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コレクティブハウスにみる家事育児のシェア

~現代における生活共同の価値とは~

福澤 涼子

目次

1.子どもの世話を誰に頼むか

地域のなかで子どもを育てるということが近年見られにくくなってきた。図表1は、突然の用事が発生した際、未就学児の世話をお願いする相手をたずねた各国の比較である。「配偶者」や「自分の親又は配偶者の親」など近い関係の親族へ依頼する割合が高いことは各国同じだが、日本では「近所の人」や「友人」に頼む割合が低いことがわかる。

他方、2019年の内閣府の調査によれば、3年以内に妊娠もしくは出産した既婚女性のうち、「自分の親又は配偶者の親と同居・近居はしていない」割合は53.9%であり、実際には親に対して気軽に援助を求められる距離感にない人も多い。こうした育児の支援先の少ない孤立した環境は、育児の負担感を増幅させ、少子化や子どもに対する虐待につながるなど負の側面が大きい。さらに近年の日本では、女性の社会進出が重視されている中で、育児を理由に残業や出張などに対応できないなどの状況は、キャリア形成の障害となるケースもあるだろう。

このような育児の負担に対して、同じく女性の社会進出が求められた20世紀前半のスウェーデンでは、複数の世帯が生活の一部を共同し、家事育児の負担を軽減していくため「コレクティブハウス」が誕生した。本稿では、日本でも2000年以降にみられるようになった「コレクティブハウス」における近隣同士の家事や育児の共同の実態と、それらが育児期の家庭にもたらす価値について紹介する。

2.コレクティブハウスの特徴と歴史

コレクティブハウスとは、世帯ごとの各個室に加え、住戸の延長にある共用のキッチンやダイニングなどが備わった集合住宅である。いわゆる水回り共用の「シェアハウス」とは異なり、共用設備とは別に、各個室内にも生活に必要な設備(台所・浴室・トイレなど)が完備され、各世帯のプライバシーにも配慮がされた住居形態である。加えて多世代が暮らせるよう設計されている場合が多く、大学生などの若者、子育て中の核家族、シニアなど様々な世代が共に生活していることも、その特徴である。

コレクティブハウスは、20世紀初頭、働く女性が増加したスウェーデンにおいて、「女性の家事労働からの解放、生活の合理化」をテーマに生まれた。当初は第三者が家事サービスを提供するという形態だったが、1970年代以降、セルフワークモデルと言われる居住者同士の自主運営の形が定着していく。家事の合理化のみならずコミュニティ再生などの効果も期待できるとされ、スウェーデンと同時期にデンマークやオランダ、少し遅れてアメリカでも広がりを見せた。

日本では2003年に初めて、セルフワークモデルの多世代型コレクティブハウスが都心の日暮里に誕生した(注1)。そして、このコレクティブハウスの立ち上げを支援したNPO法人の関与による民間コレクティブハウスが現在6棟ほど関東に存在し、各ハウスで育児世帯を含む10~30世帯が暮らしている。

図表2
図表2

3.家事(コモンミール)と育児の共同

コレクティブハウスの大きな特徴の一つに、共同で炊事を行う「コモンミール」という仕組みがある。仮に大人の居住者が15人いる場合、ひと月に1回炊事を担当すれば、2日に1回の頻度で他の人が担当した食事を食べることができる。いわゆる炊事の当番制である。

コモンミールは1食400~500円程度で提供され、事前申込制となり食べるか否かは個人の自由である。他方、炊事は全住人の持ち回りで行っているケースが多く、持病などの事情がない限り役割として担当する。また世帯ごとではなく、居住者一人一人が構成員である。調理には前日から仕込むなど時間をかける人もいれば、1時間ほどで全住人分を作る人もいる。

こうした仕組みが育児中の家庭にもたらすメリットは、主に「家事の削減」と「共食」である。一般的に食事づくりは献立を考えたり、買い出しに行ったりと、調理時間以外にも工程が発生する負担が大きい家事であり、それらが削減できることは多忙な育児期の親にとってメリットが大きい。たとえば、コモンミールがある日は、帰宅後に食事までの間、子どもと遊ぶ時間を捻出できたり、子どもがある程度大きい場合には、コモンミールを食べるように伝えれば、残業で帰宅が遅れても空腹の状態で待たせるということも少なくなる。コモンミールが提供されない日には、各々の家庭で炊事をするが、その頻度が2日に1回程度となれば負担を大幅に削減することができる。

そして、出来上がったコモンミールは自室で食べることも可能だが、共用のダイニングで食べる住人も多く、自然と共食機会が生まれ育児期の親たちを支える。たとえば、親が仕事で不在でも子どもはコモンダイニングで住人と会話をしながら食事ができるため、孤食の防止につながる(注2)。また未就学児など小さい子どもがいる親にとっても、子どもに食事を与えたあと、他居住者が子どもの相手をしてくれれば、落ち着いて自身の食事をすることができる。

図表3
図表3

また、コレクティブハウスでは、家事の共同だけではなく育児の共同も見られている。たとえば、フルタイムで働く母親同士が、残業などで帰宅が遅くなる日に、保育園へのお迎え、夕食、寝かしつけなどの一連の世話を助け合っている。さらに、親同士のお互い様の関係だけではなく、単身世帯に世話を依頼するような事例もある。ある母親は宿泊を伴う出張があり夫も忙しい場合には、単身世帯に小学生の子どもを一晩預けることが何度かあったと言う。

