ライフコースの多様化ときょうだい関係の行方

北村 安樹子

目次

1.重要性を増す高齢期のきょうだい関係

高齢期の家族関係というと、配偶者や子どもとの交流や支援が注目されることが多い。実際、配偶者や子どもがいる人には、夫婦で過ごす時間や、子どもや孫との交流を大切にしている人、何かあった場合の相談相手として配偶者や子どもの存在を思い浮かべる人も多いだろう。

一方で、配偶者や子どもをもたないライフコースを歩む人も増えるなかで、高齢期におけるきょうだいとの関係が重要性を増している面もあるのではないだろうか。

2.付き合いのある別居のきょうだいがいるシニア世代は6割超

生命保険文化センターが60歳以上の男女を対象に行った調査によると、付き合いのある別居の家族・親族(注1)として「兄弟・姉妹」を挙げた人は6割超を占める(図表1)。この割合は既婚の子ども(59.0%)とほぼ同じ水準で、孫(51.6%)を10ポイント近く上回っている。親密さという点では個人差も大きいと考えられるものの、兄弟・姉妹の数自体も年配世代ほど多いこともあり、現状ではシニア世代にとって比較的大きな位置づけを占めていることがうかがえる。

図表1
図表1

しかしながら、別稿「「今後関係を深めていきたい人」は?~ライフコースの多様化と人づき合いのライフデザイン~」で述べたように、ミドルより下の世代には配偶者や子どもをもたないライフコースを歩む人も多い。ミドル世代以降の人のなかには、人生後半期の生き方を考えるなかで、家族・親族以外の友人・知人との関係を増やしたり、深めることを通じて、自分や他者の仕事の可能性を拡げたり、趣味・学習・スポーツなどの活動を通じて健康的な生活を送りたいと考える人もいるだろう。

3.加齢とともに増えるライフイベント

先の調査によれば、60歳以上の人のうち、同居家族以外の家族・付き合いのある親族として「兄弟・姉妹」を挙げる人の割合は年齢とともに低下するものの、現状では80代でも半数近く、90歳以上でも4割近くを占める(図表2)。

60歳以降は、自身の加齢とともに、親・きょうだいをはじめ、高齢になった家族・親族が病気やけがを経験したり、それらの人との死別を経験したりする機会が増える。また、甥・姪や孫の就職、結婚、出産などを経験する人もいるだろう。家族・親族の人数等にもよるが、このようなライフイベントも、高齢になって以降もきょうだいとの付き合いが続くことの要因になっていると思われる。

図表2
図表2

4.ライフコースの多様化ときょうだい関係の行方

現在のミドルより下の世代は、上の世代に比べきょうだいの人数が少ない人が増え、配偶者や子どものいないライフコースを歩む人も多くなった(注2)。さらにそれらの世代では、情報通信機器を介した多様なコミュニケーション手段を活用する人も多い。そのような中、きょうだいとの関係については、配偶者や子どもを通じた家族単位での付き合いが減った後も関係が保たれたり、若い頃には接する機会が少なかった関係が年齢とともに変化し、親の死を経るなどして近づくこともある。

ただ、家族・親族との付き合いは、従来に比べ緩やかで選択的なものになっており、経済的に自立し、介護等への備えを自ら行う人が増えていく今後は、それらを家族・親族に頼らない人が増えるだろう。

一方で、配偶者や子どもがいない人、あるいは配偶者と離別・死別した人が、医療・介護などをめぐり、兄弟姉妹に相談する必要が生じることもある。たとえば、配偶者のいない40~59歳の単身者を対象に行った当研究所の調査によると、自身が手術を受ける場合に、立会いや同意書へのサインを頼める人として「兄弟姉妹」をあげた人(31.8%)は、「親」(38.9%)に次いで多い(図表3)。

図表3
図表3

ミドル期以降は、自身やきょうだいなど身近な人が病気等でこのような状況を経験することや、親の介護などをきっかけにきょうだいが連絡をとり合う機会が増えることも多い。高齢期の1人暮らしが多くの人にとってリアルな将来像となるなか、それらの出来事は、将来介護が必要になった場合や経済面の備えなど、自身やきょうだいの高齢期の生き方や、家族・親族との関係について、あらためて考える機会になるのではないだろうか。

【注釈】

  1. 数値は同居家族についての回答と、家族や付き合いのある親族(単身赴任や施設入居者を含む)についての回答から算出された値。
  2. 同時期に行われた調査において、40~59歳の男女が付き合いのある別居の家族・親族として「兄弟・姉妹」をあげた割合は54.7%で、60歳以上(62.4%)に比べやや低い。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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