デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

「Move To Earn暗号資産」の衝撃

~散歩で稼ぐ暗号資産の可能性~

柏村 祐

目次

1.「ゲーム仮想通貨」から派生した「Move To Earn暗号資産」

暗号資産はインターネット上でやりとりできる通貨であり、筆者はこれまで様々な特徴を持つ暗号資産についてレポートしてきた。「ゲーム仮想通貨」もその1つだ(注1)。「プレイすることでお金が稼げるゲーム」を意味するゲームファイ(ゲームとファイナンスを組み合わせた造語)の登場により、暗号資産をゲームの報酬として得られる世界が創り出され、従来ゲームに興味がなかったユーザーが参加するきっかけにもなっている。

この「ゲーム仮想通貨」に類似したものとして、身体を動かすことで得られる「Move To Earn暗号資産」が登場している。これは、屋外で散歩やジョギングなどをすることにより報酬として得られる暗号資産で、ゲーム性を兼ね備えている。本稿では、この「Move To Earn暗号資産」の現状とその可能性について考察する。

2.散歩して得られる暗号資産

現存する「Move To Earn暗号資産」を確認すると、2022年4月上旬時点で8種類、時価総額1,000位以内にランキングされているものが4種類ある(図表1)。

図表 1 時価総額ランキング 1,000 位以内に位置する「Move To Earn 暗号資産」
図表 1 時価総額ランキング 1,000 位以内に位置する「Move To Earn 暗号資産」

例えば、時価総額72位に位置するSTEPNは、散歩、ジョギング、ランニング等を行うことで暗号資産を得られるスマートフォンアプリを提供しており、その利用者数は1日あたり20万人に達している(注2)。STEPNは、「動く」ことを価値の中心に据え、人々をより健康的なライフスタイル導くような、長期的なプラットフォームを構築することを目指している(注3)。

具体的には、アプリがインストールされたスマホを身につける、散歩、ジョギンク、ランニング等を行うと、その報酬として暗号資産を得ることができる。また、STEPNでは、参加者が動いた距離、動いたことによる二酸化炭素の排出量削減効果、消費カロリー、SNS参加者数の状況がリアルタイムで表示されるなど、世界中の参加者の行動結果が可視化されている(図表2)。

同様の似ている仕組みにウォーキングアプリがあるが、それとは異なる点として、ジョギング等の報酬として得られた暗号資産を利用して、STEPN上のNFTスニーカーと呼ばれるデジタルなスニーカーをレベルアップできるという、ゲーム的な要素が導入されていることが挙げられる。NFTスニーカーは物理的なスニーカーではなく、自分自身のスマートフォンで管理するデジタルなものだ。また、自分自身の散歩、ジョギングなどの実績結果がわかりやすく画面上に表示され、活動履歴をSNSで共有し、その内容にコメントできるため、物理的に離れていてもSTEPN利用者同士がつながっている感覚を持てる。

図表 2 リアルタイムに可視化される STEPN の情報
図表 2 リアルタイムに可視化される STEPN の情報

実際の利用手順は以下の通りである。最初にフィットネスレベルに合わせたNFTスニーカーを選択し、STEPNが展開するマーケットプレイスで自分好みのスニーカーを探す。外にでる際には、現物のスニーカーを履き、NFTスニーカーは、スマートフォン上で「履く設定」にする。フィットネスレベルは「散歩」、「ジョギング」、「走る」、「トレーナー」向けの4段階に分かれており、それぞれのNFTスニーカーは利用目的によって使い分けが可能となる。屋外で自分の体調に合わせて、好みのNFTスニーカーを装備し、散歩やジョギングをすれば、報酬として暗号資産を得ることができる。実際に動いているかはGPSによってアプリでモニタリングされ、不正に報酬を得られない仕組みが導入されている。

更に、購入したNFTスニーカーを他人に貸し出すことも可能となっている。NFTスニーカーを借りた人は、散歩、ジョギング、ランニング等を通じて得られる暗号資産STEPNの3割を、貸した人は7割を報酬として受け取れる仕組みが導入されている(注4)。

STEPNの価値は、2022年3月上旬に17.1円であったが、その人気の高まりをうけ、2022年4月上旬現在約283円と上昇しており、注目が集まっていることがうかがえる(図表3)。

