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マインドマップ生成AIの衝撃

~ここまで来た!マインドマップ作成におけるAIの活用~

柏村 祐

目次

1.ビジネスに活用されるマインドマップ

マインドマップは、情報を視覚化し自分の思考を整理するための手法で、1つのアイデアや概念から多くの異なるアイデアや概念へと思考を広げていくという「放射思考」につながるものである。これにより、テーマに関する情報を放射線状に分類し、項目やジャンルごとに思考を進めていくことができる。その用途はアイデアの生成、問題解決、戦略策定、事業企画など多岐にわたり、ビジネスにおける重要なツールの1つとなっている。

マインドマップの視覚的な形式は、脳の自然な思考プロセスに適合しており、脳内のイメージを直接的に図化することで、より効果的な情報の理解、組織化、記憶を可能にする。それらによって自身の思考を整理することが可能となり、新規のアイデアやこれまで見過ごしていた課題が明らかになることもある。つまり、脳内の情報を視覚化することで、複雑に絡み合った問題を整理することができ、解決策を見つけることも可能となるのだ。また、チーム各人の思考を具体化し共有することで、個々のアイデアをチーム全体で共有することができる。マインドマップにより、各自が内に秘めていた考えを外に出し、チームで共有することで、予想もしない新たなアイデアが生まれる可能性がある。

このマインドマップ作成のプロセスを効率的に行う仕組みとして、マインドマップ生成AIが登場している。マインドマップ生成AI(以下マインドマップAI)とは、人工知能を用いてマインドマップを自動生成するシステムを指す。本レポートでは、マインドマップAIの能力について概観し、マインドマップ生成AIがビジネスにもたらす可能性について解説する。

2.マインドマップAIの実態

マインドマップAIは、対象となるテーマに関して利用者が入力した質問をもとにマインドマップ生成を行う能力と、いくつかの指示文を提示してその中で利用者が選択した指示をもとにマインドマップ生成を行う能力の2つをもつ。以下では、これらの生成能力について、具体的な事例を通じて詳しく確認していく。

まず、対象となるテーマに関して利用者が入力した質問をもとにマインドマップ生成を行う能力について説明する。これは、マインドマップ生成のテーマに対して、利用者が質問を入力し、マインドマップを生成する仕組みである。たとえば、「AIと働き方」をマインドマップ作成のテーマとして入力すると、マインドマップAIはこのテーマについての概要を記載した図を生成する。この「AIと働き方」の図に対し「AIが働き方に与える影響について教えて」と質問を入力すると、マインドマップAIは、「自動化による業務の変化」、「柔軟な働き方の実現」、「新しい働き方の創出」の3つの項目をマインドマップ上に自動出力し、それぞれの概要を記載した。さらに、「メリットとデメリットを教えて」と質問すると、メリットとデメリットの項目を自動生成し、それぞれの概要を図表1に示すように生成した。

図表1
図表1

次に、いくつかの指示文を提示してその中で利用者が選択した指示をもとにマインドマップ生成を行う能力について説明する。これは、マインドマップ生成のテーマに対して、マインドマップAIが事前に準備した複数の定型指示文の中から利用者が任意の指示文を選択し、マインドマップを生成する仕組みである。たとえば、「30歳からのキャリアデザイン」をマインドマップ作成のテーマとして入力すると、マインドマップAIはこのテーマについての概要を表す図を生成した。この「30歳からのキャリアデザイン」の図に対し、マインドマップAIが事前に準備した定型指示文から指示を選択すれば、マインドマップを生成できる。具体的には、「ブレインストーミングを手伝ってください」という定型指示文を選択すると、マインドマップAIは「自己分析を行う」、「分野や業界を探す」、「スキルや資格を取得する」の項目とともに、それぞれの内容についての説明を生成した。さらに、「自己分析を行う」テーマに対して、「主要なアイデアを抽出してください」という指示文を選択すると、「自己分析の重要性」、「自己分析の方法」、「自己分析の結果」の項目が生成され、それぞれの内容についての説明も追加された(図表2)。

以上のように、マインドマップAIを活用すれば、利用者が考えた質問文や事前に準備された定型の指示文の組み合わせにより、効率的にマインドマップの生成を行うことが可能である。

