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マイナポータル普及のための秘策

~行政デジタル先進国で活用される多様な本人認証の可能性~

柏村 祐

目次

1.マイナポータルとは

政府は、行政サービスの利便性を高めるための取組みの1つとして、マイナポータルの整備を進めている。マイナポータルは、子育てや介護など、行政手続のオンライン窓口であり、オンライン申請のほか、行政機関等が保有する自分自身の情報の確認や、行政機関等からのお知らせ通知などのサービスが提供されている。

2022年8月7日時点のマイナポータル利用者登録数は、1832.1万件となっており(注1)、日本の総人口1.24億人の約15%とその利用登録はあまり進んでいない。現在、マイナポータルの利用は、マイナンバーカードを保有することが前提となっている。一方、行政ポータルサイトの利用が進む諸外国においては、マイナンバーカードのような国による本人認証以外に、銀行、携帯電話事業者、SNSといった国民に普及している民間の本人認証の仕組みを活かして、行政プラットフォームにログインできるところもある。

本稿では、諸外国で活用が進む民間企業による本人認証の仕組みを活かした行政プラットフォームへのログインの活用実態を概観し、それらのマイナポータルへの活用可能性について考察する。

2.海外行政ポータルにおける多様なログイン方法

日本のマイナポータルの機能は、いつでもどこでも行政の手続きができることと、自分自身の情報やお知らせを必要な時に確認できることに分類される。「ぴったりサービス」と呼ばれる、いつでもどこでも行政の手続きができるオンラインサービスでは、居住地の郵便番号また市区町村名を入力したうえで、調べたい行政サービスのカテゴリを選択、検索ボタンを押せば、提供されているオンライン行政サービスの内容が表示される。検索できる行政サービスのカテゴリは、2022年11月上旬時点で妊娠・出産、子育て、引越し・住まい、就職・退職・労働、高齢者・介護、ご不幸、戸籍・住民票・印鑑・登録等、国民健康保険、障がい者支援、健康・医療の10カテゴリに分類されている(注2)。また、自身の情報やお知らせを必要な時に確認できるオンラインサービスでは、健康・医療、税・所得、年金関係、子ども・子育て、世帯情報、福祉・介護、雇用保険・労災など幅広い分野の情報を取得できる。それぞれのカテゴリから得られる情報内容を確認したところ、2022年11月上旬時点でその合計数は、28サービスとなっている(図表1)。

図表1
図表1

ここからは、民間事業者経由で本人証明を行うことにより、行政ポータルサイトへのログインを実現している韓国、フィンランドの取組みを確認してみよう。

韓国は、国連が2022年9月に発表した電子政府ランキングで総合3位に位置する行政DXが進む国の1つである(注3)。韓国で展開されている行政プラットフォーム「政府24」では、24時間365日いつでもどこでも証明書発行や各種行政申請を行えることに加えて、国民が利用しやすいサービスメニューとして「ワンストップサービス」も用意されている。「ワンストップサービス」は、妊娠・出産・転入・相続などのライフイベントにおいて必要となるサポートを一括して申請できるサービスである。たとえば、「幸せ出産ワンストップサービス」では、母親本人または配偶者であれば、出産後に受けることができる養育手当、児童手当などの様々なサービスを一括して申請可能だ。また、個人毎に最適化された「マイライフインフォメーション」が提供されている。その分野は、「家族/健康」「税金/還付金」「年金」「兵役」「罰金/過料」「自動車」「生活金融」「住宅/福祉」の8分野であり、国民はここから自分の生活に関するきめ細かい情報を得ることができる(注4)。

現在、韓国国内では、民間事業者経由の政府24への本人認証方法は10種類提供されている。そのログイン手順は、銀行、携帯電話事業者、SNSの中から任意で民間事業サービス選択(図表2赤枠)、名前、生年月日、携帯電話番号を入力し(図表2青枠)、サービス利用に関する同意欄にチエックを入れ、認証要求を行う(図表2黄枠)。入力した携帯電話番号に「政府24」からの認証要求のメールが来るため、ログインを行い認証完了すれば、「政府24」へのログインが可能となる。またこの本人作業は、一度行えばよく、次回以降は認証作業を行う必要はない。

