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活用が進むIoT高齢者見守りサービス

~離れて暮らす高齢の家族をそっと見守るテクノロジー~

柏村 祐

目次

1.社会課題となっている高齢者の見守り

少子高齢化が進む中で、高齢者の単独世帯や夫婦のみの世帯が増加している。高齢の親を持つ子どもは、結婚したり、仕事の関係で離れた場所に住んでいることも多く、年老いた親の将来の住まい方について、家族としてどう向き合えばよいのか考える人も多いのではないだろうか。

実際、内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」(2018年)によると、一人暮らしの60歳以上の人の半数以上が孤立死を身近な問題と感じており、高齢者の見守りは社会課題の1つとなっている(注1)。

このような中、離れた場所に住む高齢の親を見守る方法として、IoTを活用した高齢者見守りサービスの活用が進んでいる。本稿では、このサービスの具体的な活用事例を概観し、その可能性について考察を加える。

2.IoT高齢者見守りサービスとは

IoT高齢者見守りサービスは、離れた場所に住む高齢者をデジタルテクノロジーによって遠隔から見守ることができるサービスである。このサービスを支える仕組みとしてIoTが活用されている。IoTとはInternet of Thingsの略で、様々なものがインターネットにつながることを意味する。2001年に発売された通信機能を有する電気ポットを活用した見守りサービスがそのルーツの1つといわれている。その後、IoTの普及により、インターネットにつながるものは、PCやスマホといったデジタル機器のみならず、家電、家屋といった身の回りのものに拡大している(図表1)。IoT高齢者見守りサービスは、これらのものをインターネットにつなげることができれば、大がかりな工事は必要なく、手軽に導入することができる。

図表1
図表1

IoT高齢者見守りサービスは、生活に欠かせない電力・ガス・水道といった「ライフラインを活用する見守りサービス」と、テレビ、冷蔵庫、クーラーといった「家電を活用するサービス」に分類される。これらのIoT高齢者見守りサービスは、デジタル機器に苦手意識を持つ高齢者に負担をかけることなく、遠く離れた家族がそっと親の暮らしを見守れることが特徴である。

まず、「ライフラインを活用する見守りサービス」について確認してみよう。このサービスでは、生活する上で欠かせない電気・ガス、水道の使用データが活用される。電気の使用状況に基づく見守りサービスでは、見守られる高齢者の電気使用量から生活リズムの変化を推計して、見守る家族等にスマホで知らせるサービスが展開される。見守りサービスを提供する電力事業者では、30分ごとに電気の使用量データを蓄積しておき、生活リズムの変化を推計する。仮に見守られる高齢者が普段どおりに生活していれば、スマホへの通知はない。一方、データとして蓄積された電気使用量から推計される生活リズムをもとに、1日の始まりがいつもと異なる時、1日の終わりがいつもと異なる時、使用量に一定割合の変化があった時には、見守る家族等のスマホに通知が届く。この電気の使用状況に基づく見守りサービスは、新たにカメラやセンサー等の設置は必要ない。このように、普段の生活リズムに変化があったときだけ通知が来る仕組みとなっているため、見守る方の煩わしさもなく、心地よい距離感で見守ることができる(注2)。

また、ガスの使用状況に基づく見守りサービスでは、見守られる高齢者が、前日0時~24時の間、1度もガスを使用していない場合、事前に登録された見守る家族のメールアドレスに通知が届く仕組みを展開している。この見守りサービスを提供するガス事業会社は、万一見守られる高齢者がガスを長時間連続して使用している場合、離れたところに住む家族に電話で連絡してくれる(注3)。また、水道の使用状況に基づく見守りサービスでは、水道の使用状況を把握することにより、漏水や蛇口の閉め忘れが懸念される場合や、水道不使用が一定期間継続した場合、離れたところに住む家族にメールで知らせてくれる(図表2)。

図表2
図表2

次に、「家電を活用する見守りサービス」について確認してみよう。「家電を活用する見守りサービス」では、テレビ、冷蔵庫、電球といった身近な家電の使用状況に関するデータが活用される。まず、テレビを活用する見守りサービスでは、テレビの電源状態を定期的に検出し、テレビがついているか消されているかのデータが記録される。見守る家族は、スマホの専用アプリを通じて、離れて暮らす高齢の親のテレビの利用状況を一目瞭然で確認できる。また、一定時間テレビがついていない場合や、ずっとテレビが点いたままになっている場合にも通知メールを受け取れる。また、冷蔵庫を活用する見守りサービスでは、冷蔵庫のドアの開閉情報を検知することにより、一定時間動きがない場合にスマホアプリに通知される仕組みとなっている。電球を活用する見守りサービスでは、IoT機能を備えた電球を利用することにより、リビングやトイレといった生活の場所の電球が点いているのか、消えているのかを検知することができる。仮に、24時間電球が点灯しない場合、その情報を遠く離れた家族のスマホに通知してくれる。

3.IoT高齢者見守りサービスの可能性

以上みてきたように、IoT高齢者見守りサービスには、電力・ガス・水道といった「ライフラインを活用する見守りサービス」と、身近なテレビ、冷蔵庫、電球といった「家電を活用するサービス」がある。

これらのIoTサービスは、高齢者が長い時間過ごす住まいにある生活基盤に着眼し、そこから発するデータを活用することで、見守られる高齢者が普段通りに生活しているか、遠く離れて暮らす家族がそっと見守ることができる環境を創り出している。また、このようなIoTサービスが普及してきた要因の1つとして、ライフラインや家電とIoTが連携した無料または安価なサブスクリプションサービスの登場が挙げられるだろう。

従来、離れて住む高齢の親を見守る方法としては、電話や訪問が一般的であった。一方、超高齢社会に突入した日本では、高齢者の親をもつ子ども世代の高齢化も進んでいる。そのため、子どもにとっても毎日電話をかけたり、定期的に高齢の親を訪問することは肉体的・精神的な負担につながることもある。

高齢者の親をもつ子ども世代でもスマートフォンを使いこなせる人が増加する中、見守られる高齢者自身がデジタル機器を使いこなせなくても利用できるIoT高齢者見守りサービスは、年老いた親を見守る有効な選択肢の1つである。高齢者の家にすでにあるライフラインや家電を活用するIoT高齢者見守りサービスは、遠く離れた土地に住む家族が年老いた親をそっと見守ることができるツールとして、今後さらなる発展と活用が見込まれるのではないだろうか。 

また、見守りサービスが単なる監視にならないよう高齢者への配慮も必要であり、見守られる立場の高齢者の気持ちに沿った利用を心がける点も大事となるだろう。今後、IoT高齢者見守りサービスのさらなる普及により、高齢者と家族が過度な干渉なく、お互いに安心を得ることができるようになり、たとえ遠隔地に住んでいても、それぞれが望む生活を続けられることにつながるのではないだろうか。

【注釈】

  1. 内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」(2018年)
    https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h30/zentai/pdf/s2.pdf
  2. 関西電力 HPより
    https://kepco.jp/miruden/servicetop/useful/mamoru
  3. 東京ガス HPより
    https://home.tokyo-gas.co.jp/service/mimamori/gas.html

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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