ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

テレワークの導入、努力義務化への動き

的場 康子

目次

1.「異次元の働き方改革」も必要

少子化が止まらない。2022年の合計特殊出生率が1.26と7年連続低下し、過去最低となった(厚生労働省「令和4年人口動態統計月報年計(概数)」2023年6月2日)。出生数も77万747人であり、過去最少である。

これまでも少子化対策が実施されてきたものの、出生率の低下が続くのは、家族形成に対する価値観の多様化とともに、依然として、経済的な不安などにより、若い世代が安心して家庭を持つことができない状況が続いていることや、共働きが進む中で女性に家事や育児の負担が偏っていることなどが背景にあると思われる。

現在、政府は「異次元の少子化対策」を掲げ、様々な支援策の検討を進めているが、その柱の一つに働き方改革の推進がある。中でも期待されているのが、男性の家事・育児の促進である。育児・介護休業法の改正(2021年)により産後パパ育休(出生時育児休業)の制度が創設され、2022年10月に施行された。この制度をはじめとして、男性も当たり前に育児休業を取得し、男女が共に働きながら子育てができるような「異次元の働き方改革」を進めることで、少子化の好転を目指している。

2.男性の家事・育児の促進のために効果がある取組は?

実際、企業は男性の家事・育児を促進するうえで、どのような取組に効果があると感じているのであろうか。日本経済団体連合会が2023年4~5月に実施した調査によれば、「男性の育児休業取得促進に関する方針や関連制度等についての社内周知(e-Learningを含む研修の実施、情報提供等)」(44.6%)が最も多く、次いで「テレワーク制度の導入」(36.7%)、「男性の育児休業取得を促す積極的な働きかけ(法定の意向確認を超える程度)」(30.2%)が続いている(図表1)。男性の育児休業を促すための社内周知や働きかけが上位を占める中、「テレワーク制度」に効果を感じている企業も多い。

テレワークは、コロナ以前から働き方改革として注目されていたが、その活用は育児中の女性を想定していた企業が多かった。コロナにより多くの企業がテレワークを経験する中で、男性のテレワークの活用も、男性の家事・育児促進のために効果があることを実感した企業が多いことがうかがえる。

テレワークを利用できれば、通勤時間が省けるので、その分、家事や育児に多くの時間を費やせる。出産後の妻を間近で支えることができるので、妻の心身の負担を和らげつつ、夫婦で協力し合って育児生活をスタートさせることができる。また、子どもの日々の成長を見守りながら働くことで、父親としての自覚も高まり、主体的に家事・育児に取り組みやすくなるということもあるだろう。

図表1
図表1

3.育児世代のテレワーク実施率

しかし現状、テレワークを実施している人は限られている。当研究所が実施したアンケート踏査によると、20代から40代の育児世代の中で、テレワークを2023年3月現在、おこなっている(出社との併用を含む)人の割合(以下、「テレワーク実施率」)は2割程度である(図表2)。

多くの既存調査と同様、企業規模によってテレワーク実施率は異なり、企業規模の小さい企業ほどテレワーク実施率は低い。また、いずれの企業規模においても、男性より女性の方が低い。男女間の差は、業務内容や就労形態の違いによる要因が大きいと思われる。女性は、対人サービスなどの業務やパート・アルバイトなどの非正規社員で働いている人が多く、そのような場合にはテレワーク実施率が低いのが実態である(図表省略)。

女性よりも男性の方がテレワーク実施率が高いとはいえ、企業規模の小さい企業で働く男性のテレワーク実施率は1割程度、100~1,000人未満の企業であっても2割程度である。男性の家事・育児の促進にテレワークは効果があると認められていることから、あらためて、企業規模を問わずテレワークを実施できる環境を整えることが重要だろう。

図表2
図表2

4.女性も結婚後もキャリア形成を重視したい

他方、育児世代のキャリア意識は、男女間や企業規模によって大きな差はない。「結婚しても自分の望むキャリア形成をしたい」と思っている人は、100人未満の企業で働いている人でも6割以上を占めている(図表3)。また、性別にみると、男性よりも女性の方が「結婚しても自分の望むキャリア形成をしたい」と思っている人が多い。

育児世代の多くは、性や企業規模にかかわらず、結婚しても、家庭生活と両立しながら働き続け、自分の望むキャリアを形成したいと思っている。テレワークの利用によって男女ともに家事・育児がしやすくなれば、夫婦で協力して家庭とキャリアを両立しながら働くことができる。そのような働き方を実現できれば、子育てをあきらめないライフコースを歩む人が増え、少子化を克服することにもつながるのではないだろうか。

図表3
図表3

5.テレワークの整備推進のために

6月13日、政府は「こども未来戦略方針」を閣議決定した。その中には、育児との両立支援をさらに拡充し、子どもが3歳になるまで、育児期の有効な働き方の一つとして、テレワークも企業の努力義務とすることを検討すると明記されている。こうした機運を追い風にして、テレワークの導入が進むことが期待される。

テレワークを導入していない企業では、「テレワークが可能な業務がない」ことが主な理由である場合が多い。接客やケア業務、現場監督など、どうしてもテレワークができない業務はあるものの、ウェブ会議ツールを活用して顧客と対話したり、社内でなくても可能な事務作業を切り出したりするなど、部分的に工夫次第でテレワークを導入することが可能な場合もある。まずは改めて、自社の業務を見直すことから始めてみてはいかがだろうか。

また、テレワーク導入のための費用負担が難しい場合には、助成金の活用を検討することもできる。厚生労働省の「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」の他、東京都の「テレワーク促進助成金」など、地方自治体が独自で助成金を支給している場合もある。

さらに厚生労働省では、「テレワーク相談センター」を開設し、テレワーク導入のプロセスや労務管理上の問題など様々な相談を受け付けている。

男女問わず、育児世代の多くは、結婚してもキャリア形成を重視して働きたいと思っている。育児と両立して働きやすい環境を整えることは、企業にとって、働く意欲のある人材を確保するためにも必要である。多くの企業がこれまで以上に創意工夫し、育児世代の働きやすい職場環境を整備する「異次元の働き方改革」を進めることが、少子化対策のためにも重要である。

的場 康子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

的場 康子

まとば やすこ

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: 子育て支援策、労働政策

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