デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

電力需給対策に活用されるデマンドレスポンス

~報酬ポイントがもらえる電力消費量削減策の可能性~

柏村 祐

目次

1.求められる節電対応

長引くウクライナ問題や円安などを要因とする資源価格の高騰により、電力料金が上昇している。経済産業省が公表している電気料金平均単価を確認すると、東日本大震災前と比べ、2021年度の平均単価は、家庭向けで約31%、産業向けで約35%の上昇となっており(注1)、家計における電力料金の負担感は増している。電力料金が高騰する中、本格的な冬を迎え節電の機運が高まっている。以前から、冬場や夏場の電力需給がひっ迫する時期には、国や電力事業者の節電要請が実施されてきた。従来の節電要請は、国や電力事業者からの「節電しよう」という呼びかけによる一方通行のものであった。現在、国や電力事業者からの呼びかけによる節電要請が継続される中、新たな節電要請手法としてデマンドレスポンスと呼ばれる手法が登場している。本稿では、このデマンドレスポンスについて概観し、その可能性について考察する。

2.デマンドレスポンスとは何か

デマンドレスポンス(以下DR)とは、消費者が賢く電力使用量を制御することで、電力需要パターンを変化させることを意味する。デマンドレスポンスが注目される背景には、従来、電力需要の予測に応じて発電所を稼働させることで需給バランスを図ってきたものが、東日本大震災以降、エネルギー供給が制約を受ける中で、電力需要そのものを低減させる必要性が高まったことが挙げられる。電気を大量に蓄えるには膨大な蓄電池を確保する必要があり、急な需要増に備えることは難しい。そのため電力需給がひっ迫する冬場や夏場においては、国や自治体は消費者に節電を呼びかけ、電力消費を減らすことで需給バランスを保っている。電力消費が増加し需給バランスが崩れると、大停電の可能性も生じる(図表1)。

図表1
図表1

電力消費を抑制し、停電を起こさずに経済、社会活動を継続させる仕組みであるDRは、電気料金型とインセンティブ型に分類される。電力料金型DRは、電力需要のピーク時に電気料金を値上げすることにより、事業者や家庭の電力需要を抑制する仕組みである。電力消費が高まる日中の時間帯の料金を高くして節電を促したり、逆に電力消費の少ない夜間の料金を安くすることで、夜間の電力消費を促す。

一方、インセンティブ型DRは、電力会社との間で前もって電力需要のピーク時に節電する契約を結んだうえで、電力会社からのタイムリーな節電要請に応じた場合、ポイントなどの対価が付与される(図表2)。

図表2
図表2

実際にインセンティブ型DRがどのように機能しているか確認しよう。筆者が契約する電力事業者のインセンティブ型DRでは、節電キャンペーンを実施している期間、節電を要請するメールが前日の夕方に配信される。このメールには、節電を要請する開始時刻と終了時刻が記載されている。この時間帯において、電力事業者が算定する標準的な使用量を実際の使用量が下回った場合、削減量1kWhに対して5ポイントの節電ポイントが付与される。2022年12月中旬以降に開始されたインセンティブ型DRの10日間の実績を確認したところ、節電要請時間は日毎に異なっていた。また、筆者の節電取組みによる削減量が算出され、それに応じたポイントを獲得できる。たとえば、12月14日の節電要請時間は16時から19時であり、家庭内の削減量は4.09kWhと計算され、20.5ポイントを獲得している。また、12月16日から12月18日のように電力需給のひっ迫がない日は、節電要請自体が発生しない。さらに、12月19日は、7時から11時および15時30分から20時30分と1日に2回の節電要請時間が発生する日もある(図表3)。

図表3
図表3

特に、指定された時間帯に節電を行うとポイントがもらえるインセンティブ型DRは、電力事業者から節電要請時間が細かく記載されたメールが届くため、消費者がどの時間帯に節電を行えば電力需給の改善に貢献でき、かつポイントを貰えるのかを把握できる。インセンティブ型DRは、要請された時間帯に節電に成功した場合、ポイントを貰えるため、電力消費者自身がゲーム感覚で取組めるインセンティブ設計が組み込まれているといえる。

3.デマンドレスポンスの可能性

以上のように、DRには、電力需要のピーク時に電気料金を値上げすることにより、事業者や家庭の電力需要を抑制する電気料金型DRと、電力会社からのタイムリーな節電要請に応じた場合、ポイントなどの対価が得られるインセンティブ型DRがある。

ウクライナ問題や円安が継続する中、2020年度の日本のエネルギー自給率は11.2%と低い水準にとどまっている。政府は、2030年度に向けてエネルギー自給率30%を目指している。これを達成するために、2020年度のゼロエミッション電源(発電時にCO₂を排出しない再生可能エネルギー由来の電源)の比率を現状の24%から、2030年度に59%まで高める目標を掲げている(注2)。

このような電力供給量の増加につながるエネルギー自給率向上の取組みを着実に進める一方、足元では限られた資源を有効に活用し、企業や家庭それぞれが節電に取り組む必要があるだろう。

エネルギー資源の効率的な活用が求められる中、節電要請時間を細かく指定できるインセンティブDRは、企業や家庭がインセンティブをもって電力消費量削減に参加できる仕組みである。インセンティブ型DRへの参加を通じて節電に取組むことは、日本のエネルギー問題の改善に向けた貢献につながるのではないだろうか。

【注釈】

  1. 経済産業省HPより
    https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/051_04_02.pdf
  2. 経済産業省HPより
    https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/051_04_02.pdf

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