ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

教育振興基本計画とは(1)

~教育とウェルビーイング~

鄭 美沙

要旨
  • 2023年3月8日に開催された文部科学省の中央教育審議会総会にて、「次期教育振興基本計画について(答申)」(以下、次期計画)が取りまとめられた。教育振興基本計画とは、教育基本法に基づき、政府が策定する教育に関する総合計画である。5年ごとに見直され、今回は第4期(2023~2027年度)にあたる。
  • 次期計画の大きな特徴は、計画のコンセプトに「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」が掲げられた点だ。近年、特に先進諸国において、ウェルビーイングの考え方が重視され始め、日本でも骨太の方針に明記されるなど政策や企業経営への反映が進んでいる。国内外の様々な分野でウェルビーイング向上を図る大きな流れがある中で、次期計画にも取り入れられた。
  • “教育”にウェルビーイングが求められる背景としては、子供たちの抱える困難が多様化・複雑化していることや、持続可能な社会の創り手育成に向け自己肯定感を高める必要があることなどが挙げられている。
  • 次期計画は子供のウェルビーイングだけでなく教師のウェルビーイングや社会全体のウェルビーイング実現も意図している。教育基本法が教育の目的を「心身ともに健康な国民の育成」としているように、教育にとってウェルビーイングは全く新しい概念ではない。
  • ウェルビーイングには、自己肯定感や自己実現などの獲得的要素と、人とのつながりや利他性などの協調的要素の2つがあるとされている。日本は特に獲得的幸福感が低い傾向にある。次期計画では、これら2つを調和的・一体的に育んだものを「日本社会に根差したウェルビーイング」としており、教育を通じて向上させるとともに、国際社会に発信するとしている。
  • 今後の課題は、ウェルビーイングの周知・浸透や指標の開発、省庁間の連携強化が考えられる。子供のウェルビーイング向上は教育政策だけで実現できるものではない。他の子供関連政策と接続していくために、こども家庭庁の司令塔機能の発揮が期待される。
目次

1.教育振興基本計画

2023年3月8日に開催された文部科学省の中央教育審議会総会にて、「次期教育振興基本計画について(答申)」(以下、次期計画)が取りまとめられた。今後、この答申が「教育振興基本計画」として閣議決定される予定だ。

教育振興基本計画とは、2006年に全面改正された教育基本法に基づき、政府が策定する教育に関する総合計画である。5年ごとに見直され、これまで第1期(2008~2012年度)、第2期(2013~2017年度)、第3期(2018~2022年度)と3回策定された。今回は第4期にあたり、第3期計画期間中の成果や課題も踏まえ、教育政策の基本的な方針や、2023~2027年度の教育政策の目標とその実現に必要な基本施策、進捗状況を把握する指標等が示されている。

次期計画の大きな特徴は、そのコンセプトとして「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」が掲げられた点だ。ウェルビーイングという単語は、これまでの計画では使われていない。次期計画を審議してきた中央教育審議会教育振興基本計画部会では、様々な意見が出ており、ウェルビーイングは議論の中心にあった(注1)。

そこで本稿では、次期計画でウェルビーイングがどのように取り上げられているかを解説し、教育にウェルビーイングが求められる背景や今後の課題を考察する。

2.なぜウェルビーイングが求められるのか

資料1は、第3期計画と次期計画の概要を比較したものである。

図表1
図表1

第3期では、社会構造が急速に変革する中で、2030年以降の社会を展望した教育政策を進めていくために、「一人一人の可能性とチャンスを最大化する」という観点が計画のベースになった。一方、次期計画では「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」の2つをコンセプトとして掲げ、これらを「今後の教育政策に関する基本的な方針」の上位概念となる「総括的な基本方針」と位置付けている。

1つ目の「持続可能な社会の創り手」は、目下の社会課題を解決するだけではなく、未来に向けて自らが社会の創り手になるという、社会に対するより能動的な姿勢が表れている。平成29・30・31年改訂学習指導要領にも記載された言葉であり、改めて打ち出された形だ。こちらも重要なコンセプトであるが、本稿では詳細は割愛する。

持続可能な社会の創り手の育成とともに、今後日本が目指すべき社会及び個人の在り様として重要な概念とされたのが2つ目の「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」である。文科省の資料によると、ウェルビーイングの定義や求められる理由は資料2のとおりだ。

