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画像編集AIの衝撃

~ここまで来た!生成AI活用による画像編集能力の進化~

柏村 祐

目次

1.高度なスキルを要する画像編集

画像編集スキルは、グラフィックデザイナーやウェブデザイナー、フォトグラファー、マーケティングスペシャリスト、広告クリエーターやアートディレクターなど、様々な職種で求められる。主に雑誌の表紙や本の装丁、商品のパッケージ、広告や宣伝に関するデザインがその仕事内容だが、クライアントが求める画像を実現するために、美しいデザインと構成を提案する能力が必要となる。

画像編集スキルとは、美的表現を可能にする技術群の一部であり、その基本は画像編集ソフトウェアの使用法から始まる。色調整、トリミング、レタッチなどの基本的な操作からスタートし、これらを通じて合成やエフェクトの追加といった、より高度な技術を身につける。美学的な判断力が求められる一方で、視覚的なストーリーテリングに対する芸術的なセンスも重要となる。さらに、テクニカルなスキルに加えて、適切なフォーマットや解像度への理解、そして使用目的に合わせた最適な画像の提供能力も必要とされる。

画像編集スキルの習得には時間と労力を必要とし、一定の時間を習熟に費やす必要がある。しかし、最近注目を集めるChatGPTなどの生成AIを活用した画像編集AIは、画像編集ソフトウェアとの連携を通じて、対話形式で高度な画像編集を実現する。このため、熟練したスキルやノウハウをもたない者でも、容易に操作を行うことが可能である。

本レポートでは、この画像編集AIについて概観し、その可能性を探求する。

2.画像編集AIの実態

画像編集AIはすでに、画像編集ソフトウェアのメニューに組み込まれ、画像の生成、追加、拡張、削除などが機能している。文章を入力して画像を迅速に生成するAIは以前から存在していたが、既存の画像に対して新たな画像を追加したり、削除、拡張するタスクは、それが元の画像に自然に溶け込むことが求められるため、より高度な画像編集AIの能力が必要となる。以下では、既存の画像を使って新しい画像を追加したり、削除、拡張するといったミッションについて、具体的な事例を確認する。

まず、画像編集に携わる者が、既存の画像に新たな画像を追加したい場面でのAIの応用について確認する。たとえば、美しい風景(図表1上段)に「城」を追加してアクセントを付けたい場合、画像編集AIに対して城を追加したい場所を指定し、「城」と指示を出すと、元の美しい風景に自然に馴染んだ城の画像が追加された。特筆すべきは、太陽の光を受けた城の影が地面に映し出される精密さまで再現されている点である(図表1下段赤枠)。

図表1
図表1

次に、画像編集に携わる者が、既存の画像を新たに拡張したいと思った場面での画像編集AIの活用方法について見ていこう。たとえば、一部が欠けている猫の画像の全体像を生成したいと思った場合(図表2上段)、猫の全体像を表示したい場所を画像編集AIに指定し、作成を指示したところ、元の画像は拡張され、猫の全体像が理解できる画像が生成された。さらに、猫の背後にある木々の部分も同時に画像編集AIは生成を行う(図表2下段)。

図表2
図表2

最後に、既存の画像から不要な人物や物体を削除したい場面における画像編集AIの応用について確認する。例として、海岸に佇む女性の風景画像から人物のみを除去したいという状況を想定する(図表3上段)。画像編集AIに対して、海岸に佇む女性が映し出された部分を指定し、その除去を対話形式で依頼すると、元の画像から人物のみが除去された風景画像が生成された(図表3下段)。

以上のとおり、画像編集に伴う画像の追加、除去、拡張などの作業について、グラフィックデザイナーやウェブデザイナーのような高度な画像編集スキルを必要とせずに、画像編集が簡単に行えることが確認された。

図表3
図表3

3.画像編集AIのメリットとデメリット

AIによる画像編集・加工の利点は、人間の能力を超越したレベルでの編集・加工が可能である点である。AIは人間の眼が捉えられない微細な修正や複雑な構造の抽出を精確に実行することが可能である。ノイズの多い画像からクリスタルクリアな画像を生成する、低解像度の画像を高精細な画像に変換するといった技術を駆使することができる。

また、AIによる画像編集・加工は、画像編集にかかる労力を大幅に軽減するという大きな利点をもつ。何千もの画像を一貫して高品質に編集・加工することが可能であり、人間の作業負担を大幅に軽減することができる。さらに、AIは芸術的な表現の幅を飛躍的に広げる可能性を秘めている。AIは新たな芸術やデザインを創出し、いまだかつてない視覚体験を生み出す力をもつ。特定のスタイルを学習し、それを別の画像に適用することで、独特の芸術作品を創り出すことも可能である。

だが、AIによる画像編集・加工にはデメリットも存在する。その1つは、AIの学習データの偏りからくる問題である。AIは訓練データに基づいて動作するため、そのデータが偏っていると、結果にもその偏りが反映される可能性がある。さらに、AIによる編集・加工が現実を必ずしも正確に反映した結果を導くわけではない。AIが出力する結果は「推測」に過ぎず、特に画像の復元や補完といった複雑なタスクにおいては、AIの結果が元の画像の真実性から大きく逸脱する可能性がある。

そして最後に、AIによる画像生成が著作権法やプライバシー法に抵触する可能性である。AIが生成した画像がオリジナルの画像の著作権を侵害するリスクがあり、またAIが解析できる範囲のデータが拡大すれば、それに伴うプライバシーの問題も深刻化するおそれがある。

以上のように、画像編集AIは強力な機能を持つ一方で、利用者にとっては、これらの課題への適切な対策が必要である。これらの課題を理解し、適切に管理することで、リスクを最小限に抑えながら、AIの力を最大限に活用することができる。

4.画像編集AIの可能性

AIによる画像編集の広がりをみると、その活用方法と「写真の魅力を引き立てる」ための寄与度について考察することが必要不可欠になっているといえる。個人利用者から企業に至るまで、その視点から考えると、以下の要素が特に重要である。

AIを使った画像編集の優れた特徴は、その驚くべき自動処理能力と高度な技術力にある。これにより、制作時間とコストを大幅に削減し、高品質な画像を効率的に生成することが可能となっている。背景消去や色調調整、解像度向上といった、かつては専門知識と時間を必要とした作業も、AIの力を借りれば迅速かつ効率的に実行可能となる。

企業での活用に目を向けると、AIによる画像編集は、マーケティングや商品プロモーションへの活用を見込むことができる。製品の写真を鮮烈に彩り、特定の雰囲気を創出することで、消費者の興味を引きつけ、ブランドのイメージを高めることができる。

個人利用者の視点から見れば、AIの画像編集は、SNS投稿やブログなどの日常的なコンテンツの作成力を向上させ、その手間を軽減する道具となる。専門的な画像編集技術を用いずとも、誰もが高品質な画像を生成することが可能となる。

また、「写真を映えさせる」観点からも、AIの画像編集は大きな役割を果たす。画像の色調や明度を最適に調整することで、物事を鮮やかで感情的に表現することが可能となる。これにより、写真は強烈なメッセージを伝達するメディアとなり、人々の感情を揺さぶる力を持つ。

このように、AIによる画像編集は、個人から企業まで幅広いニーズに対応しながら、「写真を映えさせる」強力なツールを提供している。この技術の進化により、私たちの視覚体験は今後もさらに豊かで感動的なものとなり続けることだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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