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AI動画アーティストの衝撃

~あなたが知らない動画生成の新たな潮流~

柏村 祐

目次

1.AI動画アーティストとは

私たちの生活の中で、YouTubeやSNSに投稿される動画を視聴する機会が増えている。動画コンテンツの作成・編集技術の高いインフルエンサーが牽引していた動画生成の世界では、今や個人の参入が相次いでおり、多くの動画コンテンツが発信されている。この背景として、動画を撮影するカメラの性能の向上や、撮影した映像を編集するソフトウェアの機能の向上が挙げられる。また、動画配信プラットフォームの進化により、動画生成の方法を習得すれば、誰もが自ら創造した動画を世界に発信できることから、大量の動画コンテンツが公開されている。

このように動画が量産される中、AIの進化により、特別な技術がなくても誰もが動画を生成できるAI動画アーティストが登場している。AI動画アーティストとは、ドキュメンタリー、ドラマ、アニメ、お笑いなどジャンルにかかわらず、自分が表現したいと考える映像の作成・編集をAIが代替してくれる仕組みである。

本稿では、自分自身が考える世界を動画にしてくれるAI動画アーティストの現状を概観し、その可能性について考察を加える。

2.AI動画アーティストの実態

AI動画アーティストは、動画制作のスキルや知識がなくても、自ら思い描いた物語を文章として入力すれば、その内容に即した動画を生成してくれる。AI動画アーティストを開発した米国企業は、AI動画アーティストがどのような動画を生成できるのか、その技術概要を公開している。

既に、AIによる文章作成や画像作成については商用サービスが登場している。動画は、文章や画像に較べて多くの情報を伝えられるため、AIが生成する動画が急速に世界に浸透することによる影響を考え、AI動画アーティストを安全に使用できることに重点を置き、開発が進められている。その取組みとして、AI動画アーティストが学習するデータを慎重に用意すること、生成された動画がAIによって創られたことを認識できるようにすることが挙げられる。

まず、AI動画アーティストが大量かつ多種多様なデータを学ぶ場合、この仕組みを開発する米国企業では、有害な動画を生成するリスクを軽減するために、学習するデータが有害でないか、偏った思考に基づいていないかを確認し、AIに学習させている。また、AI動画アーティストが生成する動画は、きわめてリアルに見えることから、生成した動画にはすべてAIが作成したとする透かしを入れるようにし、動画の生成主体がAI動画アーティストであることを視聴者に認識させるようにしている。さらに、AI動画アーティストの最終目標は、生成した動画を一般に公開することにあるが、当面は生成される動画の分析、テスト、試用を続け一般公開しても問題ないのか注意深く確認するとしている(注1)。

実際、AI動画アーティストは、動画として創り出したい物語を文章で入力することにより、現実にありそうな写実的な日常や、現実には存在しない空想の世界を動画として生成してくれる。

まず、AI動画アーティストが創り出す現実にありそうな写実的な日常動画を確認してみた。文章を入力すると、AI動画アーティストは、その内容に応じた写実的な動画を生成した。例えば、AI動画アーティストに「A young couple walking in a heavy rain(大雨の中を歩く若いカップル)」とテキストで入力すると、その結果が現実にありそうな写実的な日常の動画として生成される(図表1)。

図表1
図表1

AI動画アーティストは、現実にありそうな写実的な日常のみならず、現実には存在しない空想の世界についても動画を生成してくれる。例えば、「A panda bear driving a car(車を運転するパンダ)」と文章を入力すると、パンダが車を運転する動画が生成された(図表2)。

図表2
図表2

3.AI動画アーティストの可能性

以上のように、AI動画アーティストは、テキスト情報から現実にありそうな写実的な日常や、現実には存在しない空想の世界の映像を創り出すことに成功している。自分に特別な動画生成技術がなくても、創り出したい動画のアイデアを文字として入力すれば、動画を創ることができるのである。現時点で、AI動画アーティストの技術は、その影響度合いを踏まえ一般には開放されていない。

すでに、テキスト情報から画像を生成するAIアーティストや(注2)、何か思いついたことを物語にしてくれるAIライターは商用化されており(注3)、動画生成においても、いずれ同様のサービスが登場することが予想される。

AI動画アーティストは、人が担っている動画の収録や編集といった制作工程を代替する技術であり、この技術の普及は、従来技術がある人にしか創ることができないと考えらえていた「動画生成技術の汎用化」につながるのではないか。映像を撮影するカメラマンや編集する編集者の仕事は、AIが現実世界のデータを学習することにより代替できるようになるかもしれない。

ただ、文章を入力するだけで簡単に生成される写実的な日常や、現実には存在しない空想の世界の動画は、YouTubeやSNSを介して拡散することができるため、社会に影響を及ぼすフェイクニュース、個人を対象とする誹謗中傷として悪用される危険性がある。そのため、AI動画アーティストを活用するにあたり、動画を生成する際も、生成された動画を閲覧する際も、その内容については十分留意することが求められる。場合によっては、社会的に何らかの規制・ルールが必要となるかもしれない。

AI動画アーティストは、自分の想像・空想した世界を簡単に動画として生成できるツールであり、また、その世界においてさらなる進化が期待できる最先端のAIといえる。今後AI動画アーティストが普及すれば、動画生成技術をもたなくても、想像・空想する世界を動画で表現したいと思っている新たなアーティストの誕生を促し、彼らの活動を後押しすることにつながるのではないだろうか。

【注釈】

  1. MetaHPより
    https://makeavideo.studio/
  2. AIアーティストの衝撃~アート技術の汎用化がもたらす意味~
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/202910.html
  3. AIライターの衝撃~文章を自動生成してくれる現代の魔法~
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/200508.html

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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