図表2
図表2

記載のとおり、近年、特に先進諸国において、ウェルビーイングの考え方が重視され始め、日本でも政策や企業経営への反映が進んでいる。例えば、2021年、政府の骨太の方針に「政府の各種の基本計画等についてWell-beingに関するKPI(重要業績評価指標)を設定する」ことが記載された(注2)。これを受け、岸田政権が進めるデジタル田園都市国家構想の実現に向けては、地域幸福度(Well-being)の活用促進が検討されている。同様に企業でも、生産性向上や人材確保に向け従業員のウェルビーイング向上を図るなど、ウェルビーイング経営の実践が進んでいる(注3)。

OECDは、2019年に「学びの羅針盤2030」を公表する以前から生徒のウェルビーイングの調査・分析を行っており、教育をウェルビーイング実現の重要な要素と捉えている。また、2021年に「グレート・リセット」をテーマに開催されたダボス会議では、その創設者であるクラウス・シュワブ会長が「人々の幸福(Well-being)を中心とした経済に考え直すべき」と述べた。

このように、次期計画でウェルビーイングが大きく取り上げられた背景には、国内外の様々な分野でその向上を進める大きな流れがある。

3.教育とウェルビーイング

では、“教育”とウェルビーイングにはどのような関係があるのだろうか。資料3が、文科省が挙げる教育においてウェルビーイングが求められる理由である。

図表3
図表3

1つ目の子供たちの抱える困難の多様化・複雑化に関して、第3期計画期間中に話題になった言葉に「ヤングケアラー」と「親ガチャ」がある(注4)。ヤングケアラーは、中学校や高校では1学級に1~2人いるとされている。以前からこうした子供は存在していたが、核家族化やひとり親家庭の増加、また晩婚化によって親や祖父母の年齢が上がっていることから、子供にケアの負担が行きやすくなっている。

また、親ガチャという表現には賛否あるが、親の経済資本に加え、家庭内の会話や読書習慣など家庭の文化資本や、親の教育への熱意等は、実際に子供の学力や進路に影響を与えている(注5)。近年、東大生は私立の中高一貫校出身者が多く、昔と比べ都市圏以外の出身者が減少しているなど、出身地域の教育資源や家庭の経済力、教育方針による学力格差は広がっていると考えられる。

他にも、小・中学校の不登校児童生徒数は増加傾向にあり、2021年度の対前年度の増加率は過去最大であった(注6)。加えて、グローバル化により外国人児童生徒も増加しているが、日本語指導等の特別な指導を受けられていない児童生徒や、就学していない子供もいる(注7)。この他にも子供たちの困難は多様化・複雑化しており、教育現場における子供のウェルビーイング確保の必要性は高まっている。

また、資料3の2つ目に記載の自己肯定感は、ウェルビーイングの構成要素である。しかし、日本の子供たちの自己肯定感は低く、第2期計画から課題として挙げられている。日本財団が17~19歳を対象に行った「18歳意識調査」によると、「自分は大人だと思う」「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」に同意する割合はそれぞれ3割に満たず、他国よりも大幅に低かった(注8)。持続可能な社会の創り手の育成にはこうした自己肯定感を高める必要があり、「持続可能な社会の創り手の育成」と「ウェルビーイングの向上」という2つのコンセプトは相互循環的な関係になっている。

以上は、主に子供のウェルビーイングを高めるべき理由であるが、次期計画では教師のウェルビーイング確保にも言及している。教師の過重労働は深刻化しており、働き方改革は喫緊の課題だ(注9)。次期計画では、「子供たちのウェルビーイングを高めるためには、教師のウェルビーイングを確保することが必要であり、学校が教師のウェルビーイングを高める場となることが重要」としている。加えて、子供たちのウェルビーイングが、家庭や地域、社会に広がり、その広がりが多様な個人を支え、将来にわたって世代を超えて循環していく、という姿も描かれており、社会全体のウェルビーイングの実現も意図されている。

元々、教育にとってウェルビーイングの概念は全く新しいものではない。改正教育基本法では、教育の目的は「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」としている。心と身体の健康はウェルビーイングの重要な要素であるが、従来教育成果の尺度として「学力」が重視される傾向もあった。そうした中で、ウェルビーイングの向上を総括的な基本方針として大きく打ち出したことは、本来の教育目的に立ち返ったもので、評価すべきことと考える。

