暮らしの視点(27):独身男女が希望するライフコースの変化

~男女の双方で「両立コース」が最多に~

北村 安樹子

目次

1.独身男女が希望するライフコースの変化

独身女性が理想とするライフコースと聞くと、結婚したり、子どもが生まれた以降も共働きを続ける「両立コース」をイメージする人も多いだろう。しかし、若い独身女性を対象とする意識調査では、数年前まで、子育て期に仕事を中断する「再就職コース」のライフコースを支持する人が、結婚・出産後も仕事を続ける「両立コース」を上回っていた。それが、昨年秋に公表された直近の調査では、「両立コース」が「再就職コース」を上回って最多となった。子どもが幼い時期を含めて、仕事を続けるライフスタイルを理想とする人が増えたということになる。

さらに注目されるのは、今回、男性がパートナー(妻)に希望するライフコースも、「再就職コース」を「両立コース」が上回ったことである。本稿では、独身女性が自身の理想としたり、独身男性がパートナーに望むライフコースの新たな展開から得られた示唆を述べる。

2.男女の双方で「両立コース」が最多に

人口問題研究所が実施している「出生動向基本調査」には、独身女性には女性の理想のライフコースを、独身男性にはパートナーに希望するライフコースをたずねる設問がある(注1)。昨年9月に公表された直近の調査結果では、これら2つの設問で「両立コース」(結婚し子どもを持つが、仕事も続ける)が、「再就職コース」(結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ)を上回って、男女の双方で初めて最多となった(図表1)。

「両立コース」の上昇幅は、女性(32.3%→34.0%)より男性(33.9%→39.4%)で大きく、男性がパートナーに「両立コース」を希望する割合の方が高い。また、「再就職コース」と「専業主婦コース」(結婚し子どもを持ち、結婚あるいは出産の機会に退職し、その後は仕事を持たない)は男女とも減少した一方、「非婚就業コース」(結婚せず、仕事を続ける)や「DINKsコース」(Double Income No Kidsの略で、共働きで子どもを意図的に持たない夫婦のこと)を理想とする人も増加した。パートナーとなる女性が結婚・出産後も仕事をもち続けることを希望する男性は、女性より顕著に増える傾向にある。

図表1
図表1

3.結婚相手の「家事・育児の能力や姿勢」を重視する割合が、女性で増加トレンド

今回の調査では、結婚相手に求める条件についても、いくつかの変化がみられ、女性で相手の男性の「家事・育児の能力や姿勢」を「重視する」とした人が、前回調査から10ポイント以上も増加した(図表2)。結婚の意向をもつ女性では、相手の家事・育児に関するスキルや積極性・主体性、あるいは、そもそも外部や他者に委ねることも含め、家事・育児にどのような考えをもっているのかが重視されているようだ。一方、結婚の意向をもつ男性では、相手の女性の「経済力」を考慮する人が増え、重視する人と合わせると半数に迫っている。

図表2
図表2

これらの結果は、結婚や子どもをもつことを望む人にとって、子どもをもつことや、家事・子育てと仕事の両立に関する相手との価値観の一致が、これまで以上に重要になることを示している。パートナーの選択をめぐって、家計の責任をともに担うことや、家事・育児の進め方、費用・時間のかけ方に関する相互理解や歩み寄りの姿勢が、ますます重視されることになるだろう。

なお、今回、結婚しないライフコースや子どもをもたないライフコースを理想と考える女性や、「一生結婚するつもりがない」と答える若者も増加した。これらの傾向に関しては、コロナ禍という特殊な社会状況の影響を受けた可能性はあるものの、配偶者や子どもをもたない人生を視野に入れ、経済面の生活設計だけでなく、健康管理・健康づくりや、趣味・ライフワークなどを通じた人とのつながりに関心を強めた人も多いのではないだろうか。

これまで、結婚や子どもの誕生といった家族形成の機会は、経済面や健康面のリスクへの備えを考えるきっかけになってきた。家族をもたないライフコースを歩む人が増えるなか、経済面の生活設計とともに、心身の健康や人とのつながりを意識したライフデザインを行うことが、多くの人にとって大切な時代を迎えているといえるだろう。

【注釈】

  1. この調査には男性がパートナーとなる女性に望む理想のライフコースについての設問がある一方、男性が理想とする自身のライフコースや女性がパートナーとなる男性に望む理想のライフコースについての設問はない。また、過去に行われた調査とは設問文が一部異なるため、結果の解釈には留意が必要である。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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