暮らしの視点(26):ライフコースの多様化とミドル期の危機

~現在は40代が家族・お金、50代が老後・健康の悩みどき~

北村 安樹子

目次

1.不安・悩みを感じやすいミドル期

40~50代のミドル期は、健康面での変化やキャリア上の移行期に向き合う人が増えるなど、日常生活でさまざまな不安・悩みを感じやすい時期としても知られている。本稿では、昨年10月に実施された「国民生活に関する世論調査」の結果から、ミドル期の不安・悩みに関する特性とその背景について考える。

内閣府が行った今回の調査によれば、日常生活での不安・悩みを「感じている」とした人の割合は、40~50代のミドル世代で最も高く、40代で41.1%、50代では44.3%を占める(図表1)。一方、60代では70代以上とともに「感じている」とした人が50代以下に比べ大きく減少する。40~50代のミドル期は、日常生活で不安・悩みを感じやすい時期だと考えられる(注1)。

図表1
図表1

2.不安・悩みの内容~40代は家族・お金、50代は老後・健康の悩みどき

ここで、先の設問において不安・悩みを「感じている」「どちらかといえば感じている」と答えた人が挙げた内容をみると、40代では「進学、就職、結婚、子育てなど、家族の生活上の問題」「家族・親族間の人間関係」など家族にかかわることや、「今後の収入や資産の見通し」「現在の収入や資産の見通し」などお金の面に関することが、他の年代に比べ高い割合で挙げられている(図表2)。また、40代では上位に挙げられた項目の数も多く、さまざまな不安・悩みが重なりやすい時期であること、該当者の割合は低いものの、「事業や家業の経営上の問題」などに関する不安・悩みをもつ立場になる人が増える時期でもある。

図表2
図表2

一方、50代は「老後の生活設計」や「家族・自分の健康」など、老後生活や健康面に関することが他の年代に比べ高い割合で挙げられている。人生100年時代とすれば、50代は後半期のスタート時期にあたる。これまでの経験を通じて身につけたスキル・経験の振り返りや家計の見直しを行って、60代以降を見据えた暮らし方・働き方を意識する年代である。また、親の見守り、介護が必要になる人や、自身・家族の体調面での変化を感じる人が増える時期でもあるだろう。

3.ライフコースの多様化とミドル期の危機

シニア期への移行期にあたる40~50代のミドル期は、収入面をはじめ、仕事や健康面など、生活のさまざまな領域で変化に直面しやすい時期といわれてきた。

しかしながら、ライフコースの多様化や男女の役割変化、定年年齢の上昇等にともなう就労期間の長期化といった時代の変化をふまえれば、今後は先のような不安・悩みをもつ人の範囲やそれらの感じ方も変わる可能性がある。たとえば、配偶者や子どもの存在は、互いに助け合ったり、精神面の支えになると一般に考えられている。このため、配偶者や子どもをもたない人の増加は、老後の生活や親の介護などで、助け合う人や心の支えになる人がいないように感じて、不安をもつ人を増やすのではないか。一方で、配偶者や子どもがいないことで、友人などに助け合う関係や良き相談者を求めたり、家族とは別の心の支えをもつ人も増えると考えられる。

また、男女の役割変化は、仕事や家計に対する責任、家族のケアと仕事との両立などの悩み・不安を同じように抱える男女を増やすだろう。役割や責任を夫婦でシェアしたり、1人で担うことの大変さを知ることは、地域や職場で接する人の多様な人生への理解を深めることにもつながる。

就労期間の長期化という意味では、自身や家族のライフデザインにおいて、何歳からを老後に位置づけるかによって、経済的・時間的ゆとりの見通しや、ミドル期以降の不安・悩みの感じ方が変わってくるだろう。

以上の変化を踏まえ、ミドル期に想定される不安・悩みによる生活や仕事へのネガティブな影響を防ぎ、うまく乗り越えていくには、経済面の人生設計とともに、不安・悩みの捉え方や、それらへの対処スキルを身につけることが大切な視点になる。現状や、これから歩んでいく未来のポジティブな面に目を向けること、男女の役割変化への理解や適応力を高めること、家計や仕事・働き方などを見直して柔軟な対応を考えること、などが求められるのではないか。

【注釈】

  1. なお、「あなたはどの程度幸せですか」などの指標で測られる幸福感のカーブは、40代で落ち込みを示した後、再び上昇することが知られている(幸福感の「U字曲線」)。「不安・悩み」というネガティブな指標は、ポジティブな心理状態を示す幸福感とは質的に異なるため、不安・悩みを感じていることが幸福感の低さに直結するわけではない。しかし、この調査結果において、悩み・不安といった負の感情を抱きやすい時期が、幸福感のカーブが低下することで知られるミドル期に重なっていることは、ライフサイクルにともなう幸福感の変化を考える上で注目されよう。

【関連レポート】

  1. 北村安樹子「中高年シングルが振り返った幸福感のピーク」、2021年2月
    (https://www.dlri.co.jp/files/ld/152024.pdf)

【参考文献】

  1. 第一生命経済研究所「人生100年時代の「幸せ戦略」」東洋経済新報社、2019年11月(https://www.dlri.co.jp/guide/syoseki.html#30)
  2. 小谷みどり「働き盛りはお疲れ世代」、2013年7月
    (https://www.dlri.co.jp/pdf/ld/01-14/wt1307.pdf)

なお、当研究所のホームページには、上記レポートを含め、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした様々な変化に注目したレポート・ニュースリリースの一覧ページ新型コロナ(生活)がある。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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