4.日本社会に根差したウェルビーイングの向上

次期計画では、単なるウェルビーイングの向上ではなく、「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を掲げている。あえて「日本社会に根差した」と強調した背景には、獲得的要素と協調的要素という2つのウェルビーイングの存在がある(資料4)。従来、一般的なウェルビーイングの要素としては、獲得的要素が主流であった。次期計画は、それに加えて協調的要素も取り入れた形だ。

図表4
図表4

獲得的要素は、3節で述べた自己肯定感のように、「自分の人生に満足している」「私は望んだものは手に入れてきた」といった人生の満足感の尺度で測られる。他国と比較して、日本はこの尺度での得点が低い。しかし、この結果によって日本のウェルビーイングが低いとは言い切れない。教育振興基本計画部会の委員であり、ウェルビーイングを研究している内田由紀子氏(京都大学人と社会の未来研究院教授)は、幸福感には一定の文化差が存在することを指摘している。例えば、日本人は「幸せすぎると怖い」というが、北米では「幸せは新たな幸せを呼ぶ」という考え方がある。こうした文化差によって回答への反応が異なるため、ウェルビーイングの高低は比較し難いとされる。

一方、より日本に馴染むものが、協調的要素である。これは、「大切な人を幸せにしていると思う」「平凡だが安定した日々を過ごしている」といった、人とのつながりや協働性によって得られる幸福感を指す。主に東アジア文化圏の価値観に沿ったものと言われており、この尺度では、日本は他国と概ね同水準となる。教育振興基本計画部会では、協調的要素の方が日本は高いから押し出そうというわけではなく、文化によって多様な幸福感がある中、世界基準のウェルビーイング指標が獲得的要素に偏りつつあるため、協調的要素も打ち出すべきではないかといった議論が見られた。

注意すべきは、「日本社会に根差したウェルビーイング」とは後者の協調的要素のみではないことだ。次期計画は「幸福感、学校や地域でのつながり、利他性、協働性、自己肯定感、自己実現等が含まれ、協調的要素と獲得的要素を調和的・一体的に育む」と示しており、どちらの要素も欠かせないことを強調している。前述のとおり、日本の子供は自己肯定感が低い傾向にある。文化差があるにせよ、自分の人生に自信を持つことは子供たちにとって大事である。

また、こうした日本発の調和と協調(Balance and Harmony)に基づくウェルビーイングを国際的に発信していくことも重要と明記されている(注10)。これまで、日本は国際的な課題に対するルールメイキングや発信力が欧米諸国より弱いと言われてきた。その反省を踏まえ、ウェルビーイングという世界的に注目が集まっているテーマに対し、イニシアチブを取っていくことが期待される。

5.今後の課題

以上が、次期計画のコンセプト・総括的な基本方針である「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」の概要だ。今後、計画を実行するにあたり、まず課題となるのはウェルビーイングの周知・浸透と考える。ウェルビーイング自体の認知度はまだ高くなく、教育現場のウェルビーイングとなるとさらにイメージしづらくなる。その概念や目的は共感を得やすいと思われるが、現状、学校現場はとにかく忙しく、従来のカリキュラムにないものを取り入れづらい状況にある。働き方改革の早期の実現とともに、優れた事例を参考にできるよう、ウェルビーイング向上の実践例や好事例の展開が求められる。

また、地方公共団体が策定する教育振興基本計画や教育大綱への反映も必要だ(注11)。地方公共団体は、政府の教育振興基本計画を参酌し、地域の実情に応じた計画を策定することが努力義務になっている。2021年3月末時点で、都道府県・指定市の策定率は100%で、市町村も82.9%である。しかし、策定時期や計画期間、内容は様々であるので、次期計画がそのまますぐに反映されるものではない。各計画の内容が学校現場に十分に連携されていないという課題もある。地方公共団体の計画は、政府の計画よりも地域に沿ったものになるので、各地方自治体がより学校現場に身近になるような形でウェルビーイングを取り入れることが期待される。

