対話型生成 AI が挙げられる。対話型生成 AI とは、人間との会話を模倣し、理解し、適切に反応する AI のことである。

近年、その技術進化により、自然言語処理(NLP)の一部として急速に発展している。この AI は、広範な領域で用いられており、カスタマーサービス、エンターテインメント、教育、ヘルスケアなど、人間の対話が必要な多くの場面で利用されている。

対話型生成 AI の主な特徴として、自然言語理解、適応性、応答性が挙げられる。自然言語理解は、人間の会話を AI が理解し、その意味を把握する能力である。適応性は、AI が新たな情報を学習し、以前の知識に統合する能力である。そして応答性は、AI が人間の質問や指示に対して、適切かつ迅速に反応する能力である。

この対話型生成 AI を発展させた自律型生成 AI が登場している。「自律型」とは、AI 自身が制御や管理ができること、またはその機能をもつシステムやデバイスを意味する。AI やロボットの分野では、「自律型」はシステムが自己学習や自己改善ができ ることを示すことが多い。

本稿では、自律型生成 AI について概観し、その可能性を検討する。

2.自律型生成 AI の実態

自律型生成 AI とは、人がタスクを設定するだけで、さらに小さなサブタスクに分解し、それぞれを自動的に実行する能力をもつ。また、タスクをサブタスクに分割し、情報を自動的に収集・活用するために、必要に応じてインターネットや他のツールを使用する。つまり、自律型生成 AI は、人が設定したタスクに対して独自の思考を働かせて、自らサブタスクを生成し、人から問いかけられたタスクを達成することができる。

以下では、「旅行」と「マーケティング」という 2 つのテーマを通じて、自律型生成 AI の機能を検証する。

まず、「旅行」に関する自律型生成 AI の活用事例を確認する。タスクとして「ハワイ旅行の計画」を設定すると、自律型生成 AI は訪問時期、航空券と宿泊施設の予約、現地でのアクティビティと観光の詳細な旅程、旅行に必要なアイテムの梱包という 4つのサブタスクを自動生成する。そして、それぞれのサブタスクに対して回答を生成する。たとえば、最初に生成された訪問時期についての回答は「ハワイを訪れるのに最適な時期は 3 月から 9 月である。この時期は、島々の気温が最も高く、降水量が最も少ないため、ビーチや海を楽しむのに最適な季節である」と生成された(図表 1)。さらに、自律型生成 AI は航空券と宿泊施設の予約、現地でのアクティビティと観光の詳細な旅程、旅行に必要なアイテムの梱包についてもそれぞれ回答を自動生成した。

図表1
図表1

次に、「マーケティング」に関する自律型生成 AI の活用事例を確認する。タスクとして「スタートアップのマーケティングプラン」を設定すると、自律型生成 AI は顧客となる対象ユーザーの特定、市場調査・競合分析、独自の価値提案・ポジショニング戦略、ブランディング・多様なマーケティング手法という 4 つのサブタスクを自動生成した。そして、それぞれのサブタスクに対して回答を生成した。たとえば、最初に生成された対象ユーザーの特定に対する回答は、図表 2 赤枠の通り生成された。さらに、自律型生成 AI は、市場調査・競合分析、独自の価値提案・ポジショニング戦略、ブランディング・多様なマーケティング手法についてもそれぞれ回答を自動生成した。

以上のように、利用者がタスクを文章で設定するだけで、自律型生成 AI はその内容に応じたサブタスクを自動生成し、それぞれの回答を生成する。これは、タスクを入力するだけで、自律型生成 AI がサブタスクを生成し、回答を提供する世界を創出しているといえるのである。

図表2
図表2

3.自律型生成 AI のメリット、デメリット

自律型生成 AI のメリットはいくつか存在する。まず、これまで人間の介入が必要だった作業を自動化し、効率を大幅に向上できることである。前述の事例でも、自律型生成 AI が大きなタスクをサブタスクに分割し、それぞれのサブタスクに対する具体的な回答を自動生成した。これにより、ユーザーは大きなタスクを設定するだけでよく、時間や労力をかけてサブタスクを考える必要がなくなる。

また、自律型生成 AI は、24 時間 365 日、常に稼働し、サービスを提供する。これにより、ユーザーはいつでも必要な情報を取得し、作業を依頼することができる。人間の代わりに作業を行う AI エージェントとして、人間が眠っている間でも、進行中のタスクを自動的に処理し続けることができる。

さらに、自律型生成 AI は、大量のデータを効率的に処理し、その結果をもとに最適な回答を生成する能力をもつ。たとえば、ウェブ検索や API とのやり取りなど、インターネット上の情報を自動的に活用してサブタスクを解決する。これにより、ユーザーが情報を集め、分析する時間と労力を大幅に節約できる。

一方で、自律型生成 AI にはデメリットも存在する。まず、現状では AI が完全に自律的に動作するわけではなく、人間の指導や監視が必要である。たとえば、誤った情報をもとに回答を生成するなど予期せぬ問題が発生した場合には、人間が介入して修正する必要がある。また、AI は現時点で人間の判断力や感情を完全に理解・模倣することはできず、その結果として生じる誤解や誤算もデメリットとなる。

さらに、個人情報・機密情報の保護に関する問題がある。自律型生成 AI がウェブ検索や API とのやり取りを通じて得た情報をどのように取り扱うか、その情報が安全に保護されているかどうかは、非常に重要な問題である。特に、機密情報や個人の特定可能な情報を取り扱う場合、十分なセキュリティ対策が求められる。

4.自律型生成 AI の可能性

自律型生成 AI の能力は、個人の日常生活からビジネス、学術研究に至るまで、無限の可能性を生み出す。前述の「旅行」や「マーケティング」の例でも、AI が人間の行う一連の作業に自動で取り組み、具体的なサブタスクを生成し、それぞれに対する回答を提供した。これは、人間が手間をかけて行っていた多くの作業を AI が代行し、より効率的かつ生産性の高い作業を可能にする。

特に、ビジネス分野における自律型生成 AI の可能性は大きい。複雑なビジネスシナリオに対して自律的に戦略を立案したり、市場分析・競合分析などの情報収集と分析作業を自動化することで、ビジネスプロセスの効率化が可能となる。また、製品開発やサービス改善のためのアイデア生成、顧客サービスやサポートにおける問い合わせの自動応答など、多岐にわたる業務で活用できる。

学術研究においても、自律型生成 AI の利用が期待される。研究テーマや仮説の生成、関連研究のサーベイ、データ分析とその結果の解釈など、研究の多くの部分で AIを活用することで、研究の品質向上と時間短縮が可能となる。

個人の日常生活においても、旅行の計画から料理のレシピ生成、パーソナルトレーニングプランの作成など、生活のあらゆる面で自律型生成 AI の活用が見込まれる。これらにより、人々の生活はより便利で充実したものになるであろう。

自律型生成 AI の発展は、日常生活からビジネス、学術研究まで、社会のあらゆる面で革新をもたらす可能性を秘めている。その自動生成能力は、人間の作業をより効率的かつ生産性の高いものに変革し、新たな価値を創造する。そして、自律型生成 AI の可能性を最大限に活用するには、技術者、研究者、エンドユーザーが一丸となって、その適用領域を探索し、活用方法を開発していくことが重要となる。自律型生成 AI は、私たちの生活を豊かで便利なものに変え、社会全体の効率性と生産性を向上させる革新的なチャンスを提供しているのである。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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