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生成AI時代に求められる教育のあり方

~AIが暗記や計算を代替する時代に何を学ぶべきか~

柏村 祐

目次

1.注目される生成AI

ChatGPTをはじめとする生成AIが世界的に注目を集めている。

生成AIが急速に普及している背景として、誰でも気軽に利用できることが挙げられる。生成AIは人工知能の一種で、データから新しい情報やコンテンツを生成する能力をもつ。この種のAIは、大量のデータセットを学習し、そのパターンを理解して新しいデータを生成することができる。生成AIが学習するデータには、テキスト、画像、音楽、動画等、さまざまなメディアが含まれる。かつては、生成AI技術を利用するには高度な知識や専門的なスキルが必要であったが、技術の進歩により、幅広い層の人々が活用できるようになった。

今や生成AIは、スマートフォンやタブレットなどのデバイスに組み込まれ、手軽に利用できる。たとえば、音声認識技術を使ったスマートアシスタントは、気軽にスマートフォンやタブレットから操作を行うことができるため、多くの人々が日常生活の中で活用できる。また、インターネット上には無数の無料または安価な生成AIツールが提供されている。これらにより、特別な技術や知識がなくても、誰でも簡単にAIを利用して問題解決を図ったり、創造的な作業を行える。

そのような生成AIの普及は、教育分野にも大きな影響を与える可能性がある。たとえば、生成AIを活用することで、教育者は授業準備や評価にかかる時間を短縮し、学生との個別指導や他の重要な業務に集中できる。また、無料または安価な生成AIツールにより、学生たちは特別な技術や知識がなくても、創造的な作業を行える。これにより、新しいアイデアやプロジェクトを生み出す力を育て、学生たちが将来のイノベーターに成長することが期待できるだろう。

本稿では、生成AIが有する暗記や計算能力を概観しつつ、生成AI時代に求められる教育のあり方について考察する。

2.生成AIの暗記や計算能力の概要

生成AIは、数学や英語など学生が日常学んでいる基本的な問題から、司法試験のような国家資格試験に出題される高度な問題まで、あらゆるレベルの問題を解析し、回答する能力をもっている。ここでは、基本的な問題と専門的な知識を必要とする難易度の高い試験問題の2つの事例を用いて、生成AIの能力を検証していく。

まず、基本的な問題に対する回答能力を確認すべく、中学生レベルの数学問題を作成し、生成AIに解かせてみた。1問目として「辺の長さが3cmの正方形の対角線の長さを求めよ」と生成AIに質問した。すると、生成AIはピタゴラスの定理を用いることができることを説明し、正解である「約4.24cm」という回答を出力した(図表1)。

図表1
図表1

また、図表2に示すように、生成AIに中学生レベルの英語の問題として、文を完成させるための選択問題の解答を求めると、生成AIは正解となる選択肢「go」を選んだ。

図表2
図表2

次に、司法試験を始めとする高度な専門知識を必要とする問題に対する、生成AIの実力を検証する。最新の生成AIモデルの一つであるGPT-4は、マルチモーダルモデルと称され、文章や数式に関する問題だけでなく、図表や画像の読解や解析の能力を有している。検証の結果、米国司法試験の模擬試験においては、一世代前の生成AIモデルであるGPT-3.5においては受験者の下位10%前後のスコアであったものが、最新の生成AIモデルであるGPT-4においては受験者の上位10%程度のスコアが出力されるに至った。この最新の生成AIモデルの能力検証結果の対象範囲は、米国司法試験のみならず、数学、医学、物理、経済学、統計、プログラミングといった幅広い分野において能力が発揮されている。また、試験問題の正解率においては、人間レベルのパフォーマンスを示している(注1)。

3.生成AI時代に求められる教育改革

以上見てきたように、生成AIは、学生時代に皆が経験した問題から、司法試験をはじめとする高度な専門知識が必要となる問題まで正解を導く能力を持ち始めている。この事実は、教育現場における暗記や計算能力を身に着けることに主眼を置いた従来の教育プロセスに大きな変革を迫るのではないだろうか。

実際、筆者の知人の大学教授によると、従来、留学生のレポートはどこかぎこちない日本語の文章で提出されることが多かったが、最近では、日本人の学生と遜色ない流暢な日本語のレポートが提出されることが増えてきたという。生成AIの普及に伴い、学生が利用し始めていることを示唆する事象といえる。

一方で、米国の一部の学校では、校内での生成AIの利用を禁止する動きもある(注2)。だが、学校での利用が禁止されても、学生が校外で生成AIを活用する流れは止められない。生成AIは黎明期にあり、その能力開発は始まったばかりだが、すでに文章や図表や画像の内容を解析し、質問への回答能力を備えるに至っている。今後さらなる進化が予想される中、従来の暗記や計算能力を求める単純な学習プロセスは、学生がAIと相談しながら回答する時代へと変わっていくのではないか。

そのような中で、教育者は新しい学習のあり方を模索すべき時代になりつつある。暗記や計算はAIに代替されてしまうことから、今後は、創造性、共感力、倫理的判断といった人間固有の分野への能力開発に重点を置くべきであろう。

生成AIの進化は、教育現場に大きな変化をもたらす。教育者、学校、政府が連携し、生成AIの利点を最大限活用しながら、人間にしかできない能力開発や教育の質の向上に努めることが、今後の教育改革の鍵となる。教育機関は、生成AIをうまく活用し、従来の教育方法とのバランスを保ちながら、学生がもつ独自の才能や能力を引き出す新しい教育プログラムを考案することが求められる。

また、教育現場での生成AIの活用に関するガイドラインやルール作りも、今後の課題となるだろう。加えて、学生の創造性、共感力、倫理的判断といった能力を向上させるためには、教師自身の能力向上も求められる。たとえば、教師自らが創造性を高めるための行動として、アートや音楽、ダンス、演劇などの芸術分野での活動に参加することや、共感力を高めるためにボランティア活動や社会貢献活動に参加し、他人の状況を身近に感じることなども一案だ。また、倫理的判断能力を高めるために、ディベートや意見交換を通じて、異なる視点や価値観を理解し、自分の考えを明確化する訓練も有効だろう。

生成AIを学習に活用する流れは止められないだろう。急速に進化する生成AIは、インターネットやSNSのように世界中で普及・活用されることになる。教育機関は、生成AIの登場を受けて、教育のあり方を見直し、その存在意義やあり方を再考するべきである。また、生成AIの能力や可能性を見極め、迅速に次世代の教育カリキュラムへアップデートすることが、日本の未来を支える学生の能力開発において重要だといえるであろう。

【注釈】

  1. OpenAIHPより
    https://openai.com/research/gpt-4
  2. ForbesHPより
    https://www.forbes.com/sites/ariannajohnson/2023/01/18/chatgpt-in-schools-heres-where-its-banned-and-how-it-could-potentially-help-students/?sh=65cc5f226e2c

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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