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AIアーティストの衝撃

~アート技術の汎用化がもたらす意味~

柏村 祐

目次

1.AIアーティストの登場

AIが絵を描く能力が著しく高まっている。

筆者は、過去に執筆したレポートで、従来、人が担ってきた作業をAIが代替しつつある現象について具体的に解説してきた。そのようなAIによる代替は、外国語を翻訳すること、文章を書くこと、コンピュータープログラムを書くことなど、さまざまな分野に拡大している(注1)(注2)(注3)。

進化し続けるAIは、これらにとどまらず、より高度な技術が必要なアートの分野にも利用が進んでいる。AIが絵を描く仕組みは以前から存在していた。例えば、2018年10月に世界発のAIアートとしてオークションに出品された「Edmond de Belamy」と呼ばれる肖像画がある。このAIアートは、オークションの予想落札価格が7,000ドルから10,000ドルであったにもかかわらず、実際は432,500ドルと予想価格の数十倍で落札され、AIアーティストの存在を世界中の人が知るきっかけとなった(注4)。

それから約4年が経過した現在、AIの技術進歩により、AIアーティストにより生成される絵は、人のアーティストが描いたものなのか、AIアーティストが描いたものなのか判別できないレベルにまで高まっている。

本稿では、これらの高度なAIを活用するAIアートの実力を概観し、その可能性を考察する。

2.AIアーティストの実態

AIアーティストとは、AIの進歩により、人が描いた絵と同様の品質を生成してくれるソフトウェアを意味する。AIアーティストがAIアートを生成する方法は、「文章入力に基づくAIアート生成」と「写真に基づくAIアート生成」に大別される。「文章入力に基づくAIアート生成」は、自分のアイデアや創造したいものを、Web上に展開されるAIアーティストの入力フォームに文章として記載すると、AIアートを生成してくれる仕組みである。また、「写真に基づくAIアート生成」は、既に存在する写真に基づいて、プロのアーティストが描いたような画風に変換してくれる仕組みである。

まず、最初に「文章入力に基づくAIアート生成」を行うAIアーティストがどのようなAIアートを生成してくれるのかを確認してみよう。実際にAIアーティストの入力フォームに「artistic cool dog on the hill(芸術的な丘の上にいるかっこいい犬)」と入力すると、数秒で丘にいるかっこいい犬が複数生成された(図表1)。事前にWeb操作画面で、出力する画像の大きさや、一度にAIアートを何個創るかの指示を行うことができる。さらに、どのような画風にするかについても、操作画面で複数候補の選択肢から選べる仕組みが展開されており、誰もが簡単に自分の嗜好にあわせて、AIアートを作成できる。

図表1
図表1

次に、「写真に基づくAIアート生成」を行うAIアーティストがどのようなAIアートを生成してくれるのかを確認してみよう。今回は、筆者自身で用意した猫の写真に基づいて、ゴッホ風のスタイルを選択し、AIアーティストに作成指示を与えて生成を試みた。生成されたAIアートは、人のアーティストが描いた猫の絵といっても過言ではないレベルにあると思われる(図表2左)。また同様に、風景写真を基にして、AIアーティストにインパスト技法(絵の具を盛り上げて厚く塗る絵画技法)による作成指示を出した結果、これもまた人アーティストが描いたといってもわからない風景画が生成された(図表2右)。

図表2
図表2

3.AIアーティストの意味

以上みてきたように、AIアーティストは、自分が描きたい絵の内容を文章で入力したり、AIアートに変換したいと思う写真をもとにして、人が描いたような絵画を瞬時に生成する。また、これらのAIアーティストは、画像としてAIアートを生成するだけではなく、生成されたAIアートを印刷した上で物理的な額縁に収めて自宅まで発送してくれたり、昨今話題となっているNFTとして発行し、世界に向けて販売する仕組みなども備えており、新たなビジネスとして注目に値するものとなっている。

AIアーティストは、誰もが簡単な操作で品質の高いアートを生成することができる世界を創り出している。この事実は、「アート技術の汎用化」が進んでいることを意味するだろう。

実際、コロラド州が運営する美術展に2022年8月26日から展示されたAIアート「Théâtre D'opéra Spatial(日本語訳は「スペースオペラ劇場」)」が、デジタルアート部門で優勝をしている(注5)。その作者は、優勝が決まった後にSNS上で、AIアーティストを利用し作品を創ったことを公表している。このようなAIアーティストによる作品が優勝した事実は、作品を評価する審査員が人間のアーティストが描いた絵なのか、AIアーティストが描いた絵なのかを判断できないほど、AIアーティストによる作品のレベルが高かったといえるのではないだろうか。

AIアーティストによる「アート技術の汎用化」は、絵を描くことが得意な人や一部のアーティストの特別なスキルに依存しなくても、誰もが描きたい風景・人物や空想を表現できるツールとなっており、アートの世界の革新的な拡がりにつながる可能性がある。

AIの進化は、AIアーティストの分野にとどまらない。従来、人が苦労してきた外国語の翻訳、文章作成、コンピュータープログラム作成など、さまざま分野において、AIにより代替される未来が刻一刻と迫っている。このようなAIの進化がもたらす現実を直視し、「人にしか生み出すことができない価値」とは何かを自分自身の頭で考え、実践する力が試される時代がすでに始まっているのではないだろうか。

【注釈】

  1. AIライターの衝撃~文章を自動生成してくれる現代の魔法~
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/200508.html

  2. AIプログラマーの衝撃~書き言葉でプログラミングを自動生成してくれる現代の魔術~
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/200861.html

  3. AI翻訳の衝撃~外国語の読み書きが苦手なあなたへ贈る現代の魔法~
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/202769.html

  4. CHRISTIE'SHPより
    https://www.christies.com/lot/lot-6166184/?hdnSaleID=27814&LN=363&intsaleid=27814&sid=41bfe836-b0c1-4afa-9298-09cc909345ee

  5. Colorado State FairHPより
    https://coloradostatefair.com/wp-content/uploads/2022/08/2022-Fine-Arts-First-Second-Third.pdf

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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