図表 3 STEPN の価格チャート
図表 3 STEPN の価格チャート

次に、暗号資産の時価総額598位に位置するGenopetsの内容を確認してみよう。Genopetsも、健康につながる「動く」ことを価値の中心に据えた世界を提供している。無料で始められるスマートフォンアプリを利用するが、この中でデジタルペットであるNFTペットを飼育する仕組みとなっている。NFTペットは、実在しない動物の形をしており、自分だけが飼育する1点ものである。アプリはGPSで管理され、自分自身が屋外で行動することにより報酬として経験値(ゲームをすることで得られる経験を数値化したもの)を得ることができ、それが増加するにしたがって、自分のNFTペットは成長していく。NFTペットの成長過程として、赤ん坊、幼少期、大人、神獣が設定されており、成長するほど勇ましい姿に変身し、その市場価値は高まっていく。成長したNFTペットは市場で売買することも可能だ。つまり、家の外に出て、歩いたり、ジョギングするといった健康的な行動がNFTペットの成長につながり、最終的にはNFTペットを売却することにより、暗号資産Genopetsを報酬として得ることができる。また、「ハビタット」と呼ばれるアイテムを購入すれば、NFTペットを早く進化させたり、多数のNFTペットを飼うことができるといった遊びの要素が至る所にちりばめられている。

暗号資産Genopetsは、2022年3月上旬に947円であったが、2022年4月上旬現在約1,393円の価値で推移している(図表4)。

図表 4 Genopetes の価格チャート(2022 年 4 月 12 日現在)
図表 4 Genopetes の価格チャート(2022 年 4 月 12 日現在)

3.「Move To Earn暗号資産」の可能性

以上みてきたような「Move To Earn暗号資産」がもたらす価値は何だろうか。

筆者は、それを「地球規模の健康づくりの場」であると考える。健康づくりのために多くの人は散歩やジョギングを行ったり、スポーツクラブに通ったりしているが、「Move To Earn暗号資産」の場合、体を動かすことが好きな人はもちろん、体を動かすのが苦手な人に対しても、ゲームファイの要素を取り入れることにより、楽しみながら「健康」と「暗号資産」を得られる場を提供している。

本稿で紹介した「Move To Earn暗号資産」は、インターネット上で流通するという暗号資産の利便性を生かし、スマートフォン1つで、「健康」と「暗号資産」により国境、人種、性別、年齢を超えて世界中の人とつながるという新しい価値を体験できる。「Move To Earn暗号資産」は、普及しつつある暗号資産と、誰もが関心を持つ「健康」、夢中になれる「遊び」の3つの要素を巧みに組み合わせた新しい仕組みと言える。

コロナ禍により、在宅勤務が増え屋外に出る機会が減っている人も多いだろう。日本でも「Move To Earn暗号資産」を取り扱える仕組みが整えば、それは、楽しみながら「健康」と「暗号資産」を得られる場となり、一人ひとりの健康増進に一役買うツールになる可能性もあるのではないだろうか。

ただ日本においては、暗号資産は未だ一部の人が取り扱うものであり、広く浸透していない。一方、欧米では、報酬として得た「Move To Earn暗号資産」を暗号資産取引所でドルやユーロなどに交換する仕組みが用意され、簡単に法定通貨に交換できる。今後、日本においても「Move To Earn暗号資産」の登場が予想されるが、法定通貨と交換が可能な暗号資産として、発行事業体の信用力確保や適正な課税などの法整備が求められるだろう。

「Move To Earn暗号資産」は、「健康」と「暗号資産」を結び付けた新しい価値を提供しており、本稿で紹介した事例にとどまらず、今後様々な「遊び」の要素を充実させ、生活者が夢中になれる体験価値を提供していくであろう。「Move To Earn暗号資産」の利用機会が増加し、自分自身の嗜好に合わせて活用可能な「地球規模の健康作りの場」が拡大することで、経済や生活へのポジティブな効果がもたらされる可能性もあるのではないだろうか。


【注釈】

1)暗号資産「ゲーム仮想通貨」の衝撃~あなたの知らないゲームの世界でやりとりされる暗号資産の話~「https://www.dlri.co.jp/report/ld/179415.html

2)STEPEN HPより「https://stepnofficial.medium.com/stepn-pushes-the-frontiers-of-web3-in-fitness-a8d8bbb0ee2a

3)STEPEN HPより「https://whitepaper.stepn.com/

4)STEPEN HPより「https://stepn.com/litePaper

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