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メール生成AIの衝撃

~生産性向上につながるメール生成AIの可能性~

柏村 祐

目次

1.ビジネスに必要なメール作成

Eメールやチャットツールは、社内における報告・連絡や社外のお客様とのやりとりに必要不可欠なコミュニケーション手段となっている。社内で利用されるチャットは、カジュアルな言葉を用いるツールとして最近活用が拡大している。一方、社外とのコミュニケーションに利用されるEメールでは、ビジネスメールとしてのマナーや形式に則って作成されることが多い。

Eメールやチャットツールを利用するうえでの重要なスキルの1つとして、いかに相手に伝わる文章を書くかが挙げられる。特にEメールについては、的確に内容を考え、迅速に送信するという作業に苦労している人も多いのではないだろうか。

2.メール生成AIとは

一般社団法人日本ビジネスメール協会が2022年6月1日に発表した「ビジネスメール実態調査2022」によると、回答者の1日平均のメール送信数は16.27通、受信数は66.87通となっている。また、メールを1通書くのに平均6分5秒、メールを1通読むのに平均1分24秒かかっており、多くのビジネスパーソンがメールの読み書きに相当の時間を費やしていることがわかる。

そのような中、Eメールの文章作成を効率的に行えるサービスとして、メール生成AIが登場している。このサービスで活用されている対話型AIは、質問に対して最適な答えを行うために高度な訓練を重ねて創られており、わからないことや解決してほしいことをAIに質問すれば答えてくれる仕組みである。

世界的に有名な対話型AIを作っている企業が公開している情報によれば、具体的にどのような質問に答えてくれるかを確認できる。たとえば、「隣人に自己紹介する短いメモを書くのを手伝ってください」や「どうすれば家を空き巣から守れるか悩んでいます」といった日常的な悩み事に対して、AIは多くの人が納得する回答をしてくれる。また、日常的な悩み事のみならず「フェルマーの小定理とは何か」や「実際に書いたプログラムコードが期待通りに動作しないので、どうすれば動作するようになるか」といった難解な質問にも対応してくれる(注1)。

この高度に訓練された対話型AIに基づいて創られたメール生成AIは、「新規メールの作成」および「受信したメールに対する返信メール作成」を行ってくれるため、Eメール作成業務を効率化してくれる。

まず、「新規メールの作成」について確認してみよう。メール生成AIの実力を確認するために、自分自身のビジネスで関わるお客様に対する自己紹介メールの作成を試みた。メール生成AIに対して、「私のお客さんに対する自己紹介を短く書いて」と指示したところ、メール生成AIは、数秒でお客様宛の自己紹介メール案を自動生成してくれた。メール生成AIが作成した文章は、人が書いた文章と比べても遜色ない水準となっている。また、顧客名(図表1赤枠)や会社名(図表1青枠)や自分自身の名前欄(図表1黄枠)は括弧が生成され、任意の情報を加筆できる。また、メール生成AIが生成したメール案の中で修正したい部分があれば、加筆修正すればよい。

図表1
図表1

次に、「受信したメールに対する返信メール作成」について確認してみよう。メール生成AIは、相手からのメールの内容に自分の思いを加味した上で、返信するメール案を生成してくれる。実際筆者に送信されてきたメールに対して、メール生成AIを起動させると、受信したメール文案が取り込まれる(図表2赤枠)。返信したい内容を簡単に入力すると、メール生成AIはそれに沿ってメール返信案を自動生成してくれる。実際に送付されてきたメールは、主催者からのイベントへの参加を促す内容であったが、これに対して「健康上の理由で出席が難しいと書いて」(図表2青枠)とメール生成AIに指示すると、その意図に沿った内容のメール返信案が作成された(図表2水色枠)。もし、メール生成AIが生成したメール返信案の中で修正が必要な部分があれば加筆修正すればよい。メール生成AI自体は、普段使いのメールソフト上で利用できる機能が備えられていることから使い勝手も良い。

図表2
図表2

3.メール生成AIの可能性

以上みてきたように、メール生成AIには、「新規メールの作成」と「受信したメールに対する返信メール作成」機能がある。

メールの作成スキルが高い人にとっては、新規メールの作成や受信したメールに対する返信メール作成を行う場合、メール生成AIはそれほど有用なものに感じられないかもしれない。一方、メールの作成が不得意な人は、どのような内容にしたらいいか悩んでしまったり、文章を作成するのに時間がかかっているのではないだろうか。メール生成AIにたたき台を作成してもらい、生成されたメールに加筆修正してメール文案を確定できるというAIと人が協働するメール作成プロセスは、仕事の生産性を大いに高めるだろう。特に、「受信したメールに対する返信メール作成」では、自分自身が返信したい内容を簡単に入力すれば、メール生成AIが受信したメール内容を分析したうえでメール返信案を作成してくれる事象は、メール生成AIの能力の進化が著しいことを示唆しているのではないか。

ビジネスに携わるあらゆる組織、個人において生産性の向上が求められる中、メール生成AIをそのツールとして利用することは、従来、人による対応が常識とされてきたメール作成業務に関わる時間の削減につながり、その時間を付加価値の高い仕事に向けることができるのではないだろうか。

現時点では、日本語に対応するメール生成AIは見当たらないが、近い将来翻訳技術と連携する日本語サービスも登場するだろう。日進月歩で高度化するメール生成AIは、メール作成作業を効率的に行えるツールとして、今後さらに幅広い活用が見込まれるところである。


【注釈】

  1. OpenAIHPより

https://openai.com/blog/chatgpt/

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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