暮らしの視点(24):異世代の言葉から知る社会の変化

~言葉をめぐる世代間ギャップを考える(1)~

北村 安樹子

目次

1.言葉をめぐる課題の感じ方

文化庁が定期的に実施する「国語に関する世論調査」では、言葉の使い方や使われ方への印象など、国語に関するさまざまなテーマを扱っている。言葉の使われ方の現状や変化に関心をもつ人のほか、言葉に関する知識を得るために、活用している人も多い資料の1つだろう。

令和3年度の調査では、言葉や言葉の使い方に関する課題についてたずねている。その結果、社会全般で課題が「あると思う」とした人は84.6%を占めた一方、自分自身に「あると思う」とした人は67.6%であった(図表1)。自分自身の言葉や言葉の使い方に課題を感じている人よりも、社会全般で使われる言葉や表現に課題があると感じている人の方が多い。また、自分自身に課題が「あると思う」とした人は若い世代に多く、シニア世代には少ない。このため両者の差はシニア世代で特に大きく、70歳以上では30ポイントを超える。

図表1
図表1

2.炎上は社会全般の課題だが、自分の発言・反応を課題だと思う人は少ない

では、社会全般、あるいは自身に課題があると答えた人は、具体的にどのようなことを課題だと感じているのか。まず、社会全般の課題についてみると、最も多かったのは「改まった場で、ふさわしい言葉遣いができていないことが多い」(59.5%)で、「インターネットでのいわゆる炎上のように、中傷や感情的な発言が集中すること」(55.3%)がこれに次いでいる(図表2左図)。一方、自分自身の課題でも「改まった場で、ふさわしい言葉遣いができないことが多い」(63.5%)は最も多く挙げられている(図表2右図)。フォーマルな場面での言葉の使い方にかかわる項目は双方で最も多く挙げられている。

図表2
図表2

これに対して、自分の課題として「インターネットで、つい感情的な発言・反応をしてしまう」(2.2%)や「流行語や新しい言葉を使い過ぎてしまう」(8.2%)、「外来語・外国語などを使い過ぎてしまう」(7.4%)、「年齢が離れた人に意味が通じるか気にせず発言してしまう」(15.7%)、といった点を挙げた人は、かなり少ない。また、これらの割合は、社会全般の課題として「インターネットでのいわゆる炎上のように、中傷や感情的な発言が集中すること」(55.3%)、「流行語や言葉の使い方の移り変わりが早過ぎる」(45.1%)、「外来語・外国語などが使われ過ぎている」(42.3%)、「年齢が離れた人が使う言葉が分かりにくい」(34.0%)などに比べ大幅に低い。改まった場での言葉遣いや敬語の使い方を除くと、社会全般の課題にかかわる行動を自分の課題に挙げる人は少ないといえる。

3.社会全般・自分の課題認識にみる世代間ギャップ

また、社会全般の課題として挙げられたことには、年代による傾向の違いもみられる(図表3)。たとえば「流行語や言葉の使い方の移り変わりが早過ぎる」「外来語・外国語などが使われ過ぎている」をあげた人はシニア世代で多く、60代以上では半数を超える。70歳以上では「年齢が離れた人が使う言葉が分かりにくい」を挙げる人も約半数を占め、いずれも若い世代に比べ多くなっている。

図表3
図表3

ただし、社会全般の課題として「年齢が離れた人が使う言葉が分かりにくい」をあげた人は若い世代にもみられる。年齢の離れた人が使う言葉の分かりにくさを感じる機会は若い世代にもあり、言葉をめぐる世代間ギャップには、若者の言葉にシニア世代が分かりにくさを感じる場合だけでなく、シニア世代の言葉に若者が分かりにくさを感じることもあるようだ。

また、シニア世代では、新たな言葉や外国語の使われ方、異なる世代の言葉遣いのわかりにくさを社会全般の課題とした人が多い一方、自分の課題としてあげた人は少ない。シニア世代では、自身の言葉の使い方や発言のわかりにくさを、あまり自分ごととして捉えていないのかもしれない。

4.異世代の言葉から知る社会の変化

最後に、シニア世代が日常の暮らしの中で、言葉の使われ方の変化を感じるきっかけとして、子や孫をはじめとする異世代との交流について考えてみたい。現在のシニア世代は、孫と同居する人が以前に比べ少ない。生命保険文化センターが行った調査によると、60歳以上のシニア世代のうち、家族や付き合いのある親族として孫をあげた人は約6割に止まる(注1)。つまり、付き合いのある孫がいないシニア世代は4割を占める。

子や孫との付き合いがあるシニア世代には、若い世代が用いる新たな言葉や表現に接して時代の変化を感じた経験をもつ人もいるだろう。ただ、家族との交流は1つのきっかけに過ぎず、言葉の問題は、子や孫がいるかどうかや、家族との会話があるかどうかにかかわらず、生活していく上で誰にもかかわりのあるテーマでもある。会話やメール、テレビ・新聞・インターネットなどのメディア、小説や映画などで使われる言葉に対する異世代との感覚の違いを感じ、それらを若い世代と共有する機会があることは、シニア世代と若い世代が互いの言葉に対して抱く印象のギャップを埋めることにつながる。子や孫のいない人が増える社会では、職場や地域社会などで経験する言葉に関する世代間ギャップや、年齢が離れた人など多様な人にとっての言葉の分かりやすさに思いを巡らせることが大切だろう。

異世代との付き合いを通じたそれらの経験は、自分の言葉の使い方を振り返る機会であると同時に、新たな言葉の使われ方や表現の変化を知る機会でもある。そこから得た社会の変化への気づきが、自身の言葉の伝わりやすさを考えることにもつながるのではないだろうか。

【注釈】

  1. 生命保険文化センター「ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査」(調査対象は全国の60歳以上の男女。調査時期は2020年10~11月)、2021年6月。家族や付き合いのある親族には、同別居にかかわらず、単身赴任や施設などに入居する場合を含む。

【関連レポート】

  1. 北村安樹子「暮らしの視点(15):言葉をめぐるギャップと共感~新たな表現が使われる理由・気になる理由~」2021年10月。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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