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スマホ決済アプリの時代

~高度化する家計アプリに求められる引き落とし機能~

柏村 祐

目次

1.スマホ決済アプリの台頭

スマホのアプリを活用するQRコード決済の利用機会が拡大している。その要因として、QRコード決済を利用できる店舗の増加や、利用することで割引やキャッシュバックを受けられる場合が多いことが挙げられる。実際にQRコード決済の利用状況は拡大しており、2018年の月間アクティブユーザー数(月に1回以上支払ったことがある人の数)が約355万人だったのに対して、2022年6月時点の月間アクティブユーザー数は、約5,110万人に急拡大している(注1)。

QRコード決済アプリの利用シーンは、コンビニや飲食店のみならず、オンラインショッピング、電気代や水道代の公共料金、住民税や自動車税など幅広い分野の支払いに広がっている。また、個人間でデジタルマネーを送ったり、友人との食事会や旅行などにおける支払い料金を割り勘する機能、デジタルマネーを運用する機能、お金を借りる機能を中心とする金融サービスも登場している。

本稿では、スマホ決済アプリの価値を概観するとともに、その可能性について考察する。

2.スマホ決済アプリの実態

スマホ決済アプリの機能はデジタルマネーを「支払う」、「貯める」、「可視化する」の3つに分類される。

まず、「支払う」機能について確認してみよう。スマホ決済アプリを使ってコンビニや飲食店やスーパーなどで支払う方法は、QRコードを提示する方法とお店がQRコードを表示する方法の2通りがある。QRコードを提示する方法は、消費者がQRコードを提示し、店舗側がコードリーダーでQRコードやバーコードを読み取り支払う。一方、お店がQRコードを表示する方法は、消費者が店舗におかれているQRコードを読み取り支払う方法である(図表1)。

図表1
図表1

また、スマホ決済アプリの「支払う」機能は、外出時のコンビニや飲食店にとどまらない。たとえば、電気代や水道代の公共料金や自動車税など税金の請求書のバーコードを読み取ることにより自宅にいながら支払いが行える。また、スマホ決済アプリ内に展開されるミニアプリ(スマホ決済アプリ内に登録されている便利アプリ)を利用すれば、スマホ決済アプリ内でふるさと納税、オンラインショッピング、飲食デリバリーサービス、フリーマーケットサービスといった多様なサービスも受けられる。さらに、懇親会や会合における支払い料金を割り勘する機能も備わっているため、何かしらの理由で他人とお金を貸し借りしていた場合に、スマホ決済アプリ内の送金・入金機能を利用すれば、手数料なしでデジタルマネーのやりとりを行える。

次に、スマホ決済アプリの「貯める」機能について確認してみよう。スマホ決済アプリを利用して「支払う」ことができる機会が増えた要因の1つとして、この「貯める」機能の普及があると考えられる。2018年当時のスマホ決済アプリが開始された当初は、その知名度は低く利用者は少なかった。QRコード決済事業者は、QRコード決済を普及させるために、利用者がQRコード決済を利用することにより、利用金額の数パーセントから数十パーセントのデジタルマネーを還元する施策を展開した。その結果、デジタルマネーの還元を望む利用者による利用が増加し、2022年6月時点の月間アクティブユーザー数は、約5,110万人に達している。

さらに、最近のQR決済アプリ内に展開されるミニアプリでは、キャッシュバックされたデジタルマネーを資産運用する機能も登場している。このデジタルマネー運用は、キャッシュバックされたり、チャージしたデジタルマネーを原資として、少額でもすぐに運用を始められ、いつでも残高から引き出せる仕組みが提供されている。さらに、QR決済アプリ内では、証券口座や銀行口座の開設も簡単に行えるミニアプリが設定されていることから、普段から使い慣れているスマホ決済アプリから、様々な金融サービスにアクセスすることができる。このミニアプリの仕組みは、いちいち個別にアプリをスマホにインストールしたり、登録作業をする煩わしさがない利用者目線の利便性が確保されている。

最後にスマホ決済アプリの「可視化する」機能について確認してみよう。スマホ決済アプリ上では、飲食店、コンビニ、オンラインショッピングを利用した際の支払い金額がリアルタイムにQRコード決済の支払い明細に反映され、支払う都度自分の消費履歴が可視化される。また、月次で利用金額がグラフ等で可視化されることから、今月の支払い金額が前月と較べて増加したのか、減少したのか、何を購入したのか毎月の支出状況が一目瞭然で把握できる。このように、消費実態がリアルタイムに可視化されるスマホ決済アプリは、自分の消費行動を振り返り、改善することに利用できる。

3.スマホ決済アプリの可能性

以上みてきたように、スマホ決済アプリは、「支払う」、「貯める」、「可視化する」といった機能が1つのアプリにまとまっており、家計を管理するアプリとしての存在感は、以前と比べ格段に増している。一方、スマホ決済アプリの改善が求められる点として、公共料金を引き落とす機能が挙げられる。現時点でも、請求書に印刷されているバーコードを読み取ることによる請求書払いは可能である。ただ、請求書が送付されてくる都度、バーコードを読み取り、支払いを行うことを手間と感じる人もいるだろう。今後、スマホ決済アプリが有する「支払う」、「貯める」、「可視化する」といった機能に加えて公共料金などを「引き落とす」機能が追加されれば、スマホ決済アプリの家計アプリとしての価値はさらに向上するのではないだろうか。

2018年に登場したスマホ決済アプリは約4年が経過し、国民に浸透している。今後、生活者の利便性のさらなる向上を図るために、引き落とし機能も備えることができれば、月間のアクティブユーザー数が5,000万人を超えるスマホ決済アプリの利便性をさらに向上させることになるであろう。

一方、スマホ決済アプリのデメリットとして、スマホの充電が切れると使えないこと、スマホ決済アプリ事業者の加盟店でなければ使えないこと、スマホにアプリをダウンロードして初期設定が必要なこと、機種変更をする場合に移行手続が必要であること等が挙げられる。さらに、スマホを落としたり、盗難にあったときのセキュリティ対策がとられているかについても確認が必要だろう。特に、セキュリティ対策については、各事業者がどのような対策を講じているのかを確認することや、さらに、万一自分のスマホ決済アプリが不正利用された場合、その補償制度についても把握することが必要となるだろう。

現在、政府は、スマホ決済アプリを運営する資金移動業者の口座への賃金支払いについて早期の制度化を目指しており(注2)、2023年度からのスマホ決済アプリへのデジタル賃金支払が開始されることが想定されている。このような状況下において、今後、スマホ決済アプリへの注目度は上がっていくであろう。

スマホ決済アプリは、生活者が健全かつ適切な消費行動を行ううえで欠かせないツールとして、さらなる利便性の向上が見込まれる。一方、利用者サイドにも、そこに潜むリスクを理解したうえで、適切に活用していく姿勢が求められることになるだろう。

※QRコードはデンソーウェーブの登録商標です

【注釈】

  1. 一般社団法人キャッシュレス推進協議会HPより
    https://paymentsjapan.or.jp/code-payments/code-pymt_20220909/
  2. 内閣官房「フォローアップ工程表」(2022年6月7日)
    https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/fukouteihyou2022.pdf

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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