そして、預かるとまではいかなくても、共用のリビングで親ではない住人が子どもたちと遊んだり、お菓子作りをしたりなど、面倒をみることは日常的にある。

もちろん、「コレクティブハウスに住めば、無条件に育児の支援が得られる」と安易に考えるのはよくないが、冒頭グラフで紹介したように、近所の人や友人など非親族に子どもの世話を頼むケースがほとんど見られない現代において、比較的協力を仰ぎやすい暮らしであることは確かだろう。

4.他人の子育てをコミュニティの問題として捉える

このように子育て中の家庭にとって魅力的な住居であるコレクティブハウスだが、お互い様の関係ではない単身世帯も含めて、育児への協力が見られるのはなぜだろうか。その要因の一つに、他の家庭の子どもや、子育てに対して、関心を持つ機会が日常的にあることが挙げられる。

自治を基本とするセルフワークモデルのコレクティブハウスでは、共用部の使い方やコモンミールの運営について、居住者全員の話し合いで決めていくが、それだけではなく、共用部における子どもの過ごし方・子どもとのかかわり方の問題も議題にあがる。複数のコレクティブハウスを取材したところ、あるハウスでは子どもたちがおもちゃの車に乗って、共用の廊下を非常に速いスピードで走ることがあり、ぶつかったら危ないのではないか、という問いかけが住人会議でなされたとのことである。その結果、手作りの交通標識を作り、そこでは一時停止するよう子どもと約束をした。おもちゃの車を使用禁止にすれば早いかもしれないが、子どもにとっても楽しい暮らしにするため大人たちで議論した。最近も、共用のダイニングで小さい子どもが親ではない住人に「スマートフォンを見せてほしい」とせがむことがあり、渡すべきか、断るべきかを全住人で話し合った事例もある。

このように、一見些細なことでも、共用部分における子どもの行動については、親だけの問題ではなく、コミュニティの問題として議論する。このことが、他家庭の育児に対し、自分とは関係のないことと一線をひくのではなく、自分事として捉えることにつながっていると考えられる。

そして、何よりコモンミールの存在も大きい。コモンミールの炊事は、当番の人だけが作るのではなく、手が空いている人がサブ担当として手伝ったり、調理の仕方を教えたりするなど、居住者間の協力関係を生む土台となっている。加えて、日常的な共食の機会があることで、自然とコミュニケーション機会も増え、子どもへの関心や、子どもを含む住人間の信頼関係を生む機会になっていると考えられる。

だが、コレクティブハウスに住まない人にとっては、このように、生活の些細なことまで近隣同士で話し合ったり、炊事当番があったりすることに対して、「負担が大きい」「面倒」と感じられることもあるかもしれない。実際、住人たちからもこれらは「大変」とする声も聞かれ、本稿で取り上げたような協力関係の背景には、共同生活や関係性を維持するための居住者たちの努力や葛藤があることがうかがえる 。

一方で、その大変さやわずらわしさの先に、コミュニティによる助け合いという大きな価値が生まれているのも確かである。誰も孤立せず身近な人と助け合える社会をいかに作っていくか、こうしたコレクティブハウスの暮らしを参考に、改めて考えてみるのはどうだろうか。

【注釈】

  1. それより前の1995年の阪神淡路大震災後、被災高齢者のための復興公営住宅の一部に複数のコレクティブハウスも供給された。だが、小谷部育子「コレクティブハウジングで暮らそう 成熟社会のライフスタイルと住まい選択」によれば、公営住宅法の枠組みの中での取り組みであることから、北欧などで広がる「居住者の主体的な参画と協働により運営されるコレクティブハウジングとは明らかに性格を異にする」と述べられ、実際の居住者もシニアが多かったことから、本レポートでは「2003年に初めて、セルフワークモデルの多世代型コレクティブハウスが都心の日暮里に誕生」としている。
  2. 新型コロナウイルス感染拡大以降は、コモンダイニングではなく、各自の部屋で持ち帰り食べるルールになっていたり、コモンミール自体の運営が停止しているコレクティブハウスもある。

【参考文献】

  • 内閣府子ども・子育て本部「令和2年度少子化社会に対する国際意識調査報告書」2021年
  • 内閣府「少子化社会対策に関する意識調査」2019年※利用データ[クロス集計表] p189
  • 小谷部育子「コレクティブハウジングで暮らそう 成熟社会のライフスタイルと住まい選択」2004年
  • コレクティブハウスかんかん森居住者組合森の風「これが、コレクティブハウスだ!―コレクティブハウスかんかん森の12年」2014年
  • 北原裕也「復興コレクティブハウジングからみる超高齢社会の共同居住への課題と可能性」2021年,Kwansei Gakuin policy studies review
  • 稲見直子「高齢者によるコレクティブハウジングの可能性―ひょうご復興コレクティブハウジングの事例から―」2009年,ソシオロジ
  • 稲見直子「コレクティブハウジング居住を通じた親の社会化とその要件 : コレクティブハウス秋桜を事例として」2020年,年報人間科学

福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 住まい(特にシェアハウス)、子育てネットワーク、居場所、ワーキングマザーの雇用

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