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暗号資産「POWマイナー」の衝撃

~あなたの知らない暗号資産取引履歴の番人~

柏村 祐

目次

1.最も古いマイニング手法POW

2009年に登場した暗号資産の市場規模は、2022年10月上旬時点で130兆円を超えている。拡大する暗号資産市場において、マイナー(暗号資産の採掘事業者)は、競合する他のマイナーよりもいち早く暗号資産の取引履歴が正当であるかを検証すること(マイニング)により、その報酬として暗号資産を得ている。

筆者は以前、POW(プルーフ・オブ・ワーク)とPOS(プルーフ・オブ・ステーク)というコンセンサスアルゴリズム(暗号資産のブロックを追加する際の合意方法)の長所と短所について解説した(注1)。コンセンサスアルゴリズムはPOWやPOS以外にも存在しており、例えばPOI(プルーフ・オブ・インポータンス)やPOC(プルーフ・オブ・コンセンサス)といった種類がある。

POWは、2009年にビットコインが誕生して以来、現在まで利用されている最も古いコンセンサスメカニズムである。POWマイナーは、暗号資産の取引履歴が正当であることを他のマイナーよりいち早く検証することにより報酬が得られる仕組みであることから、多くのマイナーが現れ、日々熾烈なマイニング競争が繰り広げられている。POWマイナーは、CPU(中央処理装置)などの多くのコンピューター資源を利用するため、莫大な電気代がかかる短所がある一方、マイニングに参加するために暗号資産を保有していなくてもコンピューターがあれば誰もがマイナーになれるという長所がある。

本稿では、最初の暗号資産であるビットコインが登場した2009年から続くPOWマイナーの実態を確認し、その価値について考察を加える。

2.POWマイナーの実態

報酬となる暗号資産を得るために日々検証を行うPOWマイナーが対象とする暗号資産を確認すると、175種類、時価総額50位以内にランキングされるものが7種類ある(図表1)。

図表1
図表1

例えば、デジタルゴールドと呼ばれるビットコイン報酬を目当てとするPOWマイナーは、ビットコインが誕生した2009年以来、マイニング活動を続けている。POWマイナーは、CPU(中央処理装置)などの多くのコンピューター資源を利用し、他のマイナーよりいち早く暗号資産の取引履歴が正当であるかを検証することにより報酬が得られるため、各マイナーのコンピューター資源の増強は著しく向上している。

マイニングの計算能力を表す単位として、ハッシュレートが使われる。ビットコインのマイニングに伴うハッシュレートの合計値は、2009年9月時点で約4MH/s(MHは1秒間に100万回の演算速度)程度であったが、2022年9月時点では約263EH/s(EHは1秒間に100京回の演算速度)と著しく計算能力が向上している(注2)。

大量のコンピューター資源を投入するマイナーの活動状況をみていくと、マイニングの報酬として獲得される暗号資産は、ハッシュレートの能力と比例している。2022年10月1日時点における過去3日間のマイナー統計情報を確認すると、3日間でマイニングされたブロック数は473となっており、その内訳としてランク首位のマイナーは、118ブロック、2位は96ブロック、3位は85ブロックの取引履歴を検証している(図表2赤枠)。マイニングされたブロック数は、演算処理能力を示すハッシュレートに比例するため、マイニングされたブロック数が最高のマイナーであるFoudry USAのハッシュレート値が59043.31PH/sと最も高い(図表2青枠)。

図表2
図表2

さらに、マイニングした報酬としてマイナーが受け取る暗号資産について、どのPOWマイナーがいつどのくらいの報酬を得ているのかを確認できる。図表3赤枠の報酬は6.286BTCとなっているため、1BTC=282万円(図表1のBTCの円換算価値)から計算すると、マイナーであるBinance Poolが他のマイナーとの計算競争に勝利し、2022年10月2日に約1,770万円の報酬を得たことがわかる。

図表3
図表3

また、POWマイナーが対象とする暗号資産はビットコインにとどまらない。時価総額21位に位置するライトコイン(図表1のランキング21位)を事例としてPOWマイナーの動向を確認してみよう。

マイニング手法としてPOWを採用するライトコインは、ビットコインと同様に多くのコンピューター資源を利用するマイナーが、暗号資産の取引履歴が正当であるかを検証することにより、報酬として暗号資産ライトコインを得ている。ライトコインのマイナー全体のハッシュレートは、2012年9月時点で約300MH/s(MHは1秒間に100万回の演算速度)だったものが、2022年9月時点では約474TH/s(THは1秒間に1兆回の演算速度)とその演算速度能力を向上している(注3)。

ライトコインを報酬として得ているマイナーの活動状況をみていくと、マイニングの報酬として獲得される暗号資産は、ハッシュレートの能力と比例している。2022年10月2日時点における過去3日間のマイナー統計情報によれば、3日間でマイニングされた数は1,700ブロックとなっており、その内訳としてランク首位のマイナーは、507ブロック、2位は299ブロック、3位は278ブロックと続く(図表4赤枠)。マイニングされた結果の数は、コンピューター資源の大きさであるハッシュレートと比例するため、ハッシュレートの演算速度能力は、ランク首位のマイナーが70.00TH/sと最も高い(図表4青枠)。

図表4
図表4

3.暗号資産の取引履歴の番人

以上みてきたように、POWマイナーは、暗号資産の報酬を得るために他のマイナーよりもいち早く暗号資産の取引履歴が正当であるかを検証するために、多くのコンピューター資源を準備することによりハッシュレート値を向上させ、マイニング競争を勝ち抜いていることがわかる。

ビットコイン登場と同時に開始されたPOWマイナーの活動は、暗号資産の価値高騰に伴い、その参加者数は増加の一途をたどっている。POWマイナーは、多くのコンピューター資源を利用することに伴う電力消費量問題が取り沙汰されたり、マイニング作業の対価として得られる暗号資産の報酬からコンピューター代金や電気代金を差し引いた実質的な利益がいくらになるかなどの課題がある。一方、マイニングに参加するために暗号資産を保有していなくても、コンピューターがあれば誰もがマイナーになれるメリットがある。

このような、POWマイナーが取引履歴の正当性を検証する作業報酬として暗号資産を受け取れるPOWマイニングのインセンティブ設計は、2009年に登場した暗号資産市場を全世界に普及させ、また、その市場規模の拡大に貢献している成長エンジンといえるだろう。さらに、POWマイナーのマイニング行為が暗号資産の取引履歴の信頼性を担保することは、個人が暗号資産を安心して保有し取引できる環境の提供につながっている。

POWマイナーはPOW暗号資産を維持するために必要不可欠なキープレイヤーといえ、また、今後も暗号資産がマイニングの報酬として支払われる限り、マイニング活動は継続されるだろう。POWマイナーが、10年以上継続して報酬を得ながら、暗号資産の取引台帳を維持している仕組みは、オープンな暗号資産の取引履歴を記録として維持・継続するために創りだされた、ボーダーレスな信頼性を担保する持続的な仕組みといえるだろう。国境を超えてオープンな流通が可能な暗号資産にとってPOWマイナーは、暗号資産の取引履歴を支える番人といえるのではないだろうか。

【注釈】

  1. 暗号資産GXの衝撃~POSがもたらす暗号資産グリーン化の潮流~
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/203077.html
  2. BTC.com HPより
    https://explorer.btc.com/btc/insights-hashrate
  3. BTC.com HPより
    https://explorer.btc.com/ltc/insights-hashrate

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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