デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

ウクライナ「ゲーム寄付」の衝撃

~85億円が集まるゲームと寄付がつながる世界~

柏村 祐

目次

1.ゲームを通じた寄付

ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、世界中からウクライナへの寄付が拡大している。

寄付については様々な形態があるが、筆者は以前執筆したレポートで、暗号資産によるウクライナへの寄付について解説している(注1)。従来の常識では暗号資産による寄付など考えられなかったが、今や「ゲームを通じた寄付」まで登場している。

ゲームを通じたウクライナへの寄付は、「特定期間のゲーム収入を寄付するケース」と「ゲーム会社が一定の金額を寄付するケース」に分類される。「特定期間のゲーム収入を寄付するケース」とは、ゲームの事業運営主体が定めた特定の期間における収入をウクライナに全額寄付することを意味する。また、「ゲーム会社が一定の金額を寄付するケース」とは、ゲームの事業運営主体が、事前に会社が決めた金額を寄付することを意味する。本稿ではこれらのゲーム寄付の現状を確認し、今後の可能性について考察する。

2.ゲームを活用する寄付事例

「特定期間のゲーム収入を寄付するケース」の事例として、筆者が実際にプレイしたことがある大手オンラインゲームの取り組みが挙げられる。このゲームは、2020年5月7日時点の登録プレイヤーが3億5,000万人存在する巨大なオンラインゲームである(注2)。大手オンラインゲームの世界は、無料で取得できるツールを駆使しながら十分楽しめるものの、有料のツールを購入(課金)することも可能である。

このオンラインゲームの運営事業体は、2022年3月20日から2022年4月3日までの収入のすべてを、ウクライナでの戦争の影響を受けた人々の人道的救済に充てることを表明している。この運営事業体は、支援する人道支援団体として国連児童基金、国連世界食糧計画、国連難民高等弁務官事務所などを挙げている(注3)。その結果、2022年3月20日から開始されたこのオンラインゲームにおける収入は、2022年3月26日時点で7,000万ドル(約85億円)に達している(注4)。

また別の「特定期間のゲーム収入を寄付するケース」の事例を見て行こう。ある大手ゲーム販売会社では、複数のゲームを一つに束ねる形式で販売し、その収入をウクライナの人道支援に寄付している。2022年3月7日から開始された「Bundle for Ukraine」と呼ばれる寄付活動では、総額6,500ドルの価値がある約1,000のゲームが1つに束ねられ販売された。最低寄付額は10ドルに設定されており、そこに集まった収入は慈善団体に寄付される(注5)。2022年3月7日に開始された「Bundle for Ukraine」は、2022年3月18日に終了しており、目標600万ドルに対して、449,617人の寄付者から637万ドル(約7.7億円)を募る結果となっている(図表1)。

図表 1 Bundle for Ukraine の寄付結果
図表 1 Bundle for Ukraine の寄付結果

一方、「ゲーム会社自らが決まった金額を寄付するケース」は、従来からある企業の寄付の1つの形態だが、大手のゲーム会社が次々とウクライナへの人道支援を表明しており、その規模は各社数十億円規模となっている。

3.ゲームを通じた寄付が創り出す世界

以上みてきたように、ゲームを通じたウクライナへの寄付の方法は、「特定期間のゲーム収入を寄付するケース」と「ゲーム会社自らが決まった金額を寄付するケース」が存在する。

これらのゲームを通じたウクライナへの人道支援から導き出された価値とは何だろうか。筆者は、それを「特定期間のゲーム収入を寄付するケース」にあると考える。「特定期間のゲーム収入を寄付するケース」は、世間から注目を集め、短期間に多額の寄付を集めるだけでなく、ゲームをしている利用者が寄付に貢献している実感も得られる。実際に短期間で85億円を集めたゲームの事例はそれを象徴しているものであろう。

つまり、「特定期間のゲーム収入を寄付するケース」は「三方よしの共感の世界」を創り出しているのではないか。ここでいう三方よしとは、ウクライナは寄付を受けられ、寄付者である利用者は娯楽を通じてウクライナに貢献できる、ゲームを運営する事業運営主体は公共性のある会社として世界に認知されるという効果である。

ゲームといえば娯楽や遊びといったイメージを持つ人は多いが、今回確認できた事例から、ゲームは寄付による三方よしの世界を創り出している。ゲームの世界がウクライナに貢献する仕組みは、一見寄付とは遠いと思われるゲームの世界が、ウクライナ支援と結び付いた取り組みといえる。「ゲーム寄付」が実現している「三方よしの共感の世界」は、地球規模の共助につながる取り組みであり、今ウクライナで苦しむ人に寄り添うことにつながる。

社会の公器である企業自らが、今後業態を問わずウクライナ支援のために「三方よしの共感の世界」を創り出すことは、社会貢献とその活動に対する消費者の共感を得られる意義のある機会となるのではないだろうか。


【注釈】

1)ウクライナ「暗号資産寄付」の衝撃~ウクライナ財政支援に活用される仮想通貨寄付~「https://www.dlri.co.jp/report/ld/183780.html

2)twitter HPより「https://twitter.com/FortniteGame/status/1258079550321446912

3)Epic Game HPより「https://www.epicgames.com/fortnite/en-US/news/support-humanitarian-relief-for-ukraine

4)twitter HPより「https://twitter.com/FortniteGame/status/1506380550906564615

5)itch corp HPより「https://itch.io/b/1316/bundle-for-ukraine

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