コロナ禍3度目の夏

~対面・黙食・オンライン、家族それぞれの交流の形~

北村 安樹子

目次

1.全国的な行動制限が行われない中で迎えた夏

コロナ禍が始まってから3度目となる夏が終わり、今年もお盆の時期を中心に、帰省や旅行、外出など、人の移動の動向が注目された。

近年では多様な働き方をする人が増え、休暇取得や交通・施設の利用状況に関し、以前に比べれば分散化が進んでいる。それでも、この時期に行われるお墓参りや帰省・旅行を通じて、家族・親族や友人と交流する機会をもとうとする意識には根強いものがある。

コロナ禍以降、政府による行動制限が行われないなかで迎えたこの夏のお盆期間は、オミクロン株のBA.5系統を中心とする新型コロナウイルスの感染者数が高止まりして、地域の医療提供体制への負荷が高まっているとの報道が続くなかで迎えることとなった。政府も国民に社会経済活動と感染対策の両立への協力を呼びかけ、地域によってはこれまでの対策の徹底や新たな対策への協力をあらためて求める動きもみられた(注1)。このため、旅行や帰省、外出した人も、それらの人を迎えた人も、感染対策を行いつつ、この夏を過ごしたケースが多かったのではないだろうか。

2.家族の会食機会としての「お盆」

コロナ禍が生じる前の2016年1月に行われた当研究所の調査では、全国の人口10万人以上の都市に夫婦2人で暮らす60~70代の男女が、別居する子や孫と食事をした機会として「お盆」をあげた割合は2割強だった(図表1)。限られた地域のデータであり、直近1年の経験をたずねたため暦等が影響した可能性もあるが、別居する家族が食事をする機会としては、半数超があげた「年末年始」に比べややマイナーな機会となっている(注2)。

ふだんから会う機会がある場合には、休暇やお盆は各々の家族や個々人で過ごし、お墓参り等をしても食事まではしないことも多いのだろう。実際、「お盆」や「年末年始」をあげた人の割合は、「ふだんの食事」を共にする機会があると答えた人に比べ、ないと答えた人で高い(図表省略、注3)。これらの機会は、子や孫が遠くに住んでいる場合や、近くに住んでいてもふだんは会う機会が少ない場合の方が、家族が会って食事をする機会になりやすいと考えられる。

図表1
図表1

3.対面・黙食・オンライン、家族それぞれの交流の形

今回のお盆は、この調査が行われたコロナ禍前とは状況が異なっていた。全国的な行動制限は行われなかった一方で、政府や自治体の呼びかけに基づく感染対策を行って移動した人や対面機会をもったケース、どのように過ごすかを家族・親族で話し合ったケースも多かったと考えられる。感染者の増加が続いていた地域、重症化しやすい人や感染への不安が強い人がいる場合には特に、感染予防をより強く考慮する必要があっただろう。それゆえ、子や孫と会うことや、ふだんは別々に暮らす家族・親族が集まることを控えた人も多かったのではないだろうか。

お盆期間中に国内で行われた人々の中・長距離移動にかかわるデータには、昨年よりは活発に移動・外出が行われたことを示すものもみられる(注4)。だが、それらの結果をふまえても、この夏、お盆の時期に子や孫と食事を共にしたシニア世代は、コロナ禍前に比べれば少なかったのではないだろうか。

感染予防を意識せず会話や食事を楽しんでいたコロナ禍前とは異なり、会っても食事を控えたケース、いわゆる「黙食」など食事のとり方を工夫したケース、オンラインを活用したケースなど、さまざまな家族の交流の形があっただろう。食事を共にすることはなくても、マスク越しの会話や会話を交わさずに過ごす時間を、特別な思いで迎えたケースもあったのではないか。

この夏、様々な理由、形式で対面の機会をもった人、控えた人とも、感染者数が再び落ち着くことを願いながら、事態を見守っている人は依然多いと思われる。食事を共にすることによるシニア世代と子や孫との交流も、コロナ禍を背景に様々な変化を受け入れながら、新たな形へと進化していくのではないだろうか。

【注釈】

  1. 7月頃からの感染者数の急増を受けて、政府は地域の医療に一定以上の負荷の増大が認められる都道府県が、BA.5対策を強化して地域の実情に応じて住民や企業に独自の協力要請を求める場合に、連携・調整等に関する支援を行うことを決めた。この対策に基づく「BA.5対策強化宣言」を行った地域は、北海道、宮城県、秋田県、福島県、栃木県、埼玉県、千葉県、神奈川県、新潟県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、鳥取県、岡山県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県。一方、東京都や島根県など、この枠組みを利用しない形で、住民や企業等にあらためて感染対策の徹底への協力を呼びかけた地域もある。
  2. 2015年夏の8月13日~15日は木曜日~土曜日、年末年始は12月31日が日曜日で、「年末年始」の方が大型連休になりやすい暦の並びだったとは必ずしもいえない。
  3. 孫がいる人、子どものいない成人子がいる人とも、「ふだんの食事」を共にする機会がないと答えた人の方が、あると答えた人に比べこれらの機会をあげた人の割合は高い。ただし、「ふだんの食事」を共にする機会があると答えた人においても約2割が「お盆」、半数以上が「年末年始」をあげ、子や孫が比較的近い生活圏に住む場合にも、これらの機会に食事を共にする人が一定の割合を占める傾向を確認できる。
  4. 高速道路、航空、JR各社のお盆期間の交通・利用状況に関するプレスリリース資料等を参照。なお、これらは主に都市部から地方等への帰省・旅行にかかわる移動状況を示すものであり、各圏域内での家族の交流・対面状況や移動の詳細を捉えたものではない。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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