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暗号資産GXの衝撃

~POSがもたらす暗号資産グリーン化の潮流~

柏村 祐

目次

1.暗号資産の環境問題

地球温暖化や森林破壊、海洋汚染など地球規模の環境問題への対応が世界中で活発化する中、暗号資産の採掘が引き起こす膨大な電力使用が、地球環境に悪影響を及ぼす要因の1つとして注目されている。

米国ホワイトハウスは、2022年9月8日に公表した「米国における暗号資産の気候とエネルギーへの影響」の中で、暗号資産がもたらす環境に及ぼす悪影響について言及している。暗号資産は、相当量の電力を使用し、その結果、温室効果ガスの排出や、採掘施設周辺に住む地域社会への汚染、騒音、その他の地域的影響をもたらす可能性があり、また、技術のエネルギー集約度と使用される電力源によっては、暗号資産の急速な成長は、カーボンニュートラルを達成するという米国の気候変動に関する公約を果たすための幅広い努力を阻害する可能性があるという内容であった。

暗号資産による世界の年間電力使用量は急速に増加し、2022年の年間電力消費量が2018年の2~4倍になると推定されている。2022年8月現在、公表されている暗号資産の世界総電力使用量の推定値は、年間1,200億~2,400億キロワットであり、アルゼンチンやオーストラリアなどの一国の年間総電力使用量を上回る。これは、世界の年間電力使用量の0.4%~0.9%に相当し、世界中のすべての従来型データセンターの年間電力使用量に匹敵する(注1)。

この暗号資産の電力使用問題は、マイナー(暗号資産の採掘事業者)によって引き起こされている。マイナーは、競合する他のマイナーよりもいち早く暗号資産の取引履歴が正当であるかを検証することにより、その報酬として暗号資産を得ている。このような仕組みは、コンセンサスメカニズム(暗号資産のブロックを追加する際の合意方法)の1つであるPOW(プルーフ・オブ・ワークの略)とよばれ、ビットコインやイーサリアムのブロックチェーンで利用されている。これにより多くのコンピューター資源を利用するマイナーが現れ、暗号資産の報酬を目当てとする熾烈なマイニング競争が繰りひろげられている。

このような暗号資産がもたらす環境問題が顕在化する中、その解決策として電力使用量を現在のレベルの1%未満に大幅に削減できるPOS(プルーフ・オブ・ステークの略)というコンセンサスメカニズムが注目されている(注2)。本稿ではPOWやPOSのメカニズムを概観しつつ、暗号資産におけるGX(グリーントランスフォーメーションの略)の現状について考察する。

2.POWからPOSへの潮流

暗号資産のコンセンサスメカニズムにはPOWや POSが存在し、それぞれが独自の特徴をもつ。例えば、POWの長所は、2009年に誕生したビットコインや2014年に誕生したイーサリアムの安全性と分散性を維持してきたことであり、試行錯誤の末に完成したメカニズムである。一方短所として、マイナーは暗号資産の取引履歴の正当性を検証し承認する作業を最も速く解くために、多くのコンピューター資源を利用する必要があるため、大量の電力を消費することが挙げられる(図表1)。

図表1
図表1

これらのPOWの利用に伴う電力使用量問題の解決策としてコンセンサスメカニズムPOSは創造された。POSは、多くのコンピューター資源を利用しないマイニング手法であることから、エネルギー消費量は大幅に削減される。POS暗号資産におけるマイナーは、POWのような多くのエネルギーを必要とせず、また、新しいブロックを生成するために高価なハードウェアは必要としないため、エネルギー効率の向上、参入障壁の低下、ハードウェア要件の削減など多くの点で環境にやさしいコンセンサスメカニズムである(図表2)。

図表2
図表2

既に、環境にやさしいコンセンサスメカニズムであるPOSを利用する暗号資産が登場している状況であり、現存する「POS暗号資産」を確認すると、2022年9月上旬時点で74種類、時価総額100位以内にランキングされているものが6種類ある(図表3)

図表3
図表3

また、時価総額2位のイーサリアムは、POWがもたらす環境への悪影響を踏まえ、2022年第2四半期までにコンセンサスメカニズムをPOSへ移行するプロジェクトを公表している(通称「マージ」)。イーサリアムのコンセンサスメカニズムをPOSに移行する事前準備として、既にメインネットとは異なる「ビーコンチェーン」を稼働させている。現在POWに基づいて稼働しているメインネットは将来的には「ビーコンチェーン」に統合され、POSに完全移行を予定している(図表4)。既に稼働している「ビーコンチェーン」の実績からの予測によれば、POWからPOSへの移行により、イーサリアムのエネルギー使用量は99.95%削減されると試算されている(注3)。

図表4
図表4

3.暗号資産のGX

以上みてきたように、環境にやさしいコンセンサスメカニズムであるPOSを採用する暗号資産が存在しており、また、イーサリアムがPOWからPOSに移行することを確認できた。特に、暗号資産の王者ビットコインに次ぐ時価総額2位のイーサリアムのコンセンサスメカニズムがPOWからPOSに移行することは、暗号資産業界におけるグリーン化の潮流が高まっていることを示唆している。

2009年にビットコインが登場し、約13年が経過した今、暗号資産全体の時価総額は、2022年9月上旬現在、約140兆円に達している。このように急速な発達を遂げてきた事実を暗号資産の「光」とするならば、多くの電力消費を伴うコンセンサスメカニズムは、暗号資産の「影」の部分といえるだろう。その解決策として活用されるPOSは、「暗号資産GXの大本命」なのではないだろうか。

金融決済システムのデジタルイノベーションとして台頭する暗号資産は、既に地球規模に浸透しており、さらなる持続可能性を確保するためには、その普及が環境に与える影響を十分に考慮し、電力使用量削減を実現することが必要となるだろう。

法定通貨の信用の源泉を国家とするならば、暗号資産の信用の源泉はシステムである。その中核を担うコンセンサスメカニズムであるPOSは、暗号資産GXの取組みを推進する意味でも必要不可欠なエンジンであり、暗号資産と地球環境の共存につながるイノベーションといえるであろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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