なお、次期計画ではウェルビーイングを測る単一の指標・目標は置かれていない。主観的ウェルビーイングに関する指標として、「自分にはよいところがあると思う児童生徒の割合の増加」「将来の夢や目標を持っている児童生徒の割合の増加」等の例示はあり、こうした指標と他の関連しそうな客観的指標を組み合わせた適切な測り方の検討も今後の課題だ。内閣府が公表する「満足度・生活の質を表す指標群(Well-beingダッシュボード)」や、前述のデジタル田園都市国家構想実現に向けた「地域幸福度(Well-Being)指標」のように、ウェルビーイング指標は開発・活用途上にある(注12)。官民様々な場で検討されているので、こうした議論を注視しながら「日本社会に根差したウェルビーイング指標」を構築すべきであろう。

最後に、省庁間の連携は特に重要と考える。子供のウェルビーイング向上は、親の所得や家庭環境など福祉からのアプローチも必要で、文科省が担う教育の範囲だけで実現できるものではない。教育振興基本計画は、あくまで教育に関する総合計画であり、他の子供に関する政策との接続が不可欠である。それには、こども政策の司令塔として創設されたこども家庭庁の役割は大きい(注13)。こども家庭庁は、こども政策の基本理念の1つに「全てのこどもの健やかな成長、Well-beingの向上」を掲げ、「安全で安心して過ごせる多くの居場所を持ちながら、様々な学びや体験ができ、幸せな状態(Well-being)で成長できるよう、家庭、学校、職域、地域等が一体的に取り組む」としている。こども政策の決定過程に子供・若者の意見を反映させることも検討しており、子供の声を聞きながら、省庁横断的なウェルビーイング向上策が講じられることを期待する(注14)。

次稿では、次期計画のウェルビーイング以外の特徴と、教育現場への参画など企業に求められていることについて考察する。

以 上

【注釈】

  1. 次期計画の諮問文もウェルビーイングに言及している。「一人一人の多様な幸せであるとともに社会全体の幸せでもあるウェルビーイングが実現されるように、制度等の在り方を考えていく必要があります」などの記載がある。
  2. 例えば、2021年に公表された第6期科学技術・イノベーション基本計画は、日本が目指す社会(Society5.0)の一つとして「一人ひとりの多様な幸せ(well-being)が実現できる社会」を掲げ、関連する参考指標として「より良い暮らし指標(Better Life Index)」(OECD)や「健康寿命」(厚生労働省)を設定している。
  3. 経団連の2022年度の事業方針「サステイナブルな資本主義を実践する」には、「Well-beingの向上を目指す」との記載がある。
  4. ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子供を指す。親ガチャとは、親の学歴や経済力などが、子供の学習環境や人生そのものに大きな影響を与えるにもかかわらず、子どもは親を選べず、運任せであることを意味している。ソーシャルゲームにある、ランダムでアイテム等が当たるくじ=ガチャに例えたもので、一般的にゲームのガチャで大当たりが出る確率は低い。
  5. 耳塚(2019)は、家庭所得、父親学歴、母親学齢の3つの変数を合成した「家庭の社会経済的背景(SES:Socio-Economic Status)」を作成。文化資本と経済資本の総量を表す指標としており、SESが高い児童生徒の方が国語や算数/数学の平均正答率が高い傾向にあることを示した。志水(2011)によると、文化資本と経済資本に加え、社会関係資本も学力にプラスの効果がある。社会関係資本は、米国の政治学者ロバート・パットナム氏が「個人間のつながり、すなわち社会的ネットワークおよびそこから生じる互酬性と信頼性の規範」と定義している。子供の教育が、能力や努力ではなく、親の富と願望に規定される「ペアレントクラシー」という言葉も近年注目を集めており、能力主義を意味する「メリトクラシー」から「ペアレントクラシー」に移行しつつあるとの指摘がある。
  6. 文科省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、2021年度の小・中学校における長期欠席者のうち、不登校児童生徒数は244,940人(前年度196,127人)であり、児童生徒1,000人当たりの不登校児童生徒数は25.7人(前年度20.5人)。不登校児童生徒数は9年連続で増加し、過去最多となった。
  7. 文科省の「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」によると、2021年度の日本語指導が必要な児童生徒数は5.8万人超で、2012年度と比較し約10年間で1.8倍増となっている。こうした児童生徒のうち、1割程度が日本語指導等の特別な指導を受けることができていない。また、約1万人の外国人の子供が、就学していないか、就学状況が確認できていない状況にある。
  8. 「18歳意識調査」は米英中韓印と比較している。「自分は大人だと思う」割合は27.3%で6ヵ国中最下位。1位の英国は85.9%。「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」割合は26.9%。こちらも最下位で、1位のインドは78.9%。
  9. 2019年に中央教育審議会は「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」を取りまとめた。2022年度の調査では、教職員の時間外勤務月45時間以上の割合は、依然として小学校と高等学校では約4割、中学校では半数以上を占める。
  10. 日本発の対外発信の事例としては、国際連合の関係機関が発表した2022年版の「World Happiness Report(世界幸福度報告)」で、ランキングの公表が始まった2012年以来、初めて東アジア圏の幸福観に着目した「バランス」と「調和」という概念が調査・分析の対象となったことが挙げられる。日本の公益財団法人 Well-being for Planet Earthの働きかけに応え、世界幸福度報告に幸福度調査結果を提供するGallup社が同財団と共同して調査を行った。
  11. 教育大綱とは、地方教育行政の組織及び運営に関する法律に基づき、地方公共団体の長が主体となって策定する「地方公共団体の教育、学術及び文化の振興に関する総合的な施策の大綱」である。教育振興基本計画が努力義務である一方、教育大綱は策定必須となっている。教育大綱も、教育振興基本計画の基本的な方針を参酌して定めることとされている。
  12. デジタル庁は、一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発した、Liveable Well-Being City指標(LWC指標)の活用を打ち出している。LWC指標には、内田由紀子教授らが評価指標を開発した協調的幸福因子も含まれている。
  13. 次期計画でも、こども政策との連携について明記されており、「こどもの健やかな成長に向けては、『学び』に係る政策と『育ち』に係る政策の両者が、それぞれの目的を追求する中で、専門性を高めつつ緊密に連携することが重要であり、教育振興基本計画の推進に当たっては、こども大綱に基づくこども施策と相互に連携を図りながら取り組む」としている。
  14. こども基本法には、こども施策にこども等の意見を反映する措置を講じることが明記されている。それに基づき、内閣官房に「こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する検討委員会」が設置され、2023年2月に調査研究報告書案を示している。次期計画の検討過程においても、内閣府の「ユース政策モニター」を活用し、子供・若者の意見の反映を試みている。 省庁間の連携に関して、内閣府は、2021年7月に「Well-beingに関する関係省庁連絡会議」を設置し、Well-beingに関する取組の推進に向けて情報共有・連携強化・優良事例の横展開をはかることとしている。

