高齢の別居家族と会うことへの自粛意識

~「第5回新型コロナ生活調査」から~

北村 安樹子

目次

1.感染者数減少のなかで行った第5回新型コロナ生活調査

新型コロナウイルスが流行してから3度目の秋を迎えた。当研究所では、はじめて緊急事態宣言が発出された2020年の4月以降、計5回にわたって感染拡大を背景とする人々の生活や意識についてたずねる調査を行ってきた。5回目にあたる今回の調査は、2022年7月頃から急増した感染者数が過去最高の水準に達し、その後減少に転じたなかで迎えた9月初めに行われた(注1)。

本稿では、このなかから自分や他者への感染を防ぐための行動として、別居している高齢の家族(親・祖父母)と会うことについての意識をたずねた結果に基づいて、ワクチン接種など各種の感染対策が拡がって以降の他者との対面行動をめぐる意識について考えてみたい。

2.高齢の別居家族と会うことへの自粛意識

親や祖父母など高齢の別居家族がいる人では、重症化するリスクが高いとされている相手への感染の懸念などから会うことを控えている人は多い。第5回調査では、「別居している高齢の家族(親・祖父母)」と会うことについての意識をたずねている。結果をみると、「別居している高齢の家族(親・祖父母)と会うのを控えている」とした人(「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の合計割合、以下同じ)は7割超におよんだ(図表1)。調査を行った時期が、7月頃から急速に拡がった第7波が過去最大に達した後、減少傾向を示していた9月初旬であったことも、このような自粛意識に影響したと考えられる。

三密(密集・密閉・密接)の回避をはじめ、手洗い・消毒やマスクの着用といった基本的な感染対策は広く浸透している。ワクチン接種や検査などの対策も増え、それらを行って移動し、他者と会う行動は少しずつ行われている。それでも調査時点では他者と会うこと自体を控える意識が、依然比較的高い水準で続いていたことになる。

図表1
図表1

3.対面行動の自粛と代替・補完行動、非常時対応

調査時点でも別居している高齢の家族(親・祖父母)と会うことに対する自粛意識が比較的高い水準で続いていたことには、コロナ禍以降、家族が対面で会うことに代わる交流・支援を行うことや、支援が必要になった場合の備えを進める行動につながってきた面もあると考えられる。

図表2は、別居している高齢の家族(親・祖父母)と会うことへの意識別に、電話やメールなどによるコミュニケーションを増やす行動(「代替・補完行動」)、及び、感染拡大時など非常時に備える行動(「非常時対応」)の実践状況をみたものである。会うことを「控えている」もしくは「どちらかといえば控えている」とした人のなかには、電話やメールなどによるコミュニケーションを増やした人が半数近くみられる。このなかには、何かあったら対応を考えればよいとしてふだんのコミュニケーションをあまり重視していなかった人、対面での気軽な交流や支援が行えない事態についてあまり考えたことのなかった人も含まれるだろう。

コロナ禍に伴う行動制限という事態を経験したことで、別居している高齢の家族(親・祖父母)と、対面の機会を含めて、日ごろからコミュニケーションをとることの重要性に気づいた人もいたのではないか。また、災害や不慮の事故・病気など、コロナ禍が生じなくても本来必要な不測の事態への対処について、家族間で話し合う機会や、具体的な備えを進める行動につながったケースもあったと考えられる(注2)。

図表2
図表2

4.相手の安心につながる交流・支援の形を考えることの重要性

また、感染への不安や感染対策が拡がったコロナ下の生活では、メールや電話など対面以外のコミュニケーション手段を利用することが、物理的に離れた場所にいる場合や、限られた時間しかない場合にも、別居家族との交流・支援を行う可能性を高めてきた。そのなかには、子世代や孫世代が別居する高齢の家族との交流や支援のために情報機器によるコミュニケーションや見守りなどの外部サービスを利用したケースもあったと考えられる。それらを通じて新たな楽しみが広がった人や、安心感を得た人もいただろう。

一方で、情報機器や新たな技術、外部サービスを利用することへの意識には個人差も大きく、利用実態も様々である。利便性とともに、対面で行えることとの違いやそれらに固有の価値を実感した人、対面だけでなく多様な手段を利用することで安心につながる交流や支援を図れることに気づいた人もいると思われる。

ウィズコロナの生活では、家族間のコミュニケーションに限らず、対面以外の多様な手段の利便性をうまく取り入れることと合わせて、相手の意向やライフスタイルを尊重した交流や支援の形を考えていくことが、これまで以上に重要になるのではないだろうか。

【注釈】

  1. 第5回調査は、20~69歳の男女を対象にインターネット調査により実施。有効回収数は3,000名。
  2. これに対して、電話やメールなどによるコミュニケーションを増やしたり、非常時の対応をめぐる話し合いを特に行わなかった人には、支援の必要がないケースのほか、日ごろからコミュニケーションが行われているケース、別の家族や外部サービス等を通じて、必要な支援がすでに行われていたり、必要に応じて利用できるケース、などが含まれるだろう。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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