図表2
図表2

3.マインドマップAIのメリットとデメリット

マインドマップは、情報を視覚的に整理し、アイデアを結びつける効果的な手段である。そのメリットとして、情報の整理・整頓、思考の可視化、創造性の促進が挙げられる。一方、デメリットとしては、作成に時間がかかること、複雑な情報の管理が難しいこと、デジタルツールを使わない場合に編集が難しいことなどが挙げられる。

これらのメリット・デメリットは、マインドマップAIの登場により、変化が見られる。AIの助けにより、マインドマップの作成が迅速になり、複雑な情報も容易に管理することが可能となる。また、AIはデジタル環境での編集を容易にする。ただ、AIが提案する構造やリンクがユーザーの意図と必ずしも一致しない場合があるため、ユーザー自身の判断がより重要になるという点にも考慮する必要がある。それでも、生成AIはマインドマップの作成と利用をより効率的かつ柔軟にすることができるといえる。

AIを使ってマインドマップを作成する最大の利点は、効率性と視野の拡大である。効率性とは、AIが人間よりも速く、または複数のアイデアを同時に生成する能力のことであり、これによりマインドマップの作成時間を大幅に短縮することができる。また、人間が一度に処理できる情報量には限界があるため、AIの助けを借りることで一度に多くのアイデアを探求し、整理することが可能となる。

視野の拡大とは、AIが異なる視点やアイデアを提供する能力のことであり、これにより自分自身では思いつかない新たな視点やアイデアを得ることで、創造性を刺激し、より広範で深い理解を得ることができる。ただし、AIがマインドマップを作成する際には、人間のガイダンスが必要である。AIは、利用者のニーズや目標を理解し、それに基づく最適なマインドマップを作成するために指示を必要とする。したがって、AIは単なるツールであり、人間の創造性や直感を補完するものと考えるべきである。

4.マインドマップAI,の可能性と展望

AI技術の進歩により、ビジネスにおけるマインドマップ作成の効率性と精度は大幅に向上している。AIを活用することで、企業は手間と時間を大幅に削減し、質の高いマインドマップを短時間で作成することが可能となった。これは、ビジネス戦略の策定、プロジェクト管理、意思決定プロセスの改善など、企業活動のさまざまな面で応用できるだろう。AIは大量の情報を迅速に分析し、関連性やパターンを抽出する能力をもっている。そのため、マインドマップAIは、ユーザーが提供した情報から関連性を見つけ出し、それらを視覚的に表現するマインドマップを自動的に生成することができる。また、AIはユーザーの過去のマインドマップ作成の傾向や好みを学習し、それに基づいてより適切なマインドマップを提案することが可能である。

さらに、マインドマップAIの進化は、リアルタイムでのマインドマップの更新や調整も可能にしている。たとえば、ビデオ会議中に参加者の発言を自動的にマインドマップに変換し、全体の議論の流れを可視化するなど、より即時性と効率性を求められる状況で利用できる。

マインドマップAIの展望としては、さらなる個別化と予測能力の向上が見込まれている。AIは、ユーザーのニーズや嗜好により深く対応するために、個々のビジネス環境や業界特有のニーズを理解する能力を獲得することが期待されている。また、AIがデータのパターンを解析し、未来のビジネストレンドや市場動向を予測するマインドマップを作成する能力も開発されつつある。これらの進歩により、マインドマップAIは、企業の意思決定プロセスをより迅速で効率的にするだけでなく、ビジネスや組織、市場などについて深く理解し、その上で未来の方向性や新たな機会を見つけるための重要な視点や理解といった戦略的洞察を提供し、新たなビジネスチャンスを発見するための強力なツールとなる可能性がある。そのため、この技術への投資は、競争優位性の向上、組織全体の生産性の向上、そして業績の向上につながるものと考えられる。

一方で、マインドマップAIの利用には留意すべき点がある。AIは完全に正確な結果を保証するわけではなく、また、特定の業界やビジネス環境における特有のニュアンスや文脈を完全に理解することは困難である。したがって、最終的な意思決定は、AIが提供する情報を考慮した上で、人間が行うことになる。AIはあくまで人間の補助をするものであり、AIが提供するマインドマップは参考の1つとすべきだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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