【参考文献】

  • 内田由紀子・荻原祐二(2012)「文化的幸福観―文化心理学的知見と将来への展望―」『心理学評論』55,26-42
  • 志水宏吉(2011)「社会関係資本と学力」
  • 志水宏吉(2022)「危機としてのペアレントクラシー」『教育文化学年報』17 p.3-p.14
  • 内閣官房こども家庭庁設立準備室(2021)「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針(概要)」
  • 内閣府Well-beingに関する関係府省庁連絡会議(2022)「Well-being関連の基本計画等のKPI」
  • 日本財団(2022)「第46回18歳意識調査『国や社会に対する意識』(6カ国調査)調査報告書」
  • 耳塚寛明(2019)「家庭の社会経済的背景(SES)が困難な児童生徒への支援について」文部科学省教育課程部会(第114回) 
  • 村上隆晃(2022)「世界も注目を始めた東アジアの幸福観~「世界幸福度報告」2022年版より~」
  • 村上隆晃(2022)「デジタル田園都市国家構想はウェルビーイングを目指す~ウェルビーイングとDX(1)~」
  • 文部科学省(2018)「第3期教育振興基本計画」
  • 文部科学省(2022)「外国人児童生徒等教育の現状と課題」
  • 文部科学省(2022)「次期教育振興基本計画の策定について(諮問)」
  • 文部科学省(2022)「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」
  • 文部科学省(2022)「第3回教育振興基本計画部会事務局資料」
  • 文部科学省(2022)「令和4年度教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査結果」
  • 文部科学省(2023)「次期教育振興基本計画の策定について(答申)」
  • 文部科学省(2023)「次期教育振興基本計画について(答申)参考資料・データ集」
  • 文部科学省(2023)「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和3年度)」

鄭 美沙


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

鄭 美沙

てい みさ

総合調査部 政策調査G 課長補佐
専⾨分野: 教育、ダイバーシティ、金融リテラシー

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