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AIプロンプトの衝撃

~生成AI時代に登場した新たなエンジニアスキル~

柏村 祐

目次

1.生成AIに必要となる的確な質問

近年、AI技術の進化が絶え間なく続いており、私たちの生活やビジネスに多大な影響を与えている。その中でも特に生成AIが注目を集めている。生成AIとは、人の指示に従って、人工知能が文章、画像、音楽などを生成する技術のことを指す。たとえば、自然言語処理の分野では、ChatGPTなどの最先端のモデルが、高品質で自然な文章を生成する能力を有するに至っている。

生成AIは、その応用範囲の広さから、今後さらに発展が期待されているが、その特徴は大きく自動生成能力、学習能力、柔軟性、高速性に分類される(図表1)。

図表1
図表1

生成AIを効果的に活用するためには、適切な文章の入力がポイントとなる。それを実現する手法をAIプロンプト(プロンプトとは指示文の意味)という。AIプロンプトは、利用者が生成AIに対して、あらかじめ定められたフォーマットで質問することにより、AIが目的に沿った出力を生成する技術である。

米国では、サンフランシスコに本拠を置くAI公益法人がウェブ上でプロンプトエンジニアの募集をおこなっているが、そこでは17.5万ドルから33.5万ドルという高額な年俸を提示されており、AIプロンプトに注目が集まっていることがうかがえる(注1)。

以下では、そのAIプロンプトについて概観し、その可能性について解説する。

2.AIプロンプトの概要

AIプロンプトの活用により、幅広い業界や分野でイノベーションが生まれている。

たとえば、ビジネス戦略の立案にAIプロンプトを活用すれば、生成AIを使って効率的にビジネスモデルキャンバス(ビジネスモデルを可視化したフレームワーク)を作成できる。

ビジネスモデルキャンバスを生成するためのAIプロンプトのフォーマットは、図表2のとおりである。青枠の英語で記載されている文章を訳すと、「[ビジネスの詳細]に関する会社の詳細なビジネスモデルキャンバスの作成を手伝ってほしい。コンサルティングで使用された元の形式を再現する表で回答を整理してほしい。付加価値に焦点を当てた詳細な回答を作成し、デジタルマーケティングのエキスパートコンサルタントとして記述してほしい」となる。

図表2
図表2

今回の実験では、図表2赤枠部分にビジネスの詳細として富裕層向け介護(英語でNursing care for wealthy people)と入力をしてみた。その結果、生成AIはビジネスモデルキャンバスの構成要素となる顧客セグメント、価値提案、チャネル、顧客関係、収益の流れ、重要なリソース、主要なパートナー、主要な活動、コスト構造を表形式でわかりやすく生成した(図表3)。このビジネスモデルキャンバスAIプロンプトを活用すれば、自分が現在携わるビジネスや、新たに取り組みたい新規ビジネスのキーワードを図表2赤枠部に入力し、生成AIを実行すれば、キーワードに応じたビジネスモデルキャンバスを瞬時に作成してくれる。

図表3
図表3

また、企業の採用面接時に必要な質問を生成AIで作成することもできる。専門人材を採用する際に必要な面接での質問を生成してみた。図表4青枠の英語で記載されている文章を日本語に訳すと「面接で <職務> の専門家を採用したいので、<職務> に対して多肢選択式の質問を10個提供してください。作成ルールとして、コアマーケティングスキルに関する質問5つ、人格形成に関する質問3つ、適性に関する質問2つにしてください」となる(図表4)。

図表4
図表4

今回のAIプロンプトの実験では、図表4の赤枠部分に職務内容としてテクノロジーの専門家(英語でtechnology specialist)と入力した、その結果、生成AIはテクノロジーの専門家に関連するマーケティングスキル質問5つ、人格に関する質問3つ、適性に関する質問2つを生成した(図表5)。この面接用質問AIプロンプトを活用すれば、図表4赤枠部分に職務内容さえ入力すれば、キーワードに即した質問をわかりやすく生成してくれる。

図表5
図表5

3.AIプロンプトの可能性

以上のように、AIプロンプトは、事前に準備された定型文を活用した生成AIの新たな活用モデルである。AIプロンプトを用いることで、生成AIから効率的なアウトプットを得られる。生成AIが開発フェーズからビジネス現場における活用フェーズへ移行している中、AIプロンプトはAI時代に登場した新たな仕組みとして効率的な活用が期待できる。

また、AIプロンプトは、本稿でみたビジネスモデルキャンバスや採用面接用の質問に限らず、あらゆる業界や職種におけるビジネス現場で活用できる。今後、生成AIがさらに進化することが予想される中、同時にAIプロンプトの高度化も進んでいくだろう。AIプロンプトというエンジニアスキルをいち早く活用することは、ビジネスにおける生産性向上につながるのではないか。


【注釈】

  1. anthropicHPより
    https://jobs.lever.co/Anthropic/e3cde481-d446-460f-b576-93cab67bd1ed

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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