新しい言葉をめぐる世代間ギャップを埋めるには

~ 言葉の世代間ギャップを考える(2)~

北村 安樹子

目次

1.変化する言葉

読者のなかには、子どもや若者の言葉に、聞き慣れないフレーズが含まれていると感じたことがある人もいるのではないか。本来の使い方との違いが気になった人もいれば、従来の使い方にとらわれない自由な感覚に驚きを感じた人もいるだろう。

本稿では、従来用いられてきた形とは異なりながらも、新たな形で広がり受け入れられている言葉の利用状況やそれらへの意識に関するデータをもとに、言葉をめぐる世代間ギャップについて考えてみたい。

2.新しい言葉の利用状況と利用への意識

文化庁が行った世論調査では、新しい言葉の利用状況とともに、それらを他者が使うことに対する意識をたずねている。今回の調査では「①あの人は走るのがすごい速い」「②なにげにそうした」「③半端ない」「④ぶっちゃけまずい」「⑤見える化」「⑥あの人みたくなりたい」「⑦ちがくて」の7つを取り上げている(注1)。これらの言い方を自身が「使うことがある」とした人は、「①あの人は走るのがすごい速い」(59.0%)で最も高く、「⑦ちがくて」(20.2%)が最も低い(図表1)。半数を超えるのは「①あの人は走るのがすごい速い」のみであるが、「②なにげにそうした」や「③半端ない」でも半数近い。

一方、このような言い方を他の人が使うのが気になるかについては、「⑦ちがくて」を除き「気にならない」とした人が「気になる」とした人を上回っている。従来の使われ方になじみのある人からみると違和感をもつものもあると思われるが、これらの言葉や表現が多くの人に広く受け入れられていることを示しているともいえるだろう。

図表1
図表1

3.年齢による利用状況や意識の違い

これらの言葉の利用状況や他者が利用することへの意識には、年齢によって回答傾向に違いがみられるものもある。

たとえば、利用状況についてみると、70歳以上の人では①から⑦のすべてで「使うことがある」とした人の割合が最も低い(図表2)。また、「①あの人は走るのがすごい速い」「②なにげにそうした」「③半端ない」「④ぶっちゃけまずい」「⑦ちがくて」に関しては、おおむね30代以下の若い世代で使う人の割合は高い。

一方、他の人が使うことへの意識をみると、70歳以上の人では①から⑦のすべての項目で「気になる」とした人の割合が最も高く、「②なにげにそうした」「③半端ない」「④ぶっちゃけまずい」「⑤見える化」「⑥あの人みたくなりたい」ではいずれも60代以下の人を10ポイント超も上回っている(図表3)。つまり、70歳以上の人では、これらの言葉を自身が「使うことがある」とした人の割合が最も低く、他の人が使うのが「気になる」とした人の割合が最も高い。

子や孫のいない人や別々に暮らす人も多いなか、高齢者には若い世代のカジュアルな話し言葉に直接接する機会が限られている人もいる。テレビやインターネット、書籍・雑誌など間接的な形でそれらに接した際に、なじみのなさや従来との違いがより強く感じられて、気になる人もいるだろう。一方で、従来の感覚とは異なるそれらの表現に新たな価値を感じて、興味・関心をもつ人もいるのではないだろうか。

図表2
図表2

図表3
図表3

4.新しい言葉をめぐる世代間ギャップを埋めるには

ただし、若い世代に比べて、新しい言葉や表現に接したり使う人が少ないと思われる70歳以上の人にも、これらの言葉や表現を自ら使う人はいる。たとえば「半端ない」や「なにげに」は70歳以上の2割前後が「使うことがある」、3割強~4割弱は他の人が使うのを「気にならない」と答えている。仕事やプライベートを通じて若い世代が使うカジュアルな話し言葉に接したり、テレビや新聞・雑誌、ラジオやWEBサイトなどでそれらにふれる機会がある人などには受け入れられているようだ。

しかしながら、シニア世代には、若い世代とは情報機器の利用スタイルが異なる人も多く、対面での会話の機会を含め電話(通話)やメッセージ等を通じて若い世代のカジュアルな話し言葉に直接ふれる機会が少ない人もいる。そのような情報機器や話し言葉の使い方の違いも、新しい言葉の使い方や感じ方をめぐる世代間ギャップに関連しているのかもしれない。これらのギャップを埋めるには、テレビや新聞・書籍、ラジオやWEBサイトなどを通じて、年長世代が変化する言葉の現状にふれ、本来の意味や使い方を振り返りながら、新たな使い方に親しむ機会をもつことも大切なのではないだろうか。

【注釈】

  1. 同庁が公表した調査結果の概要に関する資料では、これら7つについて、「文法的に破格とされる場合があるもの等の中から、新しい使い方や意味が辞書に記載されてきたものを取り上げた」としている(文化庁『令和3年度「国語に関する世論調査」の結果の概要』、2022年9月30日)。

【関連レポート】

  1. 北村安樹子「暮らしの視点(15):言葉をめぐるギャップと共感~新たな表現が使われる理由・気になる理由~」、2021年10月。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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