図表2
図表2

次に、国連が2022年9月に発表した電子政府ランキングで総合2位に位置するフィンランドにおける多様な本人認証について確認してみよう(注5)。フィンランドでは、国民向けに行政プラットフォーム「Suomi.fi」が展開されている。「Suomi.fi」を利用すれば、自分に関する様々な登録情報からオンラインサービスを受けられる。「Suomi.fi」上で確認できる登録情報は、個人情報、不動産情報、貿易登録情報、車両情報、運転免許証情報、船舶情報、年金情報、教育情報など多岐にわたる。たとえば車両情報では、自家用車の主要データが要約され記載されている。仮に一時的に自家用車を使用しない状況が発生した場合には、車両税を節約するために自家用車を使用しないことをオンラインから申請できる。使用を再開する場合は改めて申請するなど、オンラインで自家用車の使用状況を申告できる。加えて、車両税を1回ではなく2回または4回にわけて支払うことも可能であり、経済状況に応じた支払いをオンライン上で申請できるようになっている。また、不動産情報では、所有権・位置情報・面積などが記載された不動産登記簿や住宅ローン登記簿のデータから構成される情報を確認できる。自分の不動産情報内のリンクから遷移する「不動産交換サービス」を利用すれば、不動産の売却・寄付・譲渡契約の締結や、住宅ローンの申請を行うことができる(注6)。

フィンランド行政プラットフォーム「Suomi.fi」では、国民が普段使いで利用している銀行や携帯電話事業者のIDを利用することによりログインできる仕組みが整備されている。現在、「Suomi.fi」のログインに活用できる銀行や携帯電話事業者は、12種類存在している(図表3)。「Suomi.fi」の利用者は、ログインに活用したい民間事業者のサービスをクリックし、いつものログインIDとパスワードを入力すれば、「Suomi.fi」を利用できる。

図表3
図表3

3.多様な本人認証の活用

以上みてきたように、韓国やフィンランドでは、銀行、携帯電話事業者、SNSといった社会に広く普及している民間の本人認証の仕組みを活用し、行政プラットフォームへログインできる仕組みが提供されている。

一方、日本における行政プラットフォームであるマイナポータルへのログインは、マイナンバーカードの保有が前提となっているが、2022年10月末時点のマイナンバーカードの普及率は51.1%であり、国民の約半数にしか行き届いていない現状がある。これは、行政サービスのデジタル化の1丁目1番地となるマイナポータルの利用者増を阻む要因の1つになっていると考えられる。

前述の通り、マイナポータルの利用者登録率は、2022年8月7日時点で約15%にとどまっている。今後、銀行、携帯電話、SNSといった民間の本人認証からマイナポータルへのログインを認めることができれば、国民がマイナポータルを利用するきっかけとなる可能性があるため、検討に値するといえるだろう。それは、国民が行政サービスの利便性を実感できるマイナポータル普及のための秘策といえるのではないだろうか。ただ、民間事業者を介した本人認証やログインを導入するには、マイナポータルで提供される情報の機微性が高いこともあり、十分にセキュリティが確保されていることを検証した上で進めるなど丁寧な対応が求められる。

【注釈】

  1. デジタル庁「マイナポータルAPI(情報取得系)の現在地と将来像」(2022年8月25日)
    https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/72b46e0b-fbce-43a6-bd27-f0420b5064a2/479905f4/20220825_meeting_mynumber_outline_02.pdf
  2. マイナポータルHPより
    https://myna.go.jp/SCK1501_02_001/SCK1501_02_001_Init.form
  3. United Nations HPより
    https://desapublications.un.org/sites/default/files/publications/2022-09/Chapter%201.pdf
  4. 韓国行政プラットフォーム「政府24」の衝撃~国民目線の使いやすいポータルサイト~
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/162201.html
  5. United Nations HPより
    https://desapublications.un.org/sites/default/files/publications/2022-09/Chapter%201.pdf
  6. フィンランド行政プラットフォーム「Suomi.fi」の衝撃~「アクセシビリティ」が行政サービスの世界を変える~
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/174873.html

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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