暮らしの視点(25):祖父母による子育ての手助け

~世代間ギャップも母娘間なら理解し合える?~

北村 安樹子

目次

1.少孫化・無孫化時代の祖父母経験

生命保険文化センターが行った調査によると、60歳以上のシニア世代のうち、家族や付き合いのある親族として孫をあげた人は現状で約6割、そのような孫の人数は平均3.1人とされる(図表1)。配偶者や子どもをもたないライフコースを歩む人が増えているなかで、今後、孫がいる人や孫の人数はさらに減り、シニア世代と子・孫との付き合い方も変わっていく可能性がある。

ただ、子どもがいる人にとって子の就職や結婚、孫の誕生は、自身の人生後半期のライフデザインを考えていく際に重要なライフイベントであり続けるだろう。シニア世代には、自身が生きた時代との違いを感じながら、若い世代の生き方やライフデザインを見守っている人、見守っていこうと考えている人も多いのではないだろうか。

図表1
図表1

2.幼少期の子育てをめぐる妻方祖母からの直接的な手助け

国立社会保障・人口問題研究所が昨年公表した資料によると、第1子が3歳になるまでの時期に祖母から直接的な手助けを受けたと答えた母親は、第1子が2015年以降に生まれたケースで約6割であり、それ以前に第1子が生まれた母親に比べ高い(図表2左)。また、夫方の祖母に比べ妻方の祖母から受けた割合が高くなっている。

このような母親は第1子が1歳時に就業していた人でも約6割を占め(図表2右)、子どもが幼い時期における祖母の直接的な手助けは、働く母親にとって依然大きな位置づけを占めているといえる(注1)。特に妻方の祖母から手助けを受けた人は、共働き家庭が増加し、子育て支援制度や保育施設等の利用が広がるなかでも、半数程度で推移している。

図表2
図表2

3.世代間ギャップも母娘間なら理解し合える?

このように、妻方の祖母から出産や子育ての手助けを受ける母親は多い。個人差もあるが、妻方の祖母と母親では、結婚・出産後もコミュニケーション機会が多く、直接的な手助けが行われやすいのだろう。

また、別の調査によると、「子どもが3歳くらいまでは、母親は仕事を持たずに育児に専念したほうがよい」「男の子は男らしく、女の子は女らしく育てるべきだ」など、幼い子どもがいる女性の働き方や子育てをめぐる価値観に世代間のギャップがみられる(図表3)。幼い子どもがいる時期に妻方の祖母から手助けを受ける母親は多いが、母娘間であれば、良い意味でこれらのギャップをお互いに意識し合えることも多いのでないだろうか。妻方の祖母も、出産や子育ての手助けを通して幼い子どもがいる時期の若い世代の子育てへの向き合い方や、孫の個性を重視する育て方などへの理解が進むこともあるだろう。娘の側も、自分の親であれば、価値観のギャップを感じたとしても、互いに理解し合えると感じて、手助けを求めやすい面があるのかもしれない。

4.祖父母による子育ての手助けの行方

さらに、仕事と子育てを両立するライフコースを目指そうとする娘が、自らもそれを実践してきた、あるいは両立を望みながらもキャリアを断念した母親の生き方や価値観に強い影響を受け、両者の関係がいっそう深まるケースもあるのではないか。子どもが幼い時期の子育てへの直接的な手助けを含めて、妻方の祖母が娘のライフデザインを強力にサポートし、娘がそれらに強く支えられるケースもあるだろう。

ただ、家事・子育てにかかわる男性の増加や各種の両立支援の広がりを背景に、祖父母の力に頼り過ぎず、夫婦で協力して、幼少期の子どもと過ごす時間を楽しみたいと考える親も多い。また、子世代が祖父母に子育ての手助けを頼れるかどうかには個人差も大きい。したがって、当たり前のことではあるが、出産や子育てに祖父母の直接的な手助けを得るかどうかは、子世代がどのようなライフスタイルを志向するかによっても異なるだろう。

一方、シニア世代が自身のライフデザインを考えていく場合にも、出産・子育て期の子世代への支援や、その後の子や孫との付き合い方には多様な捉え方があると思われる。そのなかには、子どもが幼い時期の手助けを含めて、子世代のキャリアデザインや孫の成長に応じて、できるだけ支援していきたいとする家族志向のライフデザインの形もあると思われる。これに対して、子や孫に過度な干渉をせず、自身の仕事や余暇活動を重視する独立志向のライフデザインの形もあるだろう。

両者は必ずしも対立するものではなく、娘や孫との交流が、祖父母の新たな楽しみや若い世代への理解につながる場合もあると考えられる。ただ、子育て支援制度の利用が広がってきたなかにあっても、祖母の手助けを得る人が依然6割近くを占める現状は、出産や子育てに祖母の手助けが果たす役割の大きさを示している。娘がいるシニア世代には、各々の生活スタイルや自分の楽しみを重視するライフデザインの一方で、自身の子育ての経験からも、娘や孫への手助けを想定したライフデザインの必要性を感じている人が多いのではないだろうか。

また、少孫化・無孫化が進む時代に祖父母の立場を経験することは、シニア世代が自身の過ごした時代の子育ての課題を現代目線で振り返ったり、今の子育て世代が向き合う仕事と家庭の両立をめぐる課題への理解を深める面もあると思われる。

【注釈】

  1. 資料には、祖父からの手助けについての集計もある。それによると、夫方・妻方いずれかの祖父から手助けを受けたとした母親は、第1子が2015~2018年生まれの夫婦で約3割であり、祖母と同じく、夫方の祖父から受けた割合(15.1%)を妻方の祖父(24.7%)が上回っている。

【関連レポート】

  1. 北村安樹子「祖父母よる孫育て支援の実態と意識」2015年7月
  2. 北村安樹子「孫の教育・将来に対する祖父母の意識」2015年